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”00ジャパン”試練のイングランド戦。攻撃のタクトを握る久保建英は勝利を演出できるか。

河治良幸スポーツジャーナリスト
(写真:田村翔/アフロスポーツ)

グループリーグを1勝1分1敗の2位で終えた”00ジャパン”ことU-17日本代表は決勝トーナメント1回戦(ベスト16)でイングランドと対戦する。難敵揃いのF組を3連勝。しかも11得点2失点と圧倒的な強さを見せてきた相手に森山佳郎監督も「200億対10億の戦い」と表現する。

しかし、「サッカーは1+1=足し算ではないところがサッカーの面白い所。日本の組織的なことで対抗したい」と勝利への強い意欲を示す。「状況で一番いい判断ができる選手が揃っている」と指揮官も語るチームで攻撃のカギを握るのが久保建英だ。ホンジュラス戦で上々のスタートを切ったが、フランス戦は局面で輝きを放つ場面はあったものの、ゴール前で決定的な仕事はできなかった。

「(ここまでの自分のプレーは)自分が理想としていたよりは高くないですけど、そこもある意味で想定内ではあるので、別に大会が終わったわけではないですし、明日それを変えられればいいこと」と語る久保はフランス戦とニューカレドニア戦では「ボールを持った時に何らかの原因で後ろに簡単なパスを下げたりしていた」と全体が消極的になっていたことをパフォーマンスが低調になってしまった要因にあげる。

しかし、もともとチームの良さは組織的に前向きな姿勢を押し出していくこと。久保のクリエイティブな能力もその中でこそ発揮されるものだ。イングランドを相手に多少ボールを持てなくなる展開も想定した上で、「このチームは多少相手に持たれる時間が長くても、奪ったあとのカウンターというのは強力だと思いますし、個だけじゃなくて連係でカウンターを作れるチーム」と語る。

「そこを出さないことにはいい勝負はできないので、そこは絶対に出したいと思います」

イングランドは強力な攻撃陣がフォーカスされやすいが、CBのラティオウディエとグエヒのボール奪取力と正確な展開が支えており、久保も「どんどん奪ってから前に行くというのに(攻撃陣が)助けられていると思います」と警戒する。ただ、その守備も日本に対して意図的にブロックを作ってきたフランスに比べると個で勝負する傾向が強い。

久保や縦の突破力に優れる右サイドの中村敬斗、推進力のあるボランチの平川怜らが個と個の間を突いて行く様な仕掛けを繰り出せれば、攻撃面では付け入る隙があるだろう。そこで問われるのは素早く連動する速攻の質であり、久保には高い位置で崩しの中心としての役割が求められてくる。もちろん、イングランドがこう守ってくるだろうという試合前のイメージはあるはずだが、いざピッチに立ってみないと分からない部分はある。

「全然自分たちが想定していたのとは違う守備をしてくる可能性もなきにしもあらずなので、そこは臨機応変に、頭もプレーも柔軟性を持てたらいいなというのは、自分としても、チームとしてもイメージしています」

ゴール前での決定的なプレーが期待される久保だが、攻撃のタクトを握る選手としてゲームコントロールの部分でもボランチの福岡慎平や平川とうまくイメージを共有しながら、ボールを持つところ、速く仕掛けるところなどを判断していけるかどうかがポイントになる。記者会見に出席したキャプテンの福岡も「監督から言われて変えるより選手たちで会話ができるかが重要」と語っていたが、久保も出ている選手の状況判断が重要と考えている。

「ピッチに立っている選手たちは11人だけなので、(試合中は)自分たちで変えていこうというのは話し合っています。その上でやっぱり外からの指示もいい情報なので、そこはどんどん出してもらって、その中で自分たちがやっていければ」

当然、相手は体格的に日本を上回るが、「自分はだいたい今までずっと自分よりも大柄な選手とやっている」と語り、相手と間合いをはかりながら上回るプレーを出していく術は心得ている。「そこは逆に同年代ということで、少し、いつもよりもチャンスかなという気持ちで、ポジティブにやっていく」と久保。U-20の経験については「やっぱり口で表せないこともいろいろありますし、いまは正直明日の試合に集中したい」と強調するが、同世代の戦いで負ける訳にはいかないという意識は強く感じられる。

イングランドで最も注目されるジェイドン・サンチョ(ドルトムント)がクラブの事情で帰国したという情報については「イラクとイングランドの試合を前半だけみんなで見て、その時はサブだったんですけど、はっきり言ってそれに気付かないくらい差がなかった」と語り、主力が1人欠けたからといって大きく質が下がるチームではないと認識している様だ。

「ここからは本当に勝つか負けるかの戦いになってくると思うので、明日は最後のゲームになるつもりで一所懸命、全力でやって、次のラウンドに進めればいいと思います」

大会前から周囲の期待を常に背負う選手ではある。インドメディアからの注目度も尋常ならざるものはあるが、本人は地に足を付け、目の前にある試合に全力で挑むという姿勢を強く感じさせる。ここからの戦いで攻撃の中心として重要性は増すが、結果や評価はチャレンジの先に付いてくるもの。まずは仲間とともにベストを尽くして勝利する。その意識のもとに、才能を発揮できればおのずと道は開けてくるはずだ。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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