「さよなら」Wii、3月で修理受付終了へ 化け物級の数字叩き出したゲーム機の功績は

任天堂のゲーム機「Wii」=Wii公式サイトから

 世界で1億台超を出荷した任天堂の家庭用ゲーム機「Wii」が、本体の修理受け付けを3月31日の同社到着分をもって終えると発表しました。修理に必要な部品の確保が困難であることが理由です。世界的に大ヒットし、ゲームの可能性を大きく広げた同機の功績を振り返ってみます。

 ◇発売後から売れて品薄に リモコン振り回してテレビに直撃も話題に

 2006年12月2日に発売されたWiiですが、発売前の下馬評はよろしくありませんでした。「ゼルダの伝説」のような本格派のゲームもありましたが、リモコン型のコントローラー「Wiiリモコン」をバットやラケットに見立てて振り回す新機軸の遊びを押し出したためです。従来にない提案をしたため、多くのゲームファンはピンと来なかったわけですね。

 ですが発売後、野球やテニスが楽しめるゲーム「Wii Sports」がすぐ人気となりました。実際に体験すると、バットやラケットを振り回す疑似体験が予想以上に面白いことが分かったわけですね。リモコンを振り回す未知の遊びが刺激的で、ゲーム初心者でも直感的にすぐ遊べたのもプラスに働きました。

 そしてコアユーザーだけが驚いたことがあります。自身がWiiリモコンの使い方に苦戦し、初心者ゲーマーと互角の戦いを演じる……ということがあったためです。彼らの強みはコントローラーを自在に使いこなし、どんなゲームにもすぐ適応できることです。ところがWiiでは操作端末がガラリと変わったことで、その優位性が「リセット」されたのです。

 さらに興奮するあまり、Wiiリモコンを強く振り回しすぎて投げてしまい、運悪くテレビ画面に直撃する人が続出したことも話題なりました。リモコン付属のストラップを手首にしっかり巻き付けることは必須となりました。そしてWiiは、ゲームファン以外も買い求め、たちまち品薄になりました。

 昔、ゲーム店の取材時に店員から聞いた話があります。ある老紳士がWiiリモコンのみを握りしめて「CMでやっている“ファミコン”はこれかね?」とレジに来たそうです。“ファミコン”がWiiを指すことを理解した店員は、リモコンは売っていても肝心のゲーム機が売り切れであると告げ、合わせてゲーム機本体以外にソフトが必要なことを説明しました。ですが老紳士は、テレビで見るWiiリモコンが手元にあるのに、ゲームができないことを理解できず「なぜ?」と食い下がったそうです。本当の意味で新規ユーザーを取り込むというのは、消費者がゲームの知識がない前提に立つ必要があることを教えてくれたわけです。

 そしてWii本体発売の約1年後に出た健康ゲーム「Wii Fit 」は、女性が強い興味を示しました。Wiiとソフト、周辺機器のバランスボードをワンセットに、女性が列をなして量販店のレジで買い求める姿はいままでにない光景でした。ちなみにゲーム好きの私も熱心に遊びました。Wiiは、ゲームを従来と違う位置づけにして、ファンも一般層のどちらもゲームの世界に引き込んだわけです。

 ◇任天堂一強が弱点になる皮肉

 Wiiに加え、携帯ゲーム機の「ニンテンドーDS」も大人気となり、任天堂の2009年3月期の連結決算は、売上高が約1兆8386億円、営業利益が約5552億円。いずれも過去最高という化け物のような数字を叩き出しました。Wiiの年間出荷数は2500万台、DSは3000万台を超えました。ニンテンドースイッチの年間出荷数は現段階で2000万台を突破したことはなく、ソニーのPS4の年間出荷数の最高は2000万台なので、いかにすごいかわかってもらえると思います。

 当時のメディアは(特に経済誌ですが)、「任天堂を見習え」と言った感じでした。決算の成績もさることながら、Wiiの斬新なアイデアがもてはやされました。

 ただ、長所が時間の経過とともに弱点にすり替わるのがビジネスの怖いところです。Wiiは従来のゲームとあまりに違うため、任天堂以外のゲーム会社はWiiの強みを生かしたゲーム作りに苦戦する傾向にありました。さらに他ゲーム機からの移植、他ゲーム機への移植も難しくなりました。その結果、Wiiの持ち味を十分に生かした任天堂のソフトが売れる一方で、任天堂以外のソフトの売れ行きは芳しくないものが多かったのです。任天堂以外のゲーム会社からWiiの特性を生かした斬新なゲームも出たりしたのですが、プロモーションが弱いと売れずに終わることもありました。

 つまりWiiに適応したソフトの制作力、ライトユーザーに訴求できるプロモーション力の両方が必要だったのです。任天堂以外のゲーム会社は次第にWiiを敬遠するようになり、その結果、Wiiは専用ゲームのタイトル不足に悩まされることになります。その後、任天堂の発表会に足を運ぶと、他のゲーム会社の出すソフトへの売れ行きに配慮する発言が目につくようになりました。

 もう一つ。任天堂以外のゲーム会社がWiiから手を引いたのは、高収益が見込めるとわかったスマートフォン用ゲームの存在があったからです。そして利益に敏感なゲーム会社ほど、スマホゲーム“押し”になりました。スマホゲームの存在がなければ、Wiiのソフトのラインナップはさらに充実していたわけで、Wiiの累計出荷数はさらに伸びていた可能性もありますね。

 それでもWiiの業績は素晴らしいものです。ゲーム機の性能に頼らずアイデアで勝負してヒットし、一般層へ訴求することでゲーム市場が大きく拡大することを実証しました。またWiiのような、斬新な体験を提示してくれる化け物のようなゲーム機の登場を心待ちにしています。

ゲームを愛するものの、ゲームには愛されないヘタレなゲーマー。ゲーム好きが高じて、記者として兜倶楽部にも出入りし、決算やメーカーの各発表会、PS3の米国発表会、中古ゲーム訴訟、残虐ゲーム問題など約20年間ゲーム業界を中心に取材をする。合わせてアニメやマンガにも手を伸ばし、作品のモデルになった場所をファンが訪れる“聖地巡礼”現象も黎明期から現地に足を運ぶなどしている。マンガ大賞の選考員も担当しており、好きなジャンルはラブコメ、歴史もの。

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