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明るく前向きに、元気な声で。ハリルホジッチ監督の求めるキーパー像を追求する西川周作の道

河治良幸スポーツジャーナリスト

国内組が合流し、練習場所を横浜に移して行われた月曜日。ちょっと変わった視点で代表の練習を見ることができた。スタジアム内のゴール裏には取材者用の柵が無く、GK練習をすぐ後ろから見ることができたのだ。

フィールド選手の練習が遠目になったこともあり、筆者は邪魔にならない範囲で近くまで寄り、GKの練習をじっくりと観察した。リカルドGKコーチがバックパスのトラップからワイドへ確実に蹴り出す指示を行っていたが、途中でハリルホジッチ監督が近づいて来て体の前でさばくトラップから、インサイドで踏み出すのではなく、はなくインステップ気味に足を降り出す蹴り方を実演して見せていた。

4人の選手がそれぞれ意欲的に取り組む中でも、ひと際洗練された足技を披露していたのが西川周作だ。もともとキックやバックパスの処理には定評があるが、真後ろから見るとその技術とプレッシャーをかけられても問題にしない冷静さが良く分かる。

続いてゴールの少し前、枠よりやや狭めたところに二本のポールを立て、その前に出たところでシュートをセーブする練習が行われた。下がらず相手にプレッシャーをかけた状態でセーブする意識を植え付ける練習で、これも4人のGKそれぞれに見るべきところがあったが、西川の正確性は目に付く。

川島永嗣には川島の、権田修一には権田の、東口順昭には東口の良さがあり、普段は厳しい見方をしていても、間近で見ると日本代表GKのレベルの高さを思い知るのだが、ハリルホジッチ監督の求めるキーパー像に近いものを最も発揮しているのは西川ではないかと思う。

ただ、西川には1つ物足りなかった部分がある。試合では大歓声でよく聞こえないが、練習でミニゲームや紅白戦を見るとGKのかけ声や指示がダイレクトに聞こえてくるのだ。

4人のGKに関してはザッケローニ、アギーレ時代にもそうしたシチュエーションで見てきたが、純粋に声の大きさや頻度で評価すると権田>川島>西川=東口となる。

権田に声に関して聞くと「ハイボールが上がって自分が出て行く時は声を出すのが当たり前ですよね。ハリルホジッチ監督が言いたいのは存在感のことなんだと思う」と回答してきた。

そうした意識を権田や川島は当たり前の様に思ってきたのだろう。言い換えると西川や東口にとっては代表の定位置争いをする上での1つの課題だった。

しかし、ここに来て西川にも東口にも変化が出て来たように感じる。声がより聞こえる様になってきたのだ。これは明らかにハリルホジッチ監督が就任し、声を求めている効果ではないかと思う。

もちろんGKにとって声と言ってもDFラインを的確に動かすためのコーチングもあれば、自分が処理をする時のかけ声、チームが意気消沈しかけた時の叱咤激励など色々あるが、大きな声を臆せずに出すことは多くの場面でプラスに働く。

そうした視点を持って、西川に話を聞いてみた。

−−下がらずに守るというのをリカルドに指示されているが、もともと西川選手の持っていたスタイルの折り合いは?

西川リカからは常に所属チームでやっていること、ディフェンスの背後のケアだったりは日頃やっているプレーだから、それを代表でも意識してやってくれとは言われましたし、自分としてはラインが高い方が背後のボールに出やすいので、ディフェンスが食いついたぐらいの勢いで付いてくれていた方が、背後のボールは出やすいので、そこはうまくディフェンスと相談しながら、しっかり出るためのコミュニケーションを取っていきたいと思います。

−−足下はどの監督にも要求されるとは思いますが、特にハリルホジッチ監督は細かいところまで指示しているが、強みを出しやすい?

そうですね。チャンスが来た時にやっぱり監督が要求したことを体で表現したいと思っていますし、これまでいい準備ができていたと思っているので、ディフェンスの背後や攻撃参加は自分のいいところでもあると思うので、そこは思い切ってやっていきたいと思います。

−−清水戦の後に那須選手が『うちはGKが違うからね』と言っていたが、こうして首位の浦和を代表して来て、そこで期するものは?

西川チームもいい状況で代表に来ることができましたし、気分的に違いますね。自分たちのチームが首位で代表に来て、たくさんの方が期待してくれていますし、とにかく明日はみなで勝利を勝ち取りたい。

−−声を出すことも存在感につながってくると思うが、西川選手にとってGKの存在感?

西川やっぱり求められていることは声を出すタイミングだったり大きな声、そこはもうハリルホジッチ監督に常に言われていることですし、GKがバタバタしてしまってはチームが壊れてしまうと思っているので、ゲームメーカーという意識で守備も攻撃もやっていければと思います。

−−ピッチの内外で明るさが求められているのは、槙野選手や丹羽選手が選手としての能力が無いわけではないが、コミュニケーションを取れる選手が監督には好まれやすい?

西川それは非常に大事なことで、監督が話しやすい人というのはピッチの外でもホテル内でも積極的に僕も話そうとはしています。

−−丹羽選手はフランス語で話しかけたと言っていたが?

西川はは、丹羽ちゃんは常に狙っているので。あと槙野選手も常に狙っているので、いい雰囲気でやれています。

−−西川選手もフランス語を使ってコミュニケーションを取りたい?

西川いや僕はフランス語は・・・挨拶程度でいいかな。『ボンジュール?』とか(笑)。

ブラジルW杯を目前に控えたザンビア戦での3失点、さらに出場無しに敗退となった今年のアジアカップの後はさすがに表情に悔しさをにじませていた西川だが、そこから明るさと前向きな姿勢を取り戻し、3月の2試合で出場が無くても、しっかりとチャンスを待っている。

「(現時点で)ベストメンバーはいない」というハリルホジッチ監督の言葉はGKにも当てはまるが、4人体制で切磋琢磨しながらレベルを高めていった先に守護神の座がある。今回の4人はもちろん、メンバー外の選手にもチャンスはあるだろうが、クラブで自信を強め、ハリルホジッチ監督やリカルドGKコーチの要求に対して貪欲に向上しようとする西川の姿勢と強みが目標とする高みに結び付く可能性は十二分にある。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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