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サガン鳥栖から世界の名門バイエルンへ。福井太智の類稀な才能と可能性を解説する。

河治良幸スポーツジャーナリスト
筆者撮影

サガン鳥栖はMF福井太智がドイツの名門バイエルン・ミュンヘンに完全移籍することを発表しました。

練習参加で、その実力と将来性が認められた形の移籍で、福井本人にとっても、日本を代表する“育成型クラブ”を目指す鳥栖にとっても、大きな第一歩だと思います。

まずはドイツ4部のBチームで経験を積みながらアピールしていくことになり、そこで評価が高まればバイエルンと繋がりの深い欧州クラブに期限付きされる流れになるかもしれませんが、この先何が起こるかは誰にも分かりません。確かなことはひとりの若き日本人タレントが、18歳にして世界で挑戦する大きな一歩を踏み出したということです。

もしかしたら今回の報道で初めて福井の名前を聞いたサッカーファンもいるかもしれません。神奈川県の横須賀出身で、U-12から鳥栖のアカデミーで技術を磨いてきた高校3年生ですが、昨年から二種登録としてリーグ戦4試合など、トップチームの公式戦にも出場。今年3月に鳥栖とプロ契約しました。

それでも福井の名前があまり広まらなかった大きな理由に、コロナ禍でのU-17W杯中止がありました。筆者はU-16時代から何度か福井を取材していますが、1つ上のU-20W杯とともに、世界で若い選手が経験を積むチャンスが閉ざされたことが非常に残念でした。

しかし、そうした状況でも前向きに成長を続けた福井は2004年生まれながら、2003年生まれの選手をベースに来年のU-20W杯を目指す“03ジャパン”の代表メンバーにたびたび選ばれています。

サガン鳥栖からはDF中野伸哉もチームの主力としてキャプテンマークを巻いていますが、ボランチを本職とする福井の存在感というのはアンダー代表でも際立つものがあります。まずはボールを持っている時も持っていない時も、立ち姿勢で周囲の情報を収集する観察眼です。

左右のボールタッチやキック技術も高いですが、ボールを持つ時には次の行動が決められているので、ワンタッチやツータッチでフリーの味方や相手も嫌がる場所にパスを送ることができます。

そしてバイタルエリアなどに入り込んでいくセンスも抜群です。単独のドリブルでどんどん突破していくようなタイプではないですが、マークを外すターンが非常にうまく、周りを生かしながらタイミングよく危険な場所に顔を出してラストパスやミドルシュートにつなげることができる。

攻撃のあらゆる局面に顔を出して、効果的なプレーができるところに特長があります。ワールドクラスの選手にタイプを当てはめるなら、バイエルンでも活躍した元スペイン代表のチアゴ・アルカンタラ(リバプール)が近いのではないかと思います。

そして攻撃的なキャラクターでありながら、守備に回っても的確なチェックや見た目以上に鋭いボディコンタクトなど、ボランチとしての高いスタンダードを備えています。

もちろんバイエルンのトップチームをはじめ、欧州主要リーグを舞台に活躍するためにはフィジカル面を大きく上げて行く必要はありますが、その時に何が必要かを判断して行動する能力は備わっているので、欧州での実践経験あるのみだと思います。

バイエルンのトップチームは先に行った通り狭き門ですが、少なくとも福井が欧州で着実に成長することを期待できる理由が二つあります。ひとつは鳥栖がアカデミーから技術面だけでなく、戦術面も指導していること。もうひとつが取材の印象ですが、謙虚に前向きな姿勢です。それは鳥栖のほとんどの選手に共通するので、一貫指導の賜物だと思います。

特別大きいとか、ずば抜けて足が速いといったアスリート的な身体能力ではなく、試合で使える技術や状況判断といった要素が評価されての移籍だと思います。バイエルンのトップチームが狭き門というのは繰り返し強調していますが、おそらく名門クラブの目に留まったのはドイツになかなかいないタイプだからだと思います。

福井のバイエルンや欧州での挑戦に注目することはもちろん来年のU-20W杯を目指す“03ジャパン”、さらには2024年のパリ五輪でも主役の一人になりうるタレントなので、代表レベルでの活躍も期待されます。

パリ五輪世代のボランチは近年稀に見るタレントの宝庫で、鳥栖の先輩である松岡大起(清水エスパルス)や藤田譲瑠チマ(横浜F・マリノス)、同じ“03ジャパン"でパリ五輪に向けた代表チームにも飛び級で選ばれている松木玖生(FC東京)、ベルギーのコルトレイクに移籍した田中聡、レアル・マドリーのカスティージャ(Bチーム)に昇格した中井卓大も福井のライバルになり得る選手です。

そうした同世代のライバルと切磋琢磨しながら、ゆくゆくはA代表で観たい選手ですが、まずはドイツでの新たな挑戦に期待して、注目していきたいと思います。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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