Yahoo!ニュース

「ウマ娘」ゲームで“豪脚”爆発 美少女イロモノ系にあらず 女性も喜びそうな繊細な競馬物語も

河村鳴紘サブカル専門ライター
「ウマ娘」(前列左から)トウカイテイオー、スペシャルウィーク、サイレンススズカ

 スペシャルウィークやトウカイテイオーなどの有名競走馬を美少女に擬人化したスマホゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」が先月24日に配信されるや、200万ダウンロードを突破するなど“豪脚”爆発の人気となっています。同作を「女性蔑視」と批判した記事が注目されたように、一見「イロモノ」のように見えるかもしれません。ところが実際にプレーすると全く違うものが見えてきます。

 同作は、2016年に発表されたコンテンツです。実在の競走馬の名前と魂を受け継ぎ、ウマの耳と尻尾を持つ可愛らしい美少女「ウマ娘」たちが、学園生活を送りながらレースに挑むという内容です。テレビアニメは、1期が2018年4月~6月、第2期が2021年1月から放送されています。スマホゲームは、プレーヤーがトレーナーとなってウマ娘をレースに勝たせていくという内容です。

 同作を配信しているのは、人気スマホゲーム「グランブルーファンタジー」や「シャドウバース」などで知られるゲーム会社のCygames(サイゲームス)です。当初は2018年冬に出す予定でしたが、クオリティーアップを理由に延期しており、ようやく登場したわけです。同作の魅力について、5点挙げてみます。

◇見た目のインパクト ゲーム内容も充実

 一つ目は、見た目のインパクトでしょう。そもそも「競走馬が美少女になる」というコンセプトが斬新で、最初に知ったときは私も目が点になりました。「どんな作品だろう」と気になり、インパクトゆえに一発でタイトルを覚えてしまいました。ゲームをしない人にも強い印象を残すでしょう。スマホゲームが乱立する中で、一見して差別化できるのは、大きな強みでした。

 二つ目は、見た目はイロモノですが、ゲームの出来が秀逸なことです。「ウマ娘」は、競馬ゲームの王道とも言える、調教を繰り返し能力値を高めてレースに出走するシステムを採用しています。ゲームバランスが良く、適当にやっていては勝てず、状況に応じて選択肢は変わり、運的な要素もあります。脚質、距離適性もあり、勝ちやすいキャラもいます。

 巧みなのは、競馬ゲームなのに、スピードやスタミナなどの能力を見せることでした。実は既存の競馬ゲームでは本物感を追求するため、能力値の数字は見せないようにするのがセオリーでした。「ウマ娘」は能力値が見えて状況が分かるので、「スピード能力が足りなかった」などと失敗に納得でき、再トライにつながりやすくなります。スマホゲームの性質を考えての判断と思われますが見事といえます。

 またレースシーン、実況も本格的で、スピード感もあり、最後の直線は本物同様に見ていてハラハラします。当然レースでは好成績を収めることが必要になりますが、実は目標が達成できずとも、3回までレースのやり直しができるのです。競馬ゲームにやり直しは“邪道”なのですが、同作はキャラの魅力にスポットを当てた「キャラゲー」でもあります。この「やり直し」をどこで使うかも、ゲームを攻略する戦略に組み込んでいるわけです。

◇競馬のドラマ性を反映 アイドル要素も

 三つめは、競馬の持つドラマチックなエピソードを、ゲームのシナリオやキャラの設定にうまく落とし込んでいることです。

 例えば、ミホノブルボンならば、デビュー当初からその血統背景からスプリンター(短距離レースが得意な馬)と言われ続け、厳しい調教によって長距離も勝てるようになった……と言われていますが、それがゲーム中の物語に反映されています。またレースでは正確なラップを刻むことから「サイボーグ」と言われたことも、やはりキャラ設定に反映されています。そしてブルボンの三冠を阻止したライスシャワーとの関係にも触れています。ライスシャワーは黒い毛(黒鹿毛)で小さめの馬体だったのですが、キャラの服装も黒色にし、キャラも小柄になっています。何から何まで反映させているのです。

