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「エアコミケ」で再確認した「リアルコミケ」の魅力 「3密」の克服どうする?

河村鳴紘サブカル専門ライター
コミックマーケットの様子=コミックマーケット準備会提供

 「コミケ」の愛称で知られる、日本最大の同人誌即売会「コミックマーケット」。新型コロナウイルスの感染拡大で中止しましたが、インターネットでコミケがあるように振る舞う異色の企画「エアコミケ」が開催されました。コミケ愛と執念を示したわけですが、それゆえにコミケの価値と魅力を再確認できたのが皆さんの本音ではないでしょうか。そして、今後のしかかるであろう、コミケの課題にも触れます。

◇1日20万人来訪の巨大イベント

 コミケは、1975年に始まったマンガや小説、ゲーム、音楽、批評など多彩なジャンルを内包した同人誌の即売会で、まもなく半世紀を迎えようとしています。1日に約1万のサークルが参加、20万人前後が来場します。同人誌とは、目的や趣味など同じ人が集まって作る冊子です。ちなみにコミケにあるのは、同人誌だけでなく、自作ゲーム、音楽、映像、写真、グッズなど多岐にわたります。

 同人誌は当然ながら、商業誌に比べるとかなり割高で、作る側も売れ残ることが多いようです。それでも、誰でも気軽に創作物を作り、リアルの場で発表できる魅力は大きいのです。ネットでコンテンツを発表できる現在でも、コミケのサークル出展希望は多い状況です。プロが出展したり、スカウトされてプロになる人もいます。

 また、テレビ局や大手出版社、アニメ会社、ゲーム会社がブースを連ね、グッズを売ったり、情報を発信する企業ブースも人気です。そして、多くのコスプレーヤーが参加し、好きなキャラクターになり切って自己表現をします。見どころ山盛りで、1日ですべてを見て回り切れません。最終日の午後になると疲れて、会場で座り込んで眠る人もいるほどですね。

 基本的には、夏(盆)と冬(年末)に開催しています。今回の開催が、ゴールデンウイーク(5月2~5日)になっているのは、東京五輪(当初は20年夏開催)の開催で会場(東京ビッグサイト)が使用できないことを受けて、前倒ししたためです。

◇「エアコミケ」ピークは初日 以降は半減

 「エアコミケ」は、コミケの中止を受けて自然発生し、主催の実行委員会も追認した企画です。一番わかりやすいのは、ツイッターを利用した企画で、ハッシュタグ(#エアコミケ)と共にコミケがらみのツイートをして盛り上がるものです。かつてのコミケの写真、イメージが伝わる巧みなイラストが並び、見るだけでかなり楽しめます。なおサークルの申し込み、経験の有無を問いません。エアコミケの専用公式アカウントもあり、そこから見るのもいいでしょう。

【参考】エアコミケ公式@comiket_air

 他にも、サークルが通販を実施したり、コスプレの写真をアップしたり、同人誌を扱うサイトには「エアコミケ」の専用ページがありました。コミケが中止になる中で、その受け皿となったエアコミケ。ネットを従来以上に積極活用し、可能性を感じさせたのは確かで、果たした役割は大きかったと言えます。

 ただ、皆さんの本音はどうでしょうか? むしろリアルのコミケが恋しくなった……という感じではないでしょうか。ヤフーリアルタイム検索で「コミケ」と入れると、2日の正午を最大値に、3日以降は半減しています。ピーク時のツイート数は約1万7000件ですが、1日20万人が訪れる本来のコミケに比べると、物足りなく感じてしまいます。私も当初は、リアル以上に面白いと感じ、ツイートを楽しく見ていたのですが、2日目以降からは、正直に言えばマンネリ感があったわけです。その直感は、データからも浮かんだと言えます。

「コミケ」のリアルタイム検索。ピークは2日正午。3日以降は半減しているのが分かります
「コミケ」のリアルタイム検索。ピークは2日正午。3日以降は半減しているのが分かります

◇コミケの神髄 多彩な価値観の共存共有

 要するに「エアコミケ」が終わって胸の中に沸き上がったのは、リアルのコミケに「行きたい」です。

 夏は熱射病との戦い、冬は寒さとの戦い。雨が降ろうものなら“地獄”です。早朝に目をこすり有明に向かい、開始前に見る数万の列に「うわー」と言葉が出てしまい、苦しいことしか思い浮かびません。特に企業出展をしていたときは、疲れのあまり家に帰ると泥のように眠っていました。

