Yahoo!ニュース

【エリザベス女王杯展望】ジェラルディーナとディヴィーナ。2頭が手繰る名牝たちの記憶

勝木淳競馬ライター
撮影・著者

■連覇をかけるジェラルディーナ

秋のGⅠは衝撃の天皇賞(秋)から2週間、舞台を京都に戻す。紅葉が美しい京都、観光のトップシーズンに重なる3年ぶりのGⅠがその華やかさに色をそえる。エリザベス女王杯は春のヴィクトリアマイルと並ぶ古馬牝馬による頂上決戦だ。1996年、秋華賞創設にあわせ、古馬に開放されて以来、連覇を達成したのは4頭。メジロドーベル、アドマイヤグルーヴ、スノーフェアリー、ラッキーライラックと名牝がズラリと並ぶ。ジェラルディーナは今年、その歴史に加われるのか