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イクイノックスが挑む適性の揺れ。ドウデュースとの3度目の決戦へ!

勝木淳競馬ライター
写真・著者

■堅実な道とスケール感

イクイノックスはいつしか天才と呼ばれるようになった。はじめて取材したのはダービーのあとだった。底知れない力に心と体がついていかない。そのバランスが整えば、いずれとてつもないことになる。その伝説のはじまりが昨年の天皇賞(秋)だった。逃げ切る寸前だったパンサラッサを上がり32.7で差し切った。勝ち時計は1.57.5。迫力が以前とはまるで違っていた。そして、イクイノックスはこの秋、最初の目標を天皇賞(秋)連覇に定めた。

これまでイクイノックスは常識を覆すイメージがあったが、前例なき道を選んだのは東京スポーツ杯2歳Sから皐月賞に出走したときぐらいだった。その後はダービー、天皇賞(秋)、有馬記念とわたり、GⅠ2勝をあげた。これは前年のエフフォーリアと同じ。そこからドバイシーマクラシック、宝塚記念も同じ道を選ぶ馬は多く、クロノジェネシスなど前例はある。ローテーションは極めて王道で、着実な道を歩んできた。もちろん、3歳秋から国内外全勝はスケールが違う。データを参考に予想を組み立てると、イクイノックスは自然と味方になった。

■両極端な宝塚記念と天皇賞(秋)

ところが、今回は宝塚記念からの直行となり、これまでほどデータ通りのローテーションではなくなった。あとで断りを入れるが、これが不安要素だというつもりはない。それはイクイノックスが、もはやこれまでの枠に収まりきらないスケールを有しているからだ。

その上で、前走が宝塚記念だった馬は2000年以降、4勝だが、宝塚記念を勝った馬はいない。メイショウドトウ、アドマイヤムーン、サトノクラウン、ミッキーロケット、クロノジェネシスが連勝を狙い、敗れた。同じ中距離GⅠではあるが、問われる適性にズレがあるからだと推察できる。実際、イクイノックスの宝塚記念も自身の上がりは34.8、レース全体の上がりは35.5だった。今年は比較的馬場状態がよく、時計は速い方だったが、そもそも阪神芝2200mはスピードを重視しない。最初の直線部分が長く、そこから忙しなくコーナーを4回通過し、最後の直線は内回りで短い。梅雨どきの馬場状態もあり、宝塚記念は古馬中距離GⅠのなかでも、タフな競馬になりやすい。ゆえに後半のスピードを問わないレースにもなる。

一方で、天皇賞(秋)は上記昨年の記録のように古馬中距離GⅠでもっとも後半のスピードが問われる。ジャパンCもそうなりやすいが、連続開催8週目と4週目ではやはり、前者だ。宝塚記念から天皇賞(秋)は適性の揺れが大きく、宝塚記念でタフな競馬を勝ち抜いた馬が適応しきれない。データはそれを物語っているのではないか。つまり、イクイノックスもこの適性の揺れに直面する。

しかし、昨年は天皇賞(秋)を勝っており、そもそも東京芝2000mへの適性は高い。さらにいえば、スローの有馬記念をまくり、ドバイシーマクラシックで逃げ、宝塚記念で後方から追い込みを決めた。距離や舞台、競馬のスタイルを気にしない自在性こそがイクイノックスの強みであり、これを人は天才と称する。陣営も東京競馬場で走ることを念頭に調整を重ね、菊花賞で見事な制御を見せたC.ルメール騎手がいる。イクイノックスをもっとも理解するスタッフもいる現状、前走宝塚記念は不安にはならない。むしろダイナミックに適性の揺れを乗り越えてくるだろう。

■スケールで見劣らないドウデュース

イクイノックスの壁はむしろドウデュースの存在だ。これまで1勝1敗。ダービーでの上がりはドウデュース33.7、イクイノックス33.6と互角。ドバイ取消で一歩後退した印象だが、京都記念は阪神芝2200m2.10.9で時期は異なるが宝塚記念より速かった。後方からまくって、上がり34.0を記録し、余裕を残して2着に3馬身半差をつけた。イクイノックスも怪物級だが、ドウデュースもとてつもない。それが京都記念の記憶だ。

繰り返すが、東京芝2000mは馬場さえよければ、後半のスピード勝負になる。末脚比べの真っ向勝負をするのにこれ以上の舞台はない。ここでイクイノックスとドウデュースの3度目の対決を見られる幸せをかみしめ、そして伝説の目撃者になろう。牝馬三冠、33年ぶりの快挙などドラマチックな結末が続く秋のGⅠ戦線はまだまだ楽しみがつきない。

競馬ライター

かつては築地仲卸勤務の市場人。その後、競馬系出版社勤務を経てフリーに。仲卸勤務時代、優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)、AI競馬SPAIA、競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』にて記事を執筆。近著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ(星海社新書)

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