Yahoo!ニュース

PS5とXbox SXの“我慢比べ” 新型ゲーム機の価格&発売時期の発表は…

河村鳴紘サブカル専門ライター
「プレイステーション5」=SIE提供

 発売予定時期が近づく二つの新型ゲーム機、ソニーの「プレイステーション5(PS5)」と、マイクロソフトの「Xbox Series X(Xbox SX)」。PS5は「今年の商戦期」、Xbox SXは「11月」と発売時期こそは発表しているものの、肝心の発売日と価格は、いまだ発表されていません。“我慢比べ”が続いているのは、なぜでしょうか。

◇先行発表は相手に対策される可能性

 現行機の発売日の発表時期を振り返りましょう。2013年11月15日に発売されたPS4は、約3カ月前の「8月21日」でした。同年11月22日発売のXbox Oneは、「9月4日」でした(いずれも米国先行、日本は遅れての発売)。ちなみに、日本の最大商戦期は12月ですが、米国の最大商戦期は11月です。

 そして、商品の価格は決まっても、発売日の段階で販売店に商品そのものが並ばないと意味はありません。流通のことを考えると、発売日や価格は早く確定させて、発売日直前に合わせて大規模な宣伝をする必要があります。宣伝時は、発売日と価格は必須の情報で、仕込みの時間も必要ですから、時間の余裕は、あればあるほど困りません。

 では「なぜ早く価格と発売日を発表しないか?」と言えば、先に発表するとライバルに対策をされる可能性があるからですね。発売日や価格は、経営サイドの決断で自由にコントロールできます。赤字で売り出すかも含めてです。

◇赤字でも売ろうとしたPS3と3DS

 2006年発売のPS3は、同年5月に価格を発表し、最初は6万2790円でした。「高すぎる」という指摘はあったものの、ソニーはPS3の性能の高さを理由に問題はない……というスタンスでした。ところが、同年9月14日に任天堂がWiiの価格(2万5000円)を発表すると、ソニーは、わずか1週間後の9月22日、PS3の価格を4万9980円に変更したのです。発売前に1万円以上値下げしたのですからメディアは大騒ぎでした。当時この発表を聞いたとき「ビジネス的には妥当な決断だが、コストは大丈夫か」と思いました。

 PS3の値下げは、ゲーム業界関係者に歓迎されました。しかし、製造コストを下回る価格にした代償として、ソニーのゲーム事業は、2006年度に約2323億円の営業赤字を計上しました。任天堂も2011年に、携帯ゲーム機「ニンテンドー3DS」の苦戦を受けて、量産効果の出る前に1万円の値下げを実施。同機を販売するごとに損失が出てしまい、2011年度は約373億円の営業赤字となりました。

 この例は、一つの事実を意味します。決めた価格でも変更することは可能で、経営陣は必要とあらば、巨額の赤字を覚悟しても、ゲーム機の価格を下げて勝負に踏み切る……ということです。ただし、そのためにはライバルの動きとしっかりした情報が必要なのです。ちなみに、なぜこんな無茶ができるかといえば、ゲームのビジネスは不確定要素が強い仕組みのため、潤沢な内部留保(カネ)があるからです。

 任天堂とソニー、マイクロソフトのハードメーカーは、ゲーム機のコンセプトに差はあろうとも、競合関係にあります。取材をすれば分かることなのですが、表向きは「よそはよそ。我々は我が道を行く」と言っても、互いを強く意識しているのです。

◇9月中に発表の可能性大も…

 従来の流れ、ビジネスの視点で言えば、両ゲーム機を出す優先順位の高い国は、最大市場の米国です。発売日は商戦期の目安となる「Thanksgiving(サンクスギビング)」(11月第4木曜日)より前にしたいと考えます。さらに流通と宣伝の準備期間から逆算すれば、2カ月前の9月中に発売日と価格を発表する可能性が大……となるわけです。

 ところが、今回は新型コロナウイルスの感染拡大という不確定要素に加え、ソニーが米国限定で始めたPS5のプレオーダー(仮予約)の手法が、今後の展開を読みづらくしています。プレオーダーは、PS5の価格を伏せた状態で、購入希望者数のデータが手に入るわけで、さらに転売防止対策になっています。従来と違う販売方法がありうるかも……と考えてしまうわけです。

【参考】PS5の「プレオーダー」 優良顧客優先の利点生かし「転売封じ」も

 マイクロソフトにも、Xbox SXの廉価版があるという「うわさ」があります。Xbox Oneは、PS4より約100ドル高い499.99ドルで売り出されましたが、結果として、PS4の世界出荷数(1億1000万台超)の半分(5000万台弱)に届いていません。価格の対策はあって当然で、何かの“隠し玉”があっても不思議ではありません。

 ただ、ネットに出回る程度の誰もが見る情報は、ソニーもマイクロソフトもお互いに把握し、情報の正確性を含めて分析・対策もしているでしょう。失敗したら、それは敗北を意味するだけのことです。そして先に発売日と価格を発表した方が、不利になる……いう事実は変わりません。PS5とXbox SXは似たタイプのゲーム機で、ソフトもマルチに出る可能性が高いため、コアなゲームファンでないと、どちらかを選ぶでしょう。

◇「うわさ」の多さは注目のあかし

 現在、PS5の発売日と価格の発表について「9日」という「うわさ」がありますが、外れても何食わぬ顔で次の「うわさ」が浮上するでしょう。発売日と価格に関しては正式発表は必ずあるわけです。確率的には「うわさ」の数が多いほど、誰かの「うわさ」は当たるでしょう。

 とはいえ、外れても次の「うわさ」を見つけては、盛り上がっていて、それ自体が既に「エンタメ」となっており、「うわさ」をあおっている一部のニュースサイトやまとめサイトのPV稼ぎのネタになっています。ですが裏返せば、それだけ注目を集めているということです。

 何より「うわさ」が外れてもひるまない、ゲームファンの新型ゲーム機に期待する熱意は「本物」でしょう。世界で年間17兆円のゲーム市場ですが、あくまでメインはスマホゲームの市場です。脇役の専用ゲーム機の発売に一喜一憂するファンは、両ゲーム機にとって、発売前の商品を盛り上げてくれる“味方”なのは確かです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

河村鳴紘の最近の記事