横浜F・マリノス仲川輝人の松本山雅戦でのゴラッソはなぜ生まれたのか。プロセスとメカニズムを解説。

(写真:Motoo Naka/アフロ)

J1は第32節が行われ、数多くのゴールが生まれました。DAZNに選出された週間スーパーゴールは以下の通りです。

川崎フロンターレ/脇坂泰斗 (浦和レッズ戦)

ガンバ大阪/宇佐美貴史 (ベガルタ仙台戦)

大分トリニータ/田中達也 (清水エスパルス戦) 

横浜F・マリノス/仲川輝人 (松本山雅戦)

清水エスパルス/ジュニオール・ドゥトラ (大分トリニータ戦)

そしてベストゴールには湘南ベルマーレ戦の森重真人(FC東京)が選ばれました。

DAZN週間スーパーゴール(DAZN公式twitterアカウントより)

KAWAJIうぉっち】では6ゴールそれぞれを個別に解説していますが、その中で、アウェーの試合でマリノスに貴重な勝ち点3をもたらした仲川輝人のゴールをピックアップして解説します。

横浜F・マリノス/仲川輝人 (松本山雅戦)

【ゴール集】2019J1リーグ第32節vs松本山雅FC

このシーンは結果的に仲川のドリブルからそのまま見事な”ゴラッソ”に結びつきましたが、マンチェスター・シティを”総本山”とするシティ・フットボール・グループの理念をベースに、昨年から就任したアンジェ・ポステコグルー監督が構築してきた明確な崩しのメカニズムが反映されています。

ただし、その前の段階としてこの時間帯は松本山雅に対して理想的なボールポゼッションができていた訳ではありません。マリノス対策を準備してきた松本山雅から立ち上がりの主導権を奪ったのは”デュエル”でした。

あまり表立って語られることはありませんが、オーストラリア代表でW杯を経験し、アジアカップ制覇にも導いた”ボス”ことポステコグルー監督がルーズボールでの予測や”球際の強さ”を植え付けていることが、このゴールにいたる流れから見て取れます。

左サイドで扇原貴宏がマテウスに縦パスを入れ、マテウスのリターンにティーラトンが飛び出して受けようとしますが、藤田息吹と橋内優也が進出を塞ぎ、さらに岩上祐三が寄せてセカンドボールになりますが、マルコス・ジュニオールがカバーします。

戻したボールを畠中槙之輔が逆サイドに展開する素振りから、再び左前の扇原につなぎ、インサイドのティーラトンに通そうとしたところに藤田、岩上、FWの永井龍が囲み、その中でティーラトンのキックが松本の選手に当たってこぼれたボールを藤田と扇原が奪い合い、マリノス自陣側のFW阪野豊史と喜田拓也がいるところにこぼれます。

この時点で松本のが有利な状況にありましたが、喜田拓也がショルダーで阪野のバランスを崩しながら有利な体勢を取り直し、畠中にバックパス。そこから松原健に展開して、さらに仲川に通したところからゴールに結びつきました。もし、”球際”の局面で山雅がボールを奪えていれば、ショートカウンターからチャンスを得たのは山雅だったかもしれない局面でしたが、マリノスがポゼッションで相手を翻弄するだけのチームではないことを示したシーンでした。

そこからバックパスを受けた日本代表DFの畠中槙之輔が右のインサイド寄りにポジションを取っていた松原健に展開すると、松原は素早く右前方の仲川にグラウンダーのパスを付けます。仲川が相手陣内の高い位置でボールを持った状況で、ほぼ同じ高さで中央にはエリキ、左サイドの幅を取るマテウス、中央の少し下がり目にマルコス・ジュニオールがおり、この時点では4ー2ー1ー3のフォーメーション通りで、全体をストレッチ(相手の守備を縦横に開かせること)させた状態になっています。

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(http://footballtactics.net/appnew/を使用)

松本山雅は3-4ー2ー1のウィングバックが落ちて5バックを形成し、その手前でアンカーの藤田息吹がマルコスをチェックしていました。左ウィングバックの高橋諒は仲川、右ウィングバックの田中隼磨はマテウスとマッチアップ関係にあり、残る3バックがエリキが1人の手前に並ぶ状態です。

松本山雅としては自陣深くに押し込まれているものの、守備は揃っており、このまま強引に仕掛けられてもそう簡単に崩されることはないでしょう。しかし、仲川はすぐ縦に仕掛けず、少しゆっくりと初動し、マルコスが斜めに動き出して3バック左の水本裕貴と中央の飯田真輝の間に走ることで3バックを押し下げ、入れ替わりで仲川がカットインするスペースを作りました。

仲川の背後からMFの杉本太郎が迫りますが、鋭いカットインで高橋と杉本を同時に振り切る状況を作りバイタルエリアに侵入。そこにゾーンの関係でマルコスのチェックを外していた藤田が対応しに来ますが、やはり途中までマルコスに付いていた分、タイトにチェックするには仲川との距離が遠く、縦を切るしかない状況でした。

ここでもう1人、効果的な動きを見せたのがエリキです。仲川がボールを持った段階では3バックに挟まれていたエリキでしたが、マルコスの動き出しで山雅のディフェンスがワイドに引っ張られたことにより、実質的に3バック右の橋内優也とオフの1対1のようになっており、仲川からパスを引き出す構えを見せます。

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当然、橋内はそこを警戒しなければならず、逆サイドでマテウスにストレッチされていた田中隼磨との距離が空いてしまいました。その瞬間に左足でシュートを打つこともできそうでしたが、3ハーフの残りの一枚である岩上祐三がダッシュでスペースを埋めに来ました。

ただ、岩上もおそらく仲川がこのタイミングでシュートを打つと読んだのでしょう。勢いよくスライディングしてコースを切ろうとしますが、仲川が選択したのはさらにインに踏み込むプレー。これで完全に相手のディフェンスを崩すと、心得たとばかりにエリキが右に動いて空けたコースに左足で低い弾道のシュートを打ち込みました。

決めた仲川のシュートに話題が集まるのは当然ですが、右サイドで起点を作るにいたるプロセスに始まり、右サイドからのカットインというシンプルなプレーの周囲に起きていた崩しの共有を1つ1つ見てみると、マリノスが終盤戦で優勝争いを演じている要因がよく分かるゴールでした。