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五輪延期で男子サッカーに起きた年齢資格の問題。97年生まれの選手はA代表を目指して欲しい。

河治良幸スポーツジャーナリスト
エース候補の小川航基も97年生まれだが… (筆者撮影)

新型コロナウイルスの影響で東京五輪は”1年間程度の延期”が確定。IOCは来年7月23日の開幕を最有力に調整を進めていることが伝えられる。

男子サッカーに関して言えば、欧州主要リーグのレギュラーシーズン、来年に延期されたEUROやコパ・アメリカと日程が被らないだけでも朗報だが、1年間のプロセスにおいては東京五輪の強化に意識を向けにくくなってくるのは変わらない。

現在はU-23だった出場資格をU-24に引き上げられるかどうかが話題の中心になっている。確かに幼少期から”東京五輪世代”と呼ばれ、東京五輪を目指してきた97年生まれのサッカー選手にとって切実な問題だが、さらに大きな問題が2021年における五輪の位置付けだ。

プロスポーツとして世界中に普及しているサッカーにとって、ナショナルチームの最高の大会は4年に1度のW杯であり、もともとアマチュアスポーツの祭典であった五輪の立場は難しかった。

出場資格をプロ選手に解放する代わりに年齢制限をU-23とし、本大会のみオーバーエイジ3人を加えられる現在のレギュレーションも紆余曲折を経て行き着いたものだ。

それでも、五輪もW杯も4年に1度のサイクルであることが、ある種の両立をもたらしてきた背景がある。しかし、今回の延期は男子サッカーにとって”五輪どころではない”状況を生み出しそうだ。

実際にこれまでA代表と五輪代表の指導を兼任してきた森保一監督の”兼任監督”も今回の延長を受けて、4月の技術委員会で改めて協議されることになりそうだ。

今回の新型コロナウイルスが中国を端緒にアジアから広がったこともあり、AFCはいち早く3月と6月に行われる予定だったW杯二次予選の原則延期を決め、もともと今年の9月からスタートする予定だった最終予選も後ろ倒しになった。

8試合ある最終予選は来年3月、6月、9月、10月、11月の国際Aマッチデーに組み込まれるが、7〜8月に開催される五輪はその合間となるのだ。日程的に両方の出場は可能だが、U-23あるいはU-24の選手であっても、A代表の戦力であれば五輪ではなく、そちらでの活動を優先していくべき時期にあるのは言うまでもない。

これまでも堂安律や冨安健洋などA代表に定着しているU-23の選手たちはA代表の活動を優先してきたが、昨年11月には堂安、久保建英、板倉滉が当時のU-22日本代表に参加した。

さらに招待国として参加したコパ・アメリカや東アジアの王者を決めるEAFF E-1選手権ではもともとベストメンバーを組めない事情を逆手に取り、A代表と五輪世代をミックスさせることで”森保ジャパン”のラージファミリーとして融合を図ってきた。

それには東京五輪でのオーバーエイジの参加を円滑にすること、さらに東京五輪を経験した選手を最終予選、さらにはカタールW杯のメンバーに組み込みやすいという目論見があり、森保監督の兼任が賛否両論ありながらも正当化されてきた。

しかし、これまでよりA代表の重要度がはるかに増す今後1年間でA代表の活動を五輪の強化に利用することも、A代表の選手を五輪に優先させることは難しい。そもそも、そうするべきではないだろう。

スポーツの祭典である五輪は多くのアスリートにとって夢の舞台であり、それはサッカー選手にとっても変わらない。しかし、サッカーにはW杯という頂点の舞台があり、極論を言えば五輪もそのプロセスにすぎない。

97年生まれの選手たちは来年24歳になる。サッカー選手としては若手から中堅に差し掛かる年齢だ。98年生まれの堂安律や冨安健洋など、すでにA代表に定着している選手たちは最終予選で主力を担っていく存在であり、2001年生まれの久保建英も順当ならA代表の活動が中心になるはず。その一方で、拘束力のない五輪への参加は難しくなるかもしれない。

97年生まれの板倉滉や中山雄太は東京五輪がU-23のままなら出場資格を得られないが、すでにベストメンバーのA代表を経験しており、最終予選を優先するべき選手の一人だ。

そのほかにもエース候補の一人であった小川航基をはじめ小島亨介、渡辺剛、町田浩樹、相馬勇紀、森島司、旗手怜央、遠藤渓太などが97年生まれの選手であり、欧州組では前田大然も97年生まれだ。

”東京五輪世代”と呼ばれてきた彼らにとって五輪は大きな目標であることは間違いない。しかし、東京五輪からA代表へという流れがメインストリームではなく以上、出場資格がどうなろうと、ベストメンバーのA代表にいち早く招集されることを目標にして行って欲しい。

オーバーエイジの位置付けも難しくなっている状況で、仮に出場資格がU-23のままだったとしても、オーバーエイジの3人に選ばれれば五輪出場は可能だ。最終的にどう決定されるか分からないが、A代表を目標にして、東京五輪は「オーバーエイジで出てやるか」ぐらいの気持ちの切り替えをしてくれたら頼もしい。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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