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ソニーの新型ゲーム機「PS5」 発表から見える三つのポイント

河村鳴紘サブカル専門ライター
2013年に開催された「PS4」の発表会の様子(写真:ロイター/アフロ)

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が、次世代ゲーム機の正式名称を「プレイステーション5(PS5)」に決め、2020年の年末商戦期に発売すると発表しました。PS5について、今までの発表から見える三つのポイントをひもとき、価格などを予想したいと思います。

 ◇PS5の武器 快適さと臨場感

 一つ目のポイントは、SIEがPS5で見せたい狙いがはっきりしたことです。8Kになる通り映像の美しさは前提で、まずはPS4の弱点だった読み込み(ロード)時間の長さを改善して快適さを追求。そして触覚を刺激する技術を前面に押し出して、従来にない臨場感のあるゲームの提供を目指していることですね。まだ隠し玉がある可能性もありますが、メインの狙いはここで間違いないでしょう。

 ハプティック技術やアダプティブトリガーという、聞きなれない言葉が並びますが、要はコントローラーを振動させる種類が多彩になり、ボタンを押す感覚に変化がつくということです。これを8Kのゲーム画面と組み合わせることで、人の触感を刺激、あたかも銃の引き金を引いたり、草をかき分けるような錯覚をさせようというわけですね。既に提供済みのPSVRと組み合わせれば、相当な没入感を演出できるでしょう。

 PS5は生き残りをかけて、PC向けのゲームプラットフォーム「Steam」やゲームサービス「アップルアーケード」などとの差別化を図る必要があります。その答えは今回の発表となるわけですが、またも映像の見た目押しではなく、快適にプレーできる利便性と、異質的な体験を打ち出してきたわけですね。ライバルの任天堂が好むようなコンセプトで、時代の流れを感じさせます。

 ◇世界中のゲーム開発者へのアピール

 二つ目のポイントは、今回の発表がPS5を希望するゲームファンへの説明というより、世界中のゲーム開発者へのアピールであることです。リリース(発表文)を見ると一目瞭然ですが、ファン向けには技術面の説明が明らかに足りません。「分かる人(開発者)に分かれば良い」という書き方ですから、そこに“本音”が感じ取れます。

 PS5に人気ゲームを供給してもらうため、SIEは既に大手ゲーム会社に接触済みですが、マンパワーの問題で接触が及ばない中小ゲーム会社へのアピールも必要なのです。自社で世界的な大ヒットゲームを多く抱える任天堂に対して、SIEは自社のビッグタイトルのラインナップでは見劣りします。そんな状況でSIEがなぜゲーム業界に影響力を持っているかというと、クリエーターを尊重する音楽業界の論理をゲーム業界に持ち込み、その考えが支持された歴史があるからですね。ですからSIEは任天堂以上に、中小メーカーへの情報発信、門戸開放を怠ることはできません。そしてソフトの充実度合いは、ゲーム機の“寿命”にも直結します。

 加えて現在のゲームビジネスは、人気ゲームであれば巨額の開発費を投じるため失敗が許されず、基本的に保守的な作りになりやすいため、斬新なゲームが生まれづらい背景があります。そのため、小規模の開発陣で作ってコストを抑える一方、新機軸のゲーム制作をするインディーズゲームに期待がかかっています。インディーズゲームは、宣伝力不足など課題もあり、新しいアイデアを盛り込むことからバクチ的な要素が強いのですが、もし「マインクラフト」のような画期的なゲームが一つでも出て、一定期間だけでも独占に成功すれば、ライバルに決定的な差を付けられます。優位に立つためにも隠れた“命綱”と言えるかもしれません。

 ◇PS4との互換性 狙いは安心感か

 最後のポイントは、PS4用ソフトとの互換性を持たせたことです。当たり前のように思うかもしれませんが、現行機のPS4はPS3用ソフトと互換性はありませんから、大転換と言えます。

 ですが誤解を恐れずに言えば、前世代機との互換性は新ゲーム機の普及には影響しないのです。PS3は当初PS2用ソフトと互換性を持たせていましたが、その後互換性を外しました。PS4は最初からPS3用ソフトと互換性は持たせていません。そのためPS4の発表時は「買ったPS3のソフトが遊べない」と非難を浴びました。ところがPS4の普及はPS2を上回る勢いで推移、1億台を突破した事実があります。

 そして互換性について、SIEはリリースでも確定的な文言を避けていることから分かる通り失敗する可能性もあるわけで、作業が面倒なことこの上ないのです。そのリスクを取ってでもPS5が互換性を持たせようとしているのは、現在のPS4のユーザーに安心感を与えようとしているからでしょう。PS5でPS4用ソフトが遊べるのであれば、ソフトを買い控える必要もなくなりますから、PS4のビジネスに影響を与えにくいでしょう。PS5が普及すれば、互換性を外した廉価版を展開し、さらなる普及を狙う案もありですね。

 一方で弱点をどうカバーするかです。互換性は、PS4からPS5への買い替えの圧力を弱めることにもなります。実際PS2用ソフトと互換性があったPS3の初期には、PS2からの買い替えがうまくいきませんでした。従ってPS5ならではの面白いゲームを生み出すことは必要になるでしょう。

 ◇価格予想は4万円 選択肢少なく

 最後にPS5の価格の予想もしましょう。PS5の価格はSIEから発表されてないのですが、ずばり4万円前後でしょう。参考に過去のPSシリーズの発売日と価格を並べてみました。

PS  1994年12月3日 3万9800円

PS2 2000年3月4日 3万9800円

PS3 2006年11月11日 4万9980円~

PS4 2013年11月15日 3万9980円(税込み4万1979円)~

 ちなみにPS3は当初、6万円を超える価格設定で「良いものだから売れる」と強気の姿勢でしたが、「高すぎる」と批判を浴びて方針を転換、発売前に“値下げ”をすることになりました。それでも初期の販売は伸び悩み、累計出荷数はPS2と比べて半分程度の約8740万台にとどまりました。その失敗はSIEも痛いほどわかっているわけです。

 そしてPS5は高性能ゆえに、コストが販売価格を上回る“逆ザヤ”になる可能性は高いのですが、だからといってゲーム機の価格を簡単に上げられないのです。むしろライバルのゲームサービスを意識せざるを得ず、価格を下げる圧力がかかるでしょう。スマートフォンで無料ゲームが山ほどある今、PS5はただでさえ「ハードを売る」というハンデを負っています。ですから、コストと機能導入のバランスの取り方は、これまでの歴代PSシリーズと比べてかなり難しいところですが、過去の流れと同様4万円が一つのラインになりそうです。

 PS5の今後ですが、次は実機を公開する時期に注目が集まるでしょう。PS4のように2月ごろに単独で発表会を開くか。来夏に開催されるゲーム展示会「E3」に合わせてくるか。それとも裏をかいてネットで発表するか。今後の動きも気になるところです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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