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イクイノックスとリバティアイランド。どちらの背中も押す馬とは。

勝木淳競馬ライター
撮影・著者

■世界に発信するジャパンC

2023年の競馬もいよいよクライマックスを迎える。ジャパンCは間違いなく、今年を象徴する最高のカードだ。GⅠ5連勝中、世界のイクイノックス。その走りに世界中のホースマンが熱視線を送る。世界を感じるジャパンCは43回目にして、世界が注目するレースになった。イクイノックスの功績は日本競馬のステージをさらに一段高めたところにある。

当初より、イクイノックスの目標はジャパンCだった。天皇賞(秋)は夏をどれほど順調に過ごせるかにかかっていた。その夏休みを取材したとき、すでにイクイノックスは坂路を元気に駆けあがっており、取材当初から天皇賞(秋)も出てくるだろうと感じていた。だが、滞在先のノーザンファーム天栄も例外なく、酷暑に見舞われた。調教時間は山から日が昇る前、体を冷やすのは調教終了後だけでなく、午後も行うなど、関係者が必死にケアしたおかげで、イクイノックスは酷暑を乗り切った。そして、いよいよ最大目標のジャパンCを迎える。さらにワンランク仕上げが進み、天皇賞(秋)以上のパフォーマンスを発揮するとなれば、もはや私の想像ではとらえられないレベルになる。

■三冠牝馬のジャパンC

その挑戦者として注目されるのがリバティアイランドだ。牝馬三冠を達成した女王がついに古馬に、イクイノックスに挑む。斤量は4キロ差あり、勝てる見込みはある。過去、牝馬三冠馬はジャパンC1、1、3着。ジェンティルドンナ、アーモンドアイが勝ち、デアリングタクトが3着だった。そのジャパンCを勝ったのが5歳アーモンドアイだ。天皇賞(秋)から連勝。女王は最後まで負けなかった。

ジェンティルドンナが勝った2012年はひとつ上の三冠馬オルフェーヴルが立ちはだかった。春に香港でGⅠタイトルを手にしたルーラーシップは前走天皇賞(秋)3着。凱旋門賞2着直後のオルフェーヴルとGⅠ1、2、3着と充実期を迎えたルーラーシップ。牡馬の壁は高く、当時も今年と同じく、かなり白熱した雰囲気のなか、レースを迎えた。最後の直線は競馬史に残る名勝負だった。まくってきたオルフェーヴルと先行していたジェンティルドンナは東京の長い直線を目一杯使い、壮絶な競り合いをみせた。馬体をぶつけ合いながらも、一歩も引かないジェンティルドンナの力強さ、はねのけるオルフェーヴルのプライドが東京の空を赤く染めた。長い審議になったこのレースをジェンティルドンナがハナ差勝ち切った。

アーモンドアイの最初のジャパンCは同じく、牝馬三冠を達成した直後だった。ジェンティルドンナは3番人気だったが、こちらは1番人気。それも1.4倍と圧倒的な支持を受けた。言いかえれば、オルフェーヴルやルーラーシップのような壁はなかった。2番人気スワーヴリチャードは大阪杯から勝利がなく、3番人気サトノダイヤモンドも前哨戦の京都大賞典こそ勝ったが、GⅠ好走は前年天皇賞(春)3着以来なく、勢いでいえば、明らかにアーモンドアイだった。ジェンティルドンナほどの名勝負ではなかったものの、勝ち時計2.20.6は衝撃そのもの。未だ破られていないコースレコードでもある。アーモンドアイは相手云々ではなく、自身の走りでその底知れなさを表現した。その2年後、無敗の三冠馬と牝馬三冠馬に立ちはだかり、改めてその強さを知らしめた。

■アーモンドアイが示すこと

イクイノックスは勝負服がアーモンドアイと同じだからか、2頭を比べる声がある。一緒に走っていないので、比較しようはないが、どちらも時代を象徴する名馬だ。イクイノックスが勝てば、アーモンドアイ以来となる天皇賞(秋)、ジャパンC連勝を決める。秋の古馬中距離GⅠ3戦は近年、出走するなら2戦までが主流で、イクイノックスの昨年のように天皇賞(秋)、有馬記念と間隔をあけ、中7週で仕切り直すことが多い。前走天皇賞(秋)からジャパンCを勝ったのは15頭いるが、連勝は4頭しかいない。3つすべて勝ったテイエムオペラオー、ゼンノロブロイや有馬記念だけ負けたスペシャルウィークなど20年前に集中しており、アーモンドアイは04年ゼンノロブロイ以来、16年ぶりに達成した。

当時、私のようなひねくれ者はアーモンドアイの中3週での出走を懐疑的な視点で見ていたが、まったく無駄に終わった。アーモンドアイは負けはしたが、春に中2週を経験していた。イクイノックスは自身のキャリアではじめて中3週を経験する。だが、ジャパンCを最大目標に掲げる陣営が、天皇賞(秋)出走に踏み切った時点で、中3週は織り込み済みで、計算して仕上げている。そこの信頼は高い。そもそもそういった枠に収まる馬ではない。

イクイノックスとリバティアイランドに共通するアーモンドアイ。3歳で勝ち、古馬でも天皇賞(秋)から連勝を決めた。どちらもあと押しできる存在であることは、アーモンドアイの偉業をさらに際立たせる。どちらも勝つ可能性がある。こんな胸の高まる勝負はそうはない。しかと目に焼きつけよう。

競馬ライター

かつては築地仲卸勤務の市場人。その後、競馬系出版社勤務を経てフリーに。仲卸勤務時代、優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)、AI競馬SPAIA、競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』にて記事を執筆。近著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ(星海社新書)

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