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「シン・エヴァ」興収100億円到達「おめでとう」 伝説ずくめの偉業

河村鳴紘サブカル専門ライター
「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の公式サイト

 3月8日に公開されたアニメ映画「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の興行収入がついに大台となる100億円を突破しました。作品の出来もそうですが、プロモーションも含めて手を打った努力が結実。テレビアニメ最終話のように「おめでとう」と拍手したくなるのではないでしょうか。伝説ずくめの偉業について振り返ります。

◇最後までファンの予想裏切る「らしさ」

 一つ目は、95年のテレビ放送から四半世紀をかけながらも、キッチリ最後まで見せたことでしょうか。

 世界の人口が激減した西暦2015年の第3新東京市を舞台に、内気な14歳の少年・碇シンジが、ロボットのような人型兵器「エヴァンゲリオン」を操縦して、人類を襲う謎の生命体「使徒」と戦う……という物語。ストーリーから演出まで、当時のアニメとしては斬新すぎる手法が用いられ、さらに25話と26話ではそれまでの流れをぶったぎり、延々と心理描写のような内容が展開されて、ファンの間で大激論になりました。

 テレビ版の決着をつけるべく公開されたはずの旧劇場版では、当時のファンが茫然とする内容。そこから再構成された新劇場版シリーズ4部作が2007年から公開されて、当初の予定から延びに延びて「14年」かけて幕を下ろしました。

 シリーズ4部作最後の「シン・エヴァ」ですが、これまでと違い丁寧な説明が多く、旧劇場版との違いに戸惑うほど(笑い)。全部の謎は回収したか?といえば違うかもしれませんが、周囲を巻き込んだ長い「親子ゲンカ」の決着がついてスッとしたのも確かです。また真の“ヒロイン”に賛否両論はありましたが、意表を突くのは間違いなく、それもまた最後までファンの予想を裏切る「エヴァらしさ」と言えるのでないでしょうか。

◇興収は全部前作超え

 二つ目は、新劇場版シリーズの盛り上がりです。興収ですが「序」は20億円、「破」は40億円、「Q」は53億円。全部前作超えです。「ホップ」「ステップ」「ジャンプ」から、さらにここまでの「スーパージャンプ」になるとは思いませんでした。

 アニメ映画では、直近で興収400億円という金字塔を打ち立てた「鬼滅の刃」があるため、どうしても比較されますが、「鬼滅の刃」は結果として広い層を取り込んだ作品で、その差は仕方ないでしょう。特定層(純粋なアニメファン)をターゲットにした作品で、ここまで上り詰めたのは驚異的ですし、さらに言えばアニメファンが増え、ファンの多さをバックに社会的に受け入れられている背景もあると思います。シリーズ4部作の興収の推移だけでもすごみを感じます。

 そもそも、今回の劇場版シリーズ4部作は、ある意味リメーク的な流れにあります。完全新作でないのに、ここまで大ヒットするわけです。コンテンツのリメークやリブート(再起動)に、大きな可能性があることを明示しているようにも見えます。

◇公式からネタバレのお願い

 三つ目は、情報がだだ漏れになるネットで、ネタバレを防ぐためにファンが自ら作り上げた「かん口令」の空気です。鑑賞してない人の驚きを奪わないようにする多くの人の配慮。その空気は、テレビドラマでネタバレ的な記事を連発するメディアにすら影響力を及ぼしたように見えたほどでした。

 公開2週間後には、しびれをきらした公式ツイッターがわざわざ「今後はぜひ、皆様からのご感想を聞かせてください!」と書き込むほどでした。他作品で公式からネタバレのお願いをすることが、今後あるとも思えません。

◇「仕事の流儀」で作品の裏見せる

 四つ目は、アニメ本編だけではなく、NHK番組「プロフェッショナル 仕事の流儀 庵野秀明SP」を含めて、一体になっている感すらあることです。

 同番組は、アニメ映画公開の2週間後の3月22日に放送されました。制作時の苦労、思いだけでなく、テレビアニメ版と旧劇場版のときに庵野さんに向けられたネットの攻撃まで明かされていました。旧劇場版の心をざわつかせる内容は、庵野さんとの心理状態を反映していることが、番組の視聴者に伝わりました。この事実にショックを受けた人も多かったのではないでしょうか。

 そして、「シン・エヴァ」で一度作りかけたのに、納得できず、何度もやり直す様は、鬼気迫るものがありました。番組冒頭の「この男に安易に手を出すべきではなかった」というNHKのモノローグは、言いえて妙でした。別視点を加えることで、エヴァのすごみが引き立つのですね。

◇せめぎ合う「終わった」と「次は…」

 振り返ると、他作品にない怒涛(どとう)の展開でした。発表されたことが変わるのが当たり前でした。もちろんそれだけ全力を傾けて制作し、必要とあらば作り直していたのですから、予定通りにいくはずもありません。

 さて完結したエヴァですが、まだ伝説は幕を下ろしたわけではありません。今後出るであろう、ブルーレイ・ディスクの販売数も気になるところですね。

 そして「シン・エヴァ」を見届けて「終わった」という気持ちがある一方、「次は……」という考えがどうしてもよぎり、せめぎ合うような気持ちになるのです。個人的には、「破」と「Q」の、シンジ不在の空白の14年間が見たい……と思うわけですが、同じ思いの人はいるのではないでしょうか。こう思わされるのも、仕組まれた「ワナ」なのでしょうか(汗)。

 ネットで、四半世紀も追い続けるとエヴァと魂が“融合”してしまい、分離できないという意見を見ましたが、実に巧みな表現で同感です。なので勝手に「続編?」に恋焦がれながら、エヴァに並び、そして超えるような新しいスーパーコンテンツが生まれることを楽しみにしております。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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