 個人的には、サイレンススズカのシナリオは胸にジーンと来るものがありました。現実の競馬では、サイレンススズカは「大逃げ」という戦法で他馬を大きく引き放すレースで、大変人気のあった馬でした。しかし1998年の天皇賞・秋で圧倒的な一番人気となりながら、レース中に故障をして競走中止。関係者やファンの願いもむなしく安楽死処分となりました。私も馬券を握りしめて、そのレースをリアルタイムで見ていたからです。ゲームでは、サイレンススズカがレース前に脚の痛みを訴えながらも激走し「天皇賞・秋」を制覇するわけですが、勝利後にゲームのレースのリプレーを繰り返して見ました。もうズルいとしかいいようがありません(誉め言葉です)。

 四つ目は、美少女ゲームとしての軸も外してないことです。レースに勝ったウマ娘は、アイドルのように、センターポジションでライブができる設定になっています。このライブの出来がまた良いのです。なお競馬ゲームに専念したい人は、ライブをスキップできますから、プレーヤーのスタイルに応じて選べるようになっています。

 最後は、いろいろなウマ娘でプレーさせるための仕掛けをしていることです。1頭だけやりこむのもアリですが、短距離、マイル、中距離、長距離、ダートで展開されるチーム戦も用意されています。また能力を受け継ぐための仕掛けもあり、いろいろな能力を持つウマ娘でプレーしたくなるのですね。

 面白いところでは、113戦0勝の連戦連敗で全国的な話題になったハルウララもいます。高知競馬に所属し、地方競馬を大きく盛り上げ、中央に所属しなかった馬としてはトップクラスの知名度でしょう。負け続けて「リストラの星」となったハルウララですが、ゲームなのでプレーヤーの腕次第では、ダートレースを連戦連勝させてエリートになり、「歴史」を変えるようなこともできます。

 誤解を恐れずに言えば、競馬ゲーム「ダービースタリオン」と「ウイニングポスト」、そして「アイドルマスター」のいいところ取りをした感じなのです。

◇女性にも受けそうな競馬物語

 同作は基本利用無料のアイテム課金ゲームで、レアなキャラクターが出る「ガチャ」もありますが、無料プレーでもしっかり楽しめます。

 惜しいのは、見た目が擬人化美少女ゲームだけに、女性ファンをつかみづらいことでしょうか。ただし女性は、競馬場にも足を運びます。実際の競走馬のストーリーはドラマチックで、女性ファンもしっかりいます。なお「女性蔑視」の記事ですが、東京大学大学院工学系研究科の鳥海不二夫准教授が客観的なデータから考察しております。

・「ウマ娘」の非実在型炎上をデータから見る(鳥海不二夫)

 「ウマ娘」の人気について、「女性蔑視」記事のようにコンテンツの中身に触れてない人は「美少女キャラだから……」と思いがちですが、同作は競馬というコンテンツにまじめに向き合っているのです。

 地方出身ながら中央のエリートをなぎ倒したオグリキャップの快進撃、超良血のキングヘイローが歩んだ苦労の道、ダイワスカーレットとウォッカの火花散るライバル関係などが、ゲームにキッチリ反映されています。彼女(ウマ娘)たちの物語は、実に繊細で、擬人化の利点を生かしてドラマ性が増幅されていますから、中身を知ればむしろ女性にも受けるのでは……とも思うのですね。

 ちなみに「ウマ娘」の人気を受けて、人気競走馬の名前をグーグル検索にかけて画像で表示すると、美少女キャラが出るようになっています。人気ゲーム「艦隊これくしょん」が人気になるや、艦艇の名前を入れると、美少女キャラの画像がずらりと出たときと同じ現象で、ここからも「ウマ娘」の人気ぶりが分かります。今後の展開にも注目が集まりそうです。

競走馬の「ダイワスカーレット」をグーグルの画像検索にかけると、ウマ娘「ダイワスカーレット」も表示される。
競走馬の「ダイワスカーレット」をグーグルの画像検索にかけると、ウマ娘「ダイワスカーレット」も表示される。

(C) Cygames, Inc.

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

河村鳴紘の最近の記事