現金3000億円増! 恐ろしい任天堂の決算 スゴいゆえの「悩み」と次への一手
任天堂の2021年3月期(2020年度)連結通期決算が5月6日、発表されました。売上高は約1兆7589億円(前年度比34.4%増)、本業のもうけを示す営業利益は約6406億円(同81.8%増)でした。大手からゲーム専門媒体までが取り上げましたが、「数字が並ぶばかりで分かりづらい」という人もいるでしょう。そこで通常の決算記事とは違う視点から、いろいろ注目してみました。
◇営業利益が20倍以上に
決算である程度の数字が並ぶのは仕方ないのです。売上高と営業利益の意味が理解でき、利益の違い(営業利益・経常利益・当期純利益)が分かると、いろいろ見えてきます(決算の初心者向け記事です。興味のある方はぜひ)。
決算記事では前年度との比較が正攻法ですが、直近5年間の売上高、営業利益をグラフで見ると、任天堂の恐ろしさが一発で分かります。2016年度は売上高が5000億円を割っていたのに今や3倍以上。営業利益に至っては20倍以上(約294億円→約6406億円)になっています。
営業利益率も1割の“合格ライン”どころではなく、3割超えるバケモノぶり。元の売上高が少ないベンチャー企業や歴史の浅い企業ならともかく、創業100年が経過し、低い時でも売上高5000億円の上場企業です。
しかも、任天堂は2008年度には売上高1兆8000億円をたたき出しています。家庭用ゲーム機「Wii」が2500万台超、携帯ゲーム機の「ニンテンドーDS」シリーズが3100万台超を売り、経済界が「任天堂を見習え」と言っていた時代の話です。……ということは、一度は売上高が5000億円を割り、そこから復活させたわけです。2008年度に任天堂の決算を見たときは「もう、この数字は出せないだろう」と思っていましたが……。
おまけに2008年度は二つのゲーム機で稼いだ数字を、2020年度は「ニンテンドースイッチ」という一つのゲーム機で作ってしまいました。いえ、2008年度の営業利益は約5552億円でしたから「超えた」という見方もできるでしょう。
同社の株価を見れば、投資家の評価は一目瞭然(りょうぜん)でして、2008年度の株価に迫っています。
◇決算発表後に株価下落 なぜ?
今回の決算資料を見ると、文句のつけようがありません。ですから、どの記事を読んでも似たような内容になるのはやむを得ないのです。
まあ、任天堂の今年度の“大勝利”は、新型コロナウイルスの巣ごもり効果の追い風があり、「あつまれ どうぶつの森」が世界的に大ブレークしたことが確定した第1四半期の段階で決まっていたようなもの。スイッチの2020年度の出荷計画は当初1900万台でしたが、結果(実績)は2883万台。1000万台近く積み増したのですから。
そして株式会社の宿命ですが、驚異的な業績は、翌年度以降の反動の可能性を意味します。スイッチが売れているゆえの市場の期待の大きさを示すのが、決算翌日の株価下落です。「なんで絶好調の決算発表後に株価が落ちるの?」と思う人もいるでしょうが、任天堂の手堅く見た2021年度の業績見通しのためでしょう。市場というのは一方的に期待して、手堅い発表をすると(勝手に)失望したりします……。
任天堂からすると、今は稼げるときに稼いでいるだけですし、見通しも今後を「楽観視してない」という意味では好感が持てそうなものです。ですが、ゲーム好きでもない投資家はシビアで、なかなか好意的に見てもらえないわけです。すごい企業にも「悩み」があるわけです。
◇研究開発費の額は…
任天堂の今後のポイントは、ニンテンドースイッチが売れまくる現状をキープすることで、もちろん前年度より増えるのがベスト。たとえ減っても、できるだけ緩やかにすることです。
そうなると、一部報道でも出ているニンテンドースイッチの強化版、その先にあるであろう次世代ゲーム機の投入も含めて、“カード”を切るタイミングも大切でしょう。これだけニンテンドースイッチが売れ続けると、強化版の投入タイミングが難しいのは確かです。
また現在はゲーム機の転売が横行していますし、強化版がターゲットになる確率は高いでしょう。企業にできる対策は限界があるものの、転売があれば批判はされるわけで悩ましいところです。
ただ、任天堂は決算の「数字作り」にあまり執着してないのは、取材側から感じることです。数字を追求するなら「現金及び預金」の約1兆1900億円を可能な限り投資に回せばいいだけのこと。ちなみに「現金及び預金」は前年度から約3000億円も増えています。売上高の増加分が売上総利益の増加にしっかり反映されており、損益分岐点を超えたときのゲームビジネスの「うまみ」が伝わってきます。
なお、決算説明会でもキャッシュ関連の話があり、「チャレンジが複数回成功しなかったときのための備え」「財政的な安定を担保する手段」と説明されています。
「リスクの高いビジネス」ゆえに多くのリターン(利益)があるわけで、損失と表裏一体なのが分かります。なお今後の新ビジネスとして、映像関連について複数の企画を立ち上げていることも明言しています。研究開発費にも900億円以上(前年度も800億円以上)を使っていますし、決算資料を追うと、任天堂が次の一手を打っているのが分かりますね。
決算記事で、ゲーム機やソフトの出荷データを追うのも面白いですが、貸借対照表や損益計算書なども見ると、興味深いことがいろいろ見えてくるのです。