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PS5発売日&価格決定のフェイクニュース 対応難しいネットの悪意

河村鳴紘サブカル専門ライター
ソニー本社ビル(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 先日、新型ゲーム機「プレイステーション5」の発売日と価格がネットで広まりました。即座にソニー・インタラクティブエンタテインメントが否定し、フェイクニュースであることが判明しましたが、ツイッターで一時期「PS5の発売日」がトレンドに入るなど、多くの人がだまされました。考察する記事も出ていますが、概ねアクセス欲しさの行為であることは間違いないでしょう。

 このフェイクニュース、ゲームにある程度精通している人であれば、PS5の高すぎる価格(約7万円と約11万円の2種類)に「怪しい」と感じたはずです。

 現在、スマートフォンで無料でゲームが遊べ、steamなど無料のゲームプラットフォームがある時代です。さらにアップルやグーグルも安価なゲームサービスを打ち出しています。PS5は、現行ゲーム機と同じ価格で売るだけでもリスクを負っています。事実、無料のスマホゲームの猛威で、有料の携帯ゲーム機は絶滅に追いやられました。

 それが分かっている関係者は「あの価格はあり得ない」と苦笑する声が多かったですね。ですが、ネットで広がった現実を見れば「あり得る」と思っていた人も多かった……という結論になります。

 それとフェイクニュースも、練られていました。PS5に廉価版と高級版の2タイプがあるように見せかけ、それらしく見える写真もつけていました。記事の中身でおかしい部分もありましたが、見た目の体裁は整っていました。

 今回のフェイクニュースに悪意を感じるのは、価格の予想とか、うっかりミスではなく、明らかに発表があったかのような体裁を取り、それをさまざまな方法でプッシュし、拡散しようとした跡があることです。

 そして、こうしたゲームのフェイクニュースは、今後もより巧妙化して起こりえるのが問題といえます。

 昔の話になりますが、私も以前に自分が執筆した記事が、一部で手を入れられてネットの掲示板に張り出されたことがあります。それだけなら笑い話ですむのですが、その“記事”を見たメーカーから問い合わせが来たこともありました。

 当たり前の話になりますが、SNSに書き込む場合は、「本当かな?」と思いながら元の記事を見て、しかるべきメディアの記事かを確認することを徹底するしかありません。怪しいと思えばスルーするか、どうしても触れたい場合は「噂レベル」などと付け加えておくのが安全です。人間は、刺激的な噂話を広げたい心理が働くので、ネットの悪意と戦うのは自分自身とも言えます。 

 さらに今回のようなフェイクニュースは、報道側も対応が難しいこともあります。「フェイクニュースがあった」と記事で取り上げ、ユーザーに注意を促すことは重要ですが、記事の信用度を高めるために元のサイト名に言及すると、興味を持った利用者が元サイトにアクセスし、そのサイトの利益になります。

 対応が難しいのはメーカー側も同様です。今回、ソニーは今回のフェイクニュースを否定し、最小限の対応にとどめました。過敏に反応してしまうと、今後も類似のことが起きるたびに大げさな対応を強いられます。ですから今回の判断は賢明だと思うのですが、悪意のある相手に対して受け身のままで、誤解される可能性があるという課題は依然として残ります。ライバルの任天堂やマイクロソフトも狙われやすいでしょうし、人気ゲームを持つ有力ソフトメーカーも同様でしょう。

 ゲームのネタは人気があり、特にツイッターでは拡散しやすい特徴があります。今回のように“火消し”ができるといいのですが、株価に影響すれば笑い話ではすみませんし、対応の難しい頭の痛い問題なのです。世の中から詐欺がなくならないように、フェイクニュースがカネになる限り、私たちは悩まされ続けるのかもしれません。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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