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ラグビーW杯開催もラグビーのテレビゲームは… リスク回避重視の“本音”

河村鳴紘サブカル専門ライター
ラグビーワールドカップの日本代表対アイルランド代表の試合(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 ラグビーのワールドカップ(W杯)が開幕し、28日には日本代表が世界ランキング2位の格上・アイルランドを撃破しました。テレビでも生中継され、関連番組も放送されるなど盛り上がっています。興味を持ち始めた人も多いのではないでしょうか。

 ところが、日本でのW杯開催にもかかわらず、テレビゲームには肝心のラグビーソフトがほぼない状況です。PS4のオンラインショップで「ラグビー」を検索してもヒットはせず、ニンテンドースイッチは1件あったものの、スマホゲームでも遊べるタイトルで、残念ながら日本代表は登場しません。実は本物のCGのような本格的なラグビーゲーム(PS4など)があるのですが、海外版を手に入れるしかありません。

 要するに、ラグビーW杯で、ラグビーが一般に認知される好機、ビジネスチャンスにもかかわらず、日本のテレビゲームのメーカーは「不要」という判断を下したことになります。

 これは、私がゲーム業界を20年間取材して感じることなのですが、日本のソフトメーカーは、“未開”の分野への「ベット(bet、賭け)」が得意ではありません。例え挑戦しても、リスクの見切りが早く、総じて待つことが苦手でもあります。

 もちろん、これまでに出たゲームソフトで、挑戦的な作品も存在しますが、私が取材する限りでは、企画者が情熱で押し切ったり、トップが決断するという話が多いですね。誰かが首を賭けない限り話が進まないというのは、ゲーム業界に限らずある話ですが。

 あるソフトでは、最初は社内で反対されながら、責任者が黙って開発を進めて既成事実を作り、やむなく売ったらヒットして人気シリーズになった……という嘘のような笑い話もあります。それはそれで企業としては問題ですし、話も割り引いておくとして、挑戦的なことができないことの裏返しと言えるでしょう。

 特にテレビゲームは普通は億単位の開発費がかかりますから、失敗をいかに減らすかに重点が置かれるのは、仕方のない面はあります。斬新なアイデアのゲームは、小規模で取り組むインディーズゲームでフォローしようという動きもあるのですが、知名度不足、宣伝不足もあり、順調とは言い難いところです。

 さて、そうした中で、ラグビーゲーム不在の状況のゲーム業界を救っているのは、皮肉にも携帯ゲーム機市場を実質的に滅ぼしたスマートフォン用ゲームです。スマホゲームにはラグビーゲームが複数あり、無料でプレーできるものもあります。App Storeの無料ゲームのランキングには、日本代表が活躍した日の翌日に順位が上がるなど、目に見える相関関係にあります。実際、サッカーゲームも同じでして、W杯の日本代表の活躍次第で、ソフトの売れ行きが劇的に変動するのです。

 そうしたゲーム市場の事情を考慮しても、ラグビーという新ビジネスのタイミングで、各社の“本音”が気になるところですね。ゲームファンを増やす好機にもかかわらず、可能性を自らゼロにしているわけです。「ベット」するだけなら、いくつかあるラグビーゲームの中から、日本市場販売の権利を取得し、翻訳なしで売る方法もありますが、それもしていません。日本市場は、ゲームソフトを扱う販売店に卸せば、返品ができない商慣習があります。交渉次第で、やりようはあると思うのです。

 「ラグビーゲームは売れない」というのは、現状その通りでしょう。ただし、ビジネスの面白くて難しいところなのですが、社会的ヒットになった商品は、前評判は乏しいものが大半です。ゲーム機を見ても、PS、ニンテンドーDS、Wii、スイッチもそうですね。そりゃヒットすると分かっていれば、どの会社だって手を出すわけですからね。

 ビジネスでは、リスクを取らずにリターンはありえません。リスクとリターンのバランス、リスク回避は重要ですが、キャッシュも相応にあるはずの大手のゲーム会社であっても、冒険を避ける傾向にあります。もう失ったチャンスは取り戻せませんが、未開の分野へ「ベット」する意味をもう一度考えてほしいと思います。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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