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クリスマスイヴの有馬記念は堅い?名馬が彩った歴史とは

勝木淳競馬ライター
昨年暮れの中山パドック。朝はスタンドの日陰になる。撮影:著者

有馬記念がやってくる。今年はサンタと一緒にやってくる有馬記念だ。昨年はクリスマス有馬だったが、今年はクリスマスイヴに行われる。イヴの有馬は2000年以降3回あった。

◎2000年1番人気テイエムオペラオー

◎2006年1番人気ディープインパクト

◎2017年1番人気キタサンブラック

1番人気全勝はもちろん、3回とも時代を象徴する名馬が勝った。その前、1994年マヤノトップガンは6番人気、1989年イナリワン4番人気なので、必ずしも1番人気というわけではないが、20世紀末からこれまでは1番人気が主役としてその責務を全うしてきた。

■2000年テイエムオペラオー~世紀末覇王が魅せた驚異の追い込み~

京都記念から始動したこの年、春4戦全勝、秋も京都大賞典から3連勝で有馬記念を迎えた。天皇賞(秋)は1番人気が勝てない、外枠不利、東京実績など、不安材料がたくさんあったなか、終わってみればメイショウドトウに2馬身半圧勝。雑音を結果で黙らせた。ジャパンCはデットーリ騎手が乗るゴドルフィンのファンタスティックライトとの競り合いを制し、その実力を世界にアピールした。有馬記念は年間無敗、GⅠ5連勝がかかっていた。前年はグラスワンダー、スペシャルウィークに次ぐ3着。舞台適性は東京2戦よりも高く、この頃には秋口にあった不安説は消えゆき、全勝は確実視されていた。

しかし、年間無敗で年越しさせてなるものか。そんな気概を胸に挑む人馬がたくさんいた。いつものようにスタートから好位をとったテイエムオペラオーだったが、ジョービッグバン、ゴーイングスズカのスローペースとライバルたちが外からポジションを奪いにきたため、1周目4コーナーでは手綱を引き、後方まで下がってしまう。身動きができない状況のまま、淡々と進み、勝負所へ。目の前にはびっしりと馬の壁。絶体絶命の状況下に置かれたテイエムオペラオーは自ら首を突き出すように馬1頭分あるかないかのスペースを縫うように進出し、最後にメイショウドトウをハナ差差し切った。当時のカメラアングルではどこをどう通ってきたのか、まったく分からないほどの究極のレースだった。

■2006年ディープインパクト

前年無敗のまま挑戦した有馬記念はハーツクライの2着。ルメール騎手が仕掛けたまさかの先行策に敗れた。この年は阪神大賞典から3連勝、凱旋門賞で無念の失格を経験し、ジャパンCで再び復活を果たした。そして、引退レースとして有馬記念を選んだ。前年敗れたハーツクライは引退し、もはや敵はいなかった。自身が中山で力を出し切れれば、勝てる。単勝オッズ1.2倍はディープインパクトとしては高いぐらいだった。

いつものように後方からレースを進め、3コーナーから進出開始。前年はスピードに乗り切れなかった中山の3、4コーナーも関係なかった。大人な走りで自らハミをとるように進出し、ギアを着実にあげていく。4コーナー出口で最後のスパートを合図すると、もはや抵抗できる馬はいなかった。残り200mはまさに独壇場で、最後の衝撃を全国の競馬ファンに存分に与え、ターフを去った。

■2017年キタサンブラック

キタサンブラックにとって有馬記念はどうしても勝っておきたいレースだった。3歳時にはのちに自身のスタイルになる逃げの手に出て、3着。GⅠ2勝をあげ、主役として迎えた4歳時は最後の最後に3歳サトノダイヤモンドに屈した。スタミナもスピードもあるキタサンブラックにとって、有馬記念は申し分ない舞台ではある。にもかかわらず、勝てない。だからこそ、引退レースのここは勝たなければいけない。レース後に引退セレモニーも組まれていて、プレッシャーを感じる状況にあった。

武豊騎手もレース後に「1mずつレースを進めていった」と語ったように、慎重かつ大胆に迷いなくキタサンブラックの走りを見せていった。2年前と同じく先手を奪い、2番手シャケトラが競りかけず、マイペースを決め、後続を惑わしにかかる。1、2コーナーで13.3-13.2とペースを落としつつ、向正面で早めに加速し、スタミナ勝負に持ち込む。残り1000mは12.2-12.1-11.7-11.2-12.3。4コーナー出口から坂下で瞬発力を発揮し、勝負を決めた。持続力、スタミナ、瞬発力と三拍子そろった最高の走りで有終の美を飾った。この三拍子は5年後、同じ有馬記念で産駒のイクイノックスが披露することになった。

2000年以降、クリスマスイヴの有馬記念は時代を彩る英雄たちがその強さを披露してきた。タラレバは禁物だが、イクイノックスが出ていれば、間違いなくそんな有馬記念になっただろう。今年もJRAのメインコピーは「HERO IS COMING.」イクイノックスの次のヒーローが出現する舞台となるだろうか。今年は過去3回とは違うニュアンスかもしれない。3歳馬が次の時代を築くのか、歴戦の戦士が有終の美を飾るのか、それとも牝馬が牡馬を倒すのか、ダービー馬の復権か。どの馬が勝ってもドラマが待っている。有馬記念は夢を追い、物語を後世に残すレースでもある。

競馬ライター

かつては築地仲卸勤務の市場人。その後、競馬系出版社勤務を経てフリーに。仲卸勤務時代、優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)、AI競馬SPAIA、競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』にて記事を執筆。近著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ(星海社新書)

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