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新型Switchの割れる評価 不自然な性能「据え置き」を考察 任天堂が隠す超強力“カード”

河村鳴紘サブカル専門ライター
家庭用ゲーム機「Nintendo Switch(有機ELモデル)」=任天堂提供

 任天堂の家庭用ゲーム機「Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)」シリーズで、新モデルとなる有機ELディスプレーを搭載した「Nintendo Switch(有機ELモデル)」(10月8日発売予定、3万7980円)が発表されました。ところが「新型Switch」の評価は割れているようです。

◇意見が割れる理由

 「新型Switch」の特徴を一言で表せば、鮮やかな発色が可能になる有機ELを搭載し、本体保存メモリーが64GBに強化された「高級モデル」。現行機(通常版)より約5000円ほど高くなります。

【参考】新型Switchのポイント 読み込み時間は? バッテリーの持続時間は?

 ところがヤフーの「みんなの意見」で「新型Switchの『有機ELモデル』、欲しい?」という質問に対して、約6割が「欲しくない」と答えました(7月10日時点)。もちろんネット検索の結果は「参考」に過ぎません。一方でネットで積極的に情報を発信する人たちが出した「一つの結果」でもあります。

 不評の理由は、ネットで積極的に発言する人たちが「新型Switch」に期待したこと……「ゲーム機の性能強化」がなかったからでしょう。具体的には、テレビ接続の4K対応、ロード(読み込み時間)の短縮です。今回の発表を受けて、半導体やロードのスピードについて任天堂に聞くと「通常版やスイッチライトと同じ、エヌビディア製のチップを使っているので同じ」でした。「PS4」から「PS4pro」のような、ゲーム機自体の性能を強化する流れではなかったのです。

 さらに「新型Switch」の有機ELは、テレビに接続すると、現行機と変わりません。テレビを接続して遊ぶユーザーからすると「現行機のままでいい」となるわけです。

 もちろん、携帯ゲームとして使う人は、有機ELディスプレーの恩恵を受けます。買い替えを検討していた人は手を伸ばすでしょう。ひとりひとりで使い方の違うゲーム機だけに、意見が割れるのではないでしょうか。

 ちなみにゲーム会社の関係者に聞くと「有機ELとゲーム機の性能が合ってないのでは」「CPUが変わらずで、PSハードとの差が埋まらず残念。ソフトメーカーとしては、この部分の進歩を求めていた会社が多かったのでは」などという厳しめの意見でした。性能「据え置き」について、プラスの評価はないのですね。

◇「性能強化」は誰でも考えること

 熱烈なゲームファンは、より快適な環境を求めてゲーム機の高性能化を望みます。ただ、世界的な半導体不足の現状を考えると、厳しい話ではないでしょうか。仮にコアユーザーの望む「性能強化の新型Switch」であれば、購入希望者が殺到。そうなれば希望小売価格よりはるかに高い価格で取り引きされる「高額転売」の餌食(えじき)になるのは確実です。

 そもそも「性能強化」という誰もが考え付くようなことは、開発者は真っ先に検討・実験しているのが普通です。……ということは、相応の理由があって「見送った」と考えるべきです。

 今回の「新型Switch」について、有機ELのディスプレーという特性を考えると、携帯ゲーム機をメインに使うユーザー向けの商材であり、かつ商品生産の利点もあり、「高額転売」の“対策”も念頭に置いているのではないでしょうか。

◇「ゲーム人口の拡大」に貢献するか?

 スイッチシリーズはいまだに売れていますが、2020年度の出荷数(年間2883万台)からの大幅なアップは望めず、むしろ頭打ちになり、減少をどれだけ食い止めるかになります。それはゲーム機という商品特性から考えると避けようがありません。

 「新型Switch」を出すにあたり、経営視点から見たときの大きな利点は、現行機と同じ半導体であることです。通常版とスイッチライトの売れ行きが鈍っても、「新型Switch」を作ることで埋められますし、同じチップを使うため動作が安定しやすいのも強みです。また「性能強化の新型Switch」を“カード”として残せます。

 そもそも論でいえば、「性能強化の新型Switch」は、コアユーザーの要望であり、ライトユーザーには、あまり関係ありません。何より任天堂が推し進める「ゲーム人口の拡大」に沿っているとも思えません。「新型Switch」も「ゲーム人口の拡大」に貢献するか?といえば「イエス」とは言えませんが、「性能強化」版よりも経営的なリスクは低く、一定の買い替え需要は喚起する効果(売上高、営業利益のアップ)は期待できるのです。

 なお「ゲーム人口の拡大」に貢献するのは、ズバリゲーム機の「値下げ」でしょう。仮に「新型Switch」の売れ行きが今一つで、スイッチシリーズ全体の売れ行きが鈍化したとしても、「値下げ」という超強力な“カード”が手元にあるのです。企業の利益が減るので安易にすべきではありませんが、スイッチライトが約1万5000円で売り出されたらインパクトは強烈でしょうし、「ゲーム人口の拡大」を考えれば一つの手です。スイッチシリーズの売れ行きが鈍れば……という条件で「値下げ」の可能性は「ある」と見ていますが、どうなるでしょうか。2017年の発売以降、任天堂はその“カード”を一度も切っていません。

◇ほどよい需要が狙い?

 いろいろな意見がある「新型Switch」ですが、そうはいってもある程度の「高額転売」はあるでしょう(特に発売直後)。その一方で「性能強化の新型Switch」ほどの需要がないのも確か。転売ヤーからすると、希望小売価格の高めの設定は歓迎するにしても、「うまみ」に欠けるはずです。

 ニンテンドースイッチやPS5が“犠牲”になったように、ゲーム機を売り出すとき「高額転売」は、意識せざるを得ません。ゲームファンを熱狂させる商品を出せば、転売ヤーに狙われる難しい状況なのです。そんな中で「新型Switch」の前評判は、PS5の時のような熱狂はないものの、ほどよい需要を感じさせます。“カード”の残し方を含めて、全部計算済みなのかもしれません。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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