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マンガ大賞受賞作「葬送のフリーレン」の魅力 スーパー魔法使いなのにダメっ娘のギャップ萌えも

河村鳴紘サブカル専門ライター
「葬送のフリーレン」=小学館提供

 マンガに精通する書店員らが推す作品を選ぶ「マンガ大賞2021」の大賞が「葬送のフリーレン」に決まりました。関係者やマンガ好きの間では注目されていましたが、知らない方もいるでしょう。同作の魅力を紹介します。

◇4巻で早くも計200万部に

 同作は、週刊少年サンデー(小学館)で連載中の山田鐘人さん原作・アベツカサさん作画のマンガです。17日発売のコミックス4巻で累計200万部(コミックス1巻の平均50万部!)に達し、「このマンガがすごい!2021」の第2位、第25回手塚治虫文化賞でもノミネートされています。

 「葬送のフリーレン」は、勇者が魔王を倒した後の世界が舞台です。勇者パーティーの魔法使いとして活躍したエルフの女性・フリーレンは、長い時を生きるためか、人間への理解、感情のゆらぎに鈍感でした。ところが仲間(勇者)の死を看取って涙し、人間のことを理解しようと冒険を続ける……というストーリーです。

 ここまで読んで、ネットで流行している小説「なろう」を何となく思い浮かべた人もいるのではないでしょうか。「葬送のフリーレン」と検索すると予測変換の一つに「なろう」と表示されます。「なろう」の定義はあいまいで難しいのですが、ゲーム的なファンタジー世界を舞台に、主人公が圧倒的な能力・知識を駆使して、活躍していくというものです。

 「葬送のフリーレン」も、ファンタジー世界が舞台で、主人公も極めて高い能力を持っていますから、共通項もあるのですが、異世界転生をするわけでもなく違う面もあります。繊細な物語ですし、読みやすく、それでいて設定も練られており、そこがマンガ好きの支持を得ているといえます。

◇「葬送」の意味とは……

 同作の魅力は、ネットで無料公開中の1話と2話に凝縮されていますので、ぜひ読んでみてはいかがでしょうか。

【参考】サンデーうぇぶり「葬送のフリーレン」

 第1話では、勇者が魔王を倒した「エンディング」から始まります。そして50年の時が一気に経過し、年老いた勇者が亡くなり、フリーレンは涙します。読者は「勇者が主人公だろう」と思っていたら、実は魔法使い(フリーレン)の物語であることがわかるのです。第2話は、同じ勇者パーティーの僧侶の最期になりますが、1話の話を補強し、その後の冒険にバトンタッチする内容になっています。

 物語だけでなく、個々のキャラクターの描写も素晴らしく、個性的で、実に人間味にあふれています。酒を飲む僧侶のハイターはその筆頭でしょう。また、永遠の時を生きるエルフと、仲間の人間との視点の「違い」をうまく使っています。仲間たちがフリーレンに説明することもあれば、隠された歴史についてフリーレンが語る……という展開もあります。そして、勇者一行の思い出話も出たりして、ハッとさせられる流れもあります。

 そして「フリーレンが人間を理解しようとする」というテーマはぶれません。タイトルの「葬送」の意味は、作中で明かされていますが、長き時を生きるフリーレンが人の死を見送る……という意味も込められているのでしょう。

 優れた作品は、読者の予想を(いい意味で)裏切って驚かせるのですが、それは同作でもそうです。それでいて日常の何気ない幸せも丁寧に描いており、愛しくなります。なお魔法使いの能力は比類ないフリーレンですが、生活能力でいえばダメっ娘です。そして欠点があるからこそ、ギャップ萌えがあり、一層魅力的に映るのです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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