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PS5予約開始も「#予約するってレベルじゃねえぞ」 でも恒例の大混乱

河村鳴紘サブカル専門ライター
PS5が高額で取り引きされていたAmazon.co.jpのページ

 ソニーの新型ゲーム機「プレイステーション5(PS5)」の予約が18日にスタートしましたが、大混乱です。ネット販売サイト「Amazon.co.jp」ではすぐに在庫はなくなり、購入希望者は相当に苦労しているようですが、過去を振り返り、冷静に考えてみると良いのではないでしょうか。

◇14年前の“名言”も

 PS5は、8Kの映像が楽しめ、コントローラーの振動で多彩な触感表現を再現、ロード時間を飛躍的に短縮した新型ゲーム機です。多くのPS4用ソフトとの互換性を持たせており、ディスクドライブを装備した「スタンダードモデル」が4万9980円、ディスクドライブがない「デジタル・エディション」は3万9980円で、11月12日から発売されます。

 PS5のスペックが高いことから、ネットでは「安すぎる」という声が続出しました。価格の発表は17日の早朝で、熱も冷めぬうちに予約が開始されたわけですね。「Amazon.co.jp」では、価格のケタを1つ間違えて買う人を狙ったのか約50万円で出品され、誤って手を出す人もいたようです。約50万円の“転売”価格は、衝撃的でニュース価値があるため、各媒体がこぞって記事にしていました。

 あまりの予約の難しさからか「#予約するってレベルじゃねえぞ」が、ツイッターのトレンド入りしました。元ネタは2006年のPS3の発売日に、家電量販店に購入希望者が殺到し、あまりの混雑ぶりについて一人が「物売るってレベルじゃねえぞ」と叫び、テレビに映されたことです。ちなみに私も当日、その家電量販店に取材に行きましたが、この歴史的ワードは聞けてないのですよね。なおPS3は、ソニーの据え置き型ゲーム機で最も累計出荷数が少なかったわけですが、それでいて発売日は大混乱でした。

◇PS5の出荷数 PS4のローンチ時よりも上

 しかし、ソニーのゲーム機は、発売前から人気が沸騰するのがほぼ恒例です。そして発売日に“完売”しますが、しばらくすると販売店などで普通に買えるようになります。普及に苦戦した携帯ゲーム機「PSP」や「PS Vita」も、発売開始直後は大変な人気でしたが、やはり商品は出回るのです。

 そもそも専用ゲーム機の販売は、近年苦戦する傾向にあります。ゲーム市場の主力は、据え置き型ゲーム機から、基本無料で遊べるスマートフォンに変わり、その結果、ゲーム機を買う消費者が減ったためです。20年前に売り出されたPS2は国内で約2200万台も売れました。ところがPS4は現段階で約750万台、上位機のPS4 Proを合わせても計900万台で、PS2の半分にも届いていません(いずれもファミ通調べ)。

 そしてメディアでPS5に予約が殺到するという記事を見たり、ツイッターのざわつきを見ると、全国民を巻き込んで熱狂しているように見えますが、本当に欲しがっているのは一部のファンです。メディアに所属していた視点から言えば、「50万円」や「転売」というワードは見出しにすれば面白いようにPVが伸びるでしょうし、情報のレア度も高いので、熱狂をあおる方向に向かうのはある意味仕方のないことです。しかし、PS5の発売は、2カ月先の話ですし、何度も予約抽選があることも判明していますから、チャンスはまだあるのに、手に入らないような錯覚をしているわけです。

 ソニーの常務でSIEのジム・ライアン社長も、PS5の出荷計画数は、新型コロナウイルスの影響があったにもかかわらず、PS4のローンチ時よりも上であることを明かしています。確かに「発売日の段階でPS5を手にしようとすれば、かなりの努力が必要」とは言っていますが、増産の計画についても肯定しています。何せゲーム事業はソニーの売上高の2~3割を占める柱ですから、同社も下手を打つわけにはいきません。

【参考】PS5の出荷数はPS4のローンチ時より多い MSの低価格ゲーム機は気になるが… SIE社長に聞く

 今は任天堂のゲーム機「ニンテンドースイッチ」が転売の被害に遭い、入手がいまだに難しい状況にあるため、危機感はあるでしょう。しかし、PS5はコアユーザー向けであり、ライト層を取り込んだスイッチとは、購入者の質と量がまるで違います。

◇焦りは禁物 転売ヤーに追い風

 なお、皆さんが目の敵(かたき)にしている「転売」ですが、法で取り締まることは難しいのが現実です。「新型コロナウイルスのときのマスクのように取り締まれ」という声も見かけますが、命にかかわる緊急時と、そうでないエンタメ商品を同一に並べて論じるべきではありません。転売はやっかいなものですが、「対策を考えるのが面倒だから、法で解決して」と丸投げするのでなく、各人が知恵を出し、我慢を重ねて、安易に法に頼らず「仕組み」で解決するべきです。

 米国限定で実施している、ゲームのプレー履歴に紐づけてPS5の予約の権利を与える方法は、転売対策には効果的な仕組みといえそうです。ただ、日本では販売店の力や慣習を考えると、直売にすることが難しいので、米国と同じようにいかないでしょうが、今回は多くの販売店、販売サイトも転売を強く意識し、工夫をこらしています。

 そして転売ヤーの資金も無限ではありませんし、すべてのPS5を買い占めることはできません。さらに今回の販売方法は個人確認を徹底している流れにあります。もちろん、この世から転売はなくならないでしょうが……。

 今後も「PS5の予約が難しい」という声は、発売前まで続くでしょうし、取り上げる記事も多く出るでしょうから、「発売日に欲しい」という思いが強いほど焦りも出ます。ですがPS5を発売日に手に入れる必然性を含めて、冷静に考えてはいかがでしょうか。

 「欲しい」と思うのは当然として、一方で発売日にないと何か困るわけではありません。注目を集めたPS5用ソフト「ファイナルファンタジー16」も出るのは当分先ですし、ある程度割り切れば、イライラ感などが消えるでしょう。得てしてそういうタイミングであっさりと予約できたりするものです。狙いの異性を口説くように、欲しいなら事前に調べて、予約できる機会にこまめに参加し、挑戦回数を増やすのが近道です。それを怠れば手に入る機会は確実に遠のきます。

 PS5の恒例の盛り上がりをお祭りとして楽しむ人なら問題ありません。しかし、焦りがあれば、転売に手を伸ばしたくなる気持ちも出てきます。だからこそ、ひと呼吸おいて冷静になることも大事です。

 もちろん「発売日にどうしてもPS5を手に入れたい」「発売日にPS5を手に入れた喜びをネットを発信したい(自慢したい)」という感情は、当然ですし、自由です。しかし、希望小売価格より高い転売の商品にはくれぐれも手を出さないことは推奨します。転売が横行するということは、高い値段で買う購入者が一定数いて、それを転売ヤーは待ち受けているのですから。

 繰り返しますが、ソニーのゲーム機が人気で混乱するのは、恒例のことなのです。そして、また出てくるであろう新型ゲーム機の発売時に同じ轍(てつ)を踏まないためにも、今が大切なのです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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