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シリア戦でいきなりスタメンも。異色の右SB塩谷が日本代表にもたらすもの。

河治良幸スポーツジャーナリスト

日本代表は10月8日にオマーンのマスカットでシリアと二次予選を戦う。現在3試合13得点、無失点と好調の相手にここで勝利できなければ、自動突破の条件となる首位がかなり厳しくなってくる。

今回のメンバー選考でハリルホジッチ監督が新しく招集したのは柏木陽介(浦和レッズ)、南野拓実(ザルツブルク)、塩谷司(サンフレッチェ広島)の3人だが、シリア戦に向けて特に期待がかかるのは塩谷だ。酒井宏樹が負傷で外れた事情はあるが、もう1人の右SB候補である酒井高徳が所属クラブのハンブルガーSVでなかなか出場機会を得られていない(合流直前のヘルタ・ベルリン戦で後半1分から出場)ため、いきなりスタメンに抜擢される可能性もある。

「彼も時間をかけて追跡している選手だ。東アジアカップには怪我で招集できなかったが、今回は自分のクオリティーを見せる良いチャンスだと思う。彼自身がここにいる理由を証明してくれるだろう。彼は非常に興味深い選手だ。所属クラブでは中央でプレーしているが、われわれがオーガナイズしているシステムとは異なるので、右サイドバック(SB)で競争に加わってほしい。テクニックのクオリティーもパワーも十分にある。私がチャンスを与えるメリットは十分にあるだろう」

ハリルホジッチ監督がこう評価する塩谷はアギーレ前監督のもとで代表デビューし、今年1月のアジアカップにもメンバーに名を連ねたが、準々決勝まで4試合で1度もピッチに立つことなく大会を終えた。その塩谷にとって転機となったのは昨年にシンガポールで行われたブラジル戦だろう。森重真人とCBでコンビを組みスタメン出場したものの4失点。周りのミスもあったが、彼自身も世界的な強豪を相手にした時の力不足を痛感した様だ。

「ブラジル戦は特別なものだったし、世界のトップのレベルというものを痛感して、自分に全然足りない。まだまだ全てにおいて足りないというのを感じました。でもそういう経験があったからこそ自分が上に向かって高い意識で取り組めてきていると思うので、そういう経験は無駄にしない様に日々すごしてきたつもりなので、それをピッチの上で出したい」

成長のために「1つ1つ細かいところの練習から積み重ね」を大事にしてきた塩谷。今年はACLでの戦いは無いが、Jリーグにおいても常に高い意識を持ってプレーし、日本代表でハリルホジッチ監督が求める資質を示していることが、「今年の最も大事な試合」と指揮官が強調する大一番に向けたメンバーに選ばれた1つの理由だろう。

「球際のところはアジアで厳しい戦いになるので、そういう部分でJリーグでしっかり戦っているところを見てくれているのかなと思います。テクニックは広島で攻撃に出る回数が多いので、Jリーグでやっているところを見てくれているんだなという風に思いました」

日本代表のシステムや基本スタイルは広島と異なるが、本質のところで共通する部分はある。その共通点と相違点をどう受け止めて準備し、試合に臨んでいけるかが、いきなり高いパフォーマンスを出すためのカギだ。特にハリルホジッチ監督は自陣の16・5M(ペナルティエリアの高さ)に入れさせない守備を心がけている。そのためにSBが果たす役割は大きい。ここで塩谷の力強さが加われば、これまでより強い相手との試合でも、指揮官が志向する戦い方を実現しやすくなる。

「SBなので自分が対峙する選手は攻撃的な選手が多いと思うので、そこで前を向かせないところだったり、自由にやらせないところだったり、一番にはボールをインターセプトすることで、そこから守備ゾーンに入ったら自分で奪える様に、そういうプレスのかけかたというのを意識してやっていきたいと思っています」

もう1つ大事になるのがビルドアップだ。高いラインを維持しながら、グラウンダーの速いパスを駆使して相手の背後やスペースを積極的に狙っていく攻撃志向は常連メンバーでも十分には消化できていない要素だ。「広島はゆっくりやることが多くて、バックパスも多いですし、ここで求められることはまた違うと思う」と語る塩谷は5月のミニ合宿にも参加しており、そうしたスタイルはすでに理解している。

「シンプルに付けるところに付けて、スペースを見つけて走るだったり、自分一人で何かするタイプではないので、味方をうまく使いながら攻撃はできたらなと。守備は球際のところでしっかり戦ってやるだけかなと思っています」

2018年に行われるロシアW杯の本大会では29歳。ハリルホジッチ監督が率い、ブラジルW杯で躍進した当時のアルジェリア代表は28、29歳の選手が中心を占めており、ちょうどその年代に当たる。この大事なシリア戦、さらにイランとの親善試合でチームの勝利を支える活躍ができれば、SBのポジションで代表定着につながってくる。

右SBに加えて、本職である3バックのストッパーやCBでの能力も備えている塩谷。彼の活躍は代表チームの内外の競争を活性化する部分でも大きな意味があるはずだ。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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