世界最大級のゲーム見本市「エレクトロニック・エンターテインメント・エキスポ(E3)」が12~15日(米国時間)、2年ぶりに開催されました。オンライン形式で、任天堂やマイクロソフトなどが映像配信をしたものの、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)の不参加も続いており、以前のようなインパクトが薄れている感は否めません。意義と課題について振り返ります。

◇目立つ大型発表回避の動き

 今回のE3ですが、個別のタイトル発表で盛り上がりました。「メトロイド」シリーズ19年ぶりの新作「ドレッド」や、スクウェア・エニックスとコーエーテクモゲームスが共同開発する「ストレンジャー オブ パラダイス ファイナルファンタジー オリジン」などですね。

 ですが、情報に敏感なコアユーザーが最も注目したのは、一部報道にあった任天堂のゲーム機「ニンテンドースイッチ」の強化版発表の有無でしょうか。結論から言えば発表は「なかった」わけですが、同件について、関係者の見方が分かれました。

 「発表がなく拍子抜けした」という声もありましたが、「発表はないと思っていた。仮に今年出すとしても、発表をE3合わせにしなくてもいい。そもそも発表するような空気・雰囲気が漏れてこなかった」という声が優勢でした。また「期待値を上げすぎないために、事前に『ハード関連の発表はない』と強くアナウンスしても良かったのでは」という意見もありました。スイッチ強化版への注目はあったわけで、「空振り」ゆえに盛り上がりが薄れた側面はあったかもしれません。

 もちろん、報道やうわさに対して、任天堂には何の責任もありません。しかし、業界の雄である任天堂の一挙手一投足に関係者が注目しているのはその通りで、改めて影響力の大きさを示しています。

 ただし、ここ数年を振り返ると、E3で大きな発表を“回避”する流れにあります。2019年に発売された「ニンテンドースイッチライト」ですが、発表はE3から1カ月後の7月でした。2020年も、PS5が出る年にもかかわらず、SIEはE3への出展を早々に見送る発表をしました(その後、2020年のE3は新型コロナのため中止になります)。先日発表された「ドラゴンクエスト12」も、単独イベントとしてE3の直前でした。同作が世界を意識した「世界同時発売」にもかかわらずです。

 要するに単独でヤフートピックスを奪えるような、大きなパワーのあるニュース(ネタ)は、E3に頼っていないわけです。

◇イベント削減も市場規模拡大

 同時に、E3のオンライン開催について、物足りなさを感じているようでした。まあ、リアルとオンラインを比べると仕方のないことでしょう。しかし、ゲーム業界が他業界と異なるのは、新型コロナウイルスの感染拡大で販促が制約されたにもかかわらず、業績が絶好調だったことです。

 2020年、ゲームの世界市場規模は1749億ドル(約19兆2000億円、オランダのゲーム市場調査会社Newzoo調べ)、前年比19.6%増。うち家庭用ゲーム市場も512億ドル(約5兆6000億円)、同21.0%増で、任天堂やSIEなどの決算も絶好調でした。

 そうなると、リアルイベントの費用対効果が議論になるわけです。イベントに出展しなければ、新作ゲームの開発に集中できますし、映像配信でも効率的にユーザーへ情報を届けられます。考えるほどオフライン……映像配信の効率の良さが目立つわけです。近年はE3に懐疑的な見方があり、その象徴が2018年から続くSIEのE3出展見送りですね。

 懐疑的な声が上がる前のE3ですが、任天堂とSIE、マイクロソフトのハード3社がそろい、大手ソフト会社もこぞって出展する世界最強クラスのリアルイベントでした。業界関係者が一堂に会するので、現地に行けば流行・傾向が分かるのが強みでした。

 例えば2006年にWiiとPS3がそろって披露されましたが、会場で試遊台により長い列ができたのはWiiでした。コントローラーを振り回すという異色の仕様だったWiiについて、発表当初は懐疑的な声もあったのですが、同機に対する評価が目に見える形で分かったのがE3だったのです。また大手ゲーム会社には「E3で何か発表をしないと……」という雰囲気さえありました。それだけの求心力があったのです。

