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「モンハンワールド」シリーズ2000万本超え カプコンのぜいたくな悩み【決算解説】

河村鳴紘サブカル専門ライター
「モンスターハンターワールド:アイスボーン」のパッケージアート

 カプコンの2020年3月期連結決算が発表され、売上高が前年同期比18.4%減の約816億円、本業のもうけを示す営業利益は同25.8%増の約228億円でした。3期連続で最高益更新したわけですが、その原動力は、「モンスターハンター:ワールド」の大規模追加コンテンツ「モンスターハンターワールド:アイスボーン」ですね。同社によると、3月末時点での販売数は「520万本」でした。

◇520万本のヒットも「堅調」

 個人的には、「アイスボーン」の発売直前に販売数を「600万本」と予想したので、読みが甘かったようです。ただカプコンは、これだけ売ったゲームに対して「安定した人気に支えられ堅調に推移した……」と書いており、やや“辛口”の評価しています。520万本も売れて「堅調」というのは、ライバル会社からすると嫌味な気もしますが、「もっと売れるべき、売れてほしい」という自負も感じられます。

 さて、ここまでお話をして「あれ?」と違和感に気付いた人もいると思います。ポイントは「3期連続で最高益更新」の意味することですね。

 直近2年の決算は、世界的に大ヒットした「ワールド」のおかげだったのですが、2020年3月期は、それを上回った事実です。「ワールド」が発売されたのは2018年1月で、半年後に累計1000万本を突破しました。従って利益のピークも2018年3月期、2019年3月期になりそうなものですよね?

 つまり「アイスボーン」は、ビジネスの側面から見ると“優秀”といえます。「ワールド」の経験を生かし短期間で発売したのはもちろん、ダウンロード販売なので利益率も高いわけです。そしてダウンロード販売なので中古ゲーム市場へ流れません。

◇分割のビジネスモデル重要

 話は変わりますが、据え置き型ゲーム機の超大型タイトルは、100億円以上の開発費がかかるケースがあります。今回のように大ヒットすれば、何の問題もないのですが、経営的な視点からすると、リスクですね。それを緩和するためのマルチプラットフォームなのですが、「アイスボーン」のような追加コンテンツのビジネスも有望と言えます。

 ゲームコンテンツを切り分けることで、本編ゲームの価格も抑え、ゲームの寿命を伸ばし、顧客単価を上げられます。さらに言えば、購入希望者の、コンテンツに対するロイヤリティー(忠誠心)をアップできるのも見逃せません。

 人気ゲーム「ポケットモンスター」も、ゲーム設計で交換の要素を持たせ、複数のタイトルを売っています。形態は違いますが「ワールド」と「アイスボーン」もコンテンツを分割している意味では同じです。ゲーム開発費の高騰を吸収するには、こうした分割のビジネスモデルが今後カギを握るかもしれません。

 「ワールド」はこれまで1550万本を出荷し、「アイスボーン」は520万本をダウンロード販売しました。合計すれば2000万本を突破していますね。これだけ売るタイトルは世界的に見ても、数えるほどしかありません。

 そして抜け目がないと感じるのは、さらなる顧客獲得への意欲を忘れてないことですね。ソニーの有料ネットワークサービス「プレイステーションプラス」のユーザー向けに「ワールド」を期間限定ながら無料配信しました。既存ソフト(ワールド)を活用して優良顧客にアプローチ、「アイスボーン」の販売へつなげようとしたのは明白です。

 しかも配信というのがミソです。ダウンロードしたユーザーがゲームをどれだけ遊び、エンディングまでたどり着いて、「アイスボーン」を遊んだのか。消費者の行動データは、次のゲーム開発に生かせるでしょう。

◇「ワールド」の次回作どうなる?

 むしろ悩ましいのは、いずれは出るであろう「モンスターハンター:ワールド」シリーズの次回作……と個人的には予想しています。PS4などの現行機で出すのか、PS5などの次世代機で出すのか、これは非常に難しい決断です。手堅さ重視なら前者ですが、ブランディング的には後者で行きたいところですね。もちろん並行する手もありますが、開発陣の負担が増すので得策とは言えません。妥当なのは、次世代機の売れ行きを見守り、ある程度の軌道に乗ったところで出すことでしょうが……。世界的な大型タイトルを持つからこそで、ぜいたくな悩みですよね。

 なお決算発表と共に公開された事業戦略資料「2021年3月期事業戦略および計画」には、「大型新作の複数投入を予定」とあります。「バイオハザード RE:3」は既に出たのですが、少なくともあと1本以上未発表の大型タイトルが出てくることになります。おまけに今期(2021年3月期)予想も新型コロナに関係なく、強気の増収増益となっています。大型タイトルの正体が気になります。

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サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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