 ところがどれだけ疲れても、会場に入ると目が覚めます。巨大なスケール、お祭り感たるや、他のイベントの比ではありません。初見はもちろん、何度経験しても圧倒されます。午前中に一般サークルを回ると、都内の通勤列車が可愛く見えるほどの込み具合で、お目当ての同人誌の確保に奔走する、目が血走ったような来場者の姿にも、本気度を感じます。

 ただ歩き回るだけでも感じるものが違うのです。多彩なコンテンツが混じるカオス感。人気作を扱うサークルの数が増えると、ブームを実感します。また自分の好みの同人誌やゲーム、グッズを見つけたときのうれしさと高揚感もあります。来場者との会話も楽しいことが多いのです。

 ちなみに一般サークルが集うエリアは、表現の自由のギリギリを攻めるものもあり、撮影にも気を遣うため取材がしやすいエリアとはいえません。そのため、コスプレをメインに取材するメディアは多いのは確かです。ですが、私が取材をするときは、一般サークルのエリアに必ずに足を運ぶようにしていました。その熱量、動きこそがファンの生の熱量と考えていたからです。取材をすると拒絶の反応もあるわけですが、概ねは肯定的で親切な人が多く、それを含めてのコミケと理解していました。私は約20年間取材をし、一般サークル参加と企業参加の両方を経験しましたが、その視点から見ると、たいへん多くの価値観が共存共栄する場。それがコミケの神髄ではないでしょうか。

 リアルのコミケの魅力は、行った人だけが分かるものもあります。雑多というのは見たくないものも(強制的に)目に入り、自分の価値観を揺さぶられるのです。1日20万いても外界からシャットアウトされているからこそ、できることがあると気づかされました。誰もがアクセスでき、一方的に意見をぶつけてくるネットではこうはいきません。もちろんコミケもさまざまな問題を抱えていますが、その欠点を補ってあまりある魅力があります。荒っぽくもギラギラした、どこにもない輝き。この生命力がある限り、コミケが支持され続けるのはないでしょうか。

◇コロナ対策の「3密」どうする

 そんな価値のあるコミケだけに、何より今後が気になります。今後は全く予測できません。

東京オリンピック・パラリンピックの開催延期に伴い、2020年7月・8月に東京ビッグサイトが利用可能なのか、2020年12月に東京ビッグサイトの会場利用がどのように変更されるのか、現時点で不明です。また、新型コロナウイルス感染症に関する今後の状況を考慮する必要もあります。

2020年7月・8月にコミックマーケット98を延期することは現状考えておりません。また、コミックマーケット99は、4月11日発売予定のコミックマーケット98カタログ(冊子版)上では2020年12月29日~31日開催と明記しておりますが、改めて期間・会場が確定した段階で公式Webサイト等にて告知します。

出典:コミックマーケット98の開催中止について

 包み隠さず言えば、新型コロナこそ、コミケの存続の危機であり、最大の敵です。ここ最近のコミケの前に立ちはだかったのは、会場を奪った形になる「東京五輪」だったのですが、コロナの前では幻想にすぎません。極端に言うと会場は何とでもなります(理想はビッグサイトですけれどね)。具体的にはコロナの対策「3密」を、コミケがどう克服するかです。

 しかし、1日だけで20万人が訪れ、何百メートルの列ができるところに、ソーシャルディスタンス(約2メートルの間隔を空けること)を確保することは、コミケの参加経験者であれば「不可能」と頭を抱えるでしょう。思いつくのは、早くワクチンが開発され、「3密」が不要になるという、他力本願しか手がないのが痛いところです。リモートをするなら、今のネット通販で済むのですから。

 年末の冬コミケですが、準備期間も考えると開催可否のデッドラインは8月と見るのが妥当でしょうが、個人的意見でいえば相当厳しいと思います。ですが、例えそれが開催中止となっても、悲観する必要はありません。これまで共同代表の取材で、毎回のように繰り返し聞いてきたのは「コミケで最も重要なことは、場の提供を続けること」だからです。その意思がある限り、コミケは必ずよみがえるのですから。もちろん今冬に無事開催されることを強く祈っていますが……。

 いずれにせよ、今冬の開催がかなっても、残念な結果になっても、前を向くしかありません。個人ができる範囲で続け、同人文化の灯(ともしび)を守ってほしいと思うのです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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