ゲームの「出荷数」と「販売数」の違い 使い分けから見える“危機”

量販店に並ぶ「ニンテンドースイッチ」のソフト(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 ゲーム機やソフトの売れた数で、「出荷数」と「販売数」という二つの言葉があります。似たような言葉ですが、ビジネス視点では別物です。任天堂とソニーの2020年3月期第2四半期連結決算がまもなく発表されますし、良きタイミングと思いまして説明したいと思います。

 ◇曲者の「販売数」 正確な数字は存在せず

 一言で説明すると、出荷数はゲーム会社が販売店にソフトを出荷した数で、販売数は販売店が消費者にソフトを売った数になります。ユーザー視点で見ると、本当に売れた数が知りたくなるので、「重要なのは販売数」と思えるのですが、販売数は曲者なのです。

 出荷数はゲーム会社が出荷しているため、正確な数字をつかめます。ですが販売数は、全国の販売店のレジの動きをつかむ必要がありますから、出荷数のような正確な数は実質的につかめません。販売数はどうやって出すのかといえば、調査会社が、提携した店舗と協力し、さらに独自の指数などを使って補正し、推定の販売数を割り出しています。

 さらにいえば、現在はダウンロード販売があります。ダウンロード販売は消費者にダイレクトに商品が届くので「出荷=販売」になり、数も正確につかめます。ところが、ゲーム会社は現状として数字をリアルタイムで見ることができませんし、取材をしてもダウンロード数を積極的に明かさない傾向にあります。いずれにしても販売数の実態がつかみづらいのは仕方のないところです。

 ◇「販売数」にある二つの意味

 そして話がややこしくなるのが、ゲーム会社は決算発表で、ソフトの出荷数を「販売数」と表記していることです。販売数の一般的な意味は、消費者が買った数であり、現状の方法では推測の数に過ぎないことは説明した通りです。そして国内のゲーム業界の話ですが、販売店はゲーム会社へ返品できないという商慣習があります。従ってゲーム会社は販売店に出荷した段階で売り上げが確定しますから、その立場からいえば「販売数」と言っても間違いではありません。ですが「販売数」に一般視点とゲーム会社視点の二つの意味ができてしまい、ややこしくなります。

 ゲーム会社の本音は、出荷数と販売数を比較した「消化率」という別の言葉があることからも分かります。店に並んだ数と、店に並んで売れた数は歴然として違うわけですし、消化率は、その後の注文や価格変動、続編企画などにも影響します。そもそも、現場の生の数字が知りたいからこそ、わざわざ調査し、消化率を気にしているのですね。

 そうしたことは、取材をすればすぐ見えます。取材で広報担当に出荷数と販売数が交ざるような説明をされたときは「確認ですが、その数字は出荷数ですよね?」と念押ししていましたし、その質問に対して広報担当者が「わかりません」と言ってきたことは、一度としてありません。ゲーム会社の持っている数字は原則出荷数しかなく、販売数は第三者機関の調査データなので当然です。だから販売数と出荷数は区別するべき……という空気が、かつてはありました。例えば記者同士で「このソフトの出荷数は強気だね。販売数は厳しいから値崩れしそう」というような会話は、当たりでした。

 ところが最近のニュースでは、使い分けがあいまいです。特に気になるのが、記者が厳しく訓練されてデスクが厳しいはずの新聞記事でも、ゲーム会社の決算記事で「ゲームの販売数は……」となっているケースがあることです。メディアの現場がネットを意識した速報重視になって大変なことは承知していますが、同時にリリースをそのまま記事にすることに“危機”を感じてしまうのです。ゲームの決算やソフトの売り上げの記事で、ゲーム会社の発表した「販売数」が「出荷数」になっているかを見てください。換わっていれば上記のことを把握しており、そうでなければ曖昧にしているわけです。メディアを判断する一つの指標になると思います。

 「出荷数や販売数の使い分けなんて、大した問題じゃない」という声もあるかもしれません。ですがそうした考えは、取材姿勢に出ます。記事の裏取りをして、さらに確認をして、どれだけ精度を高めても間違いが起こる可能性が0%にならないように、ゲーム会社の出した公式発表でも正しいとは限らないのです。担当者のミスもありますし、建前を話しているだけだったり、意地悪になると誘導している場合もあるのです。だからこそ、私も発表の真意を考えて記事を書くよう、より注意したいと思っています。