 もう一つ言えば、かつてのE3は、任天堂とSIEがそろうため、任天堂が出展しない「東京ゲームショウ」よりも、上の雰囲気がありました。任天堂がゲームショウでブース出展をしたのは2001年春の1回だけで、しかも携帯ゲーム機のエリアでした。季節外れの雪が降る中、任天堂の広報に「寒いですね」と言いながら取材したことを覚えています。そのときに同社から「今回の出展は特別だから」と言われました。「なぜ任天堂はゲームショウに出展しない?」「今回出展した理由は?」と質問すると、さらりと答えてくれたのですが、ここでは割愛します。今のE3は、ゲームショウと同じで、“両雄”がそろっていません。

◇オンラインイベント最大の弱点

 E3もそうですが、ゲームショウも含めて他のイベントも、今後のリアルイベントの存在意義を問うような流れになっています。新型コロナウイルスは、依然として読みづらい状況もあります。この状況に慣れたらコロナ収束後も「もう映像配信だけで良いのでは」という意見が出るのは自然です。

 そこで「E3の今後はどうなる? リアルイベントはどうあるべき?」という質問を関係者にしました。「迷い」も含めて意見は割れると思いましたが、予想以上に「開催は続けるべき」という声があり、それは三つに集約されました。

 一つ目は、ファンの生の声を拾えることです。「リアルイベントの費用対効果について疑問視する声も分かる。しかし、リアルだからつかめることがある」という意見です。ネットは、特定の声が大きく見える傾向があることが分かっていますから、声を出さない多数派の本音が知りたいわけです。またリアルのイベントでゲームを好きになる層もいて、そこを切るべきではないという提言もありました。

 二つ目は、大手と中小……ゲーム会社の規模による情報発信力の格差の懸念です。ネットでは、知名度のある企業、強力なコンテンツばかりに注目が集まります。「任天堂やSIEの映像イベントに取り上げられなかったソフトは、注目されづらくなる。大手に“命綱”を握られるのは困る」というものです。その点、リアルイベントに出展すれば、来場者の目に飛び込んだり、メディアに取り上げられる可能性もあります。

 ネットは世界に向けて広く発信しているように見えて、注目されない限り反応がゼロに近いこともありえます。懸命にブログを書いてもヒットするのはごく一部。対して有名人であれば、些細な一言でも注目されます。強者が圧倒的でその差は歴然です。

 三つめは、ゲーム業界全体で情報発信をすることの重要性です。「オンラインイベントの最大の弱点は、広い層に届く大手メディアに取り上げてもらうのが難しいこと。ゲームに不慣れな記者でも、リアルのイベントを見ればトレンドも何となく分かるし、テレビ局は画も撮れる。何よりゲーム業界全体で世の中にアピールする機会はそうあるものでもないから、大切にするべき」という指摘です。

◇イメージ向上は長年の課題

 ゲーム業界は、世界の市場規模で年20兆円が狙えるところまで成長しました。一方で、音楽のグラミー賞、映画のアカデミー賞のような、世間一般に知られるゲームの賞は「ある」とは言いづらいところです。本当の意味で「ゲーム」のイメージ向上は、長年の課題です。

 特に日本では、(一時期に比べて良くなったものの)ゲームに対して良いイメージがあるとはいえません。子を持つ親から敵視され、猟奇的な事件が起きると「過激なゲームが悪影響を与えている」と叩かれてきました。近年ではネットの問題はスルーされて、ゲームのみが「ゲーム障害」としてターゲットにされています。背景には、同じエンタメ業界でもテレビや出版に比べて、ゲームは業界団体や企業からの反発が少なく叩きやすい……という側面がゼロとは思えないのです。

 ゲーム業界は、1983年発売のファミコン以降急成長して世界的な産業に成長しましたが、半世紀はおろか40年も経過していないように、他のエンタメ業界に比べて歴史が浅いのです。言い換えると、ゲームが世間に理解してもらうための「時間」がまだ必要なのかもしれません。

 そしてE3の復権は、ゲーム業界が一枚岩になれるかにかかっています。それとも、従来のあり方が見直されて、新しい動きになるのでしょうか。いずれにしても、各社が歩調を合わせない限り、ゲーム業界全体のメッセージが社会に届けづらいのは確かです。来年のE3がどうなるかも含めて、注目したいと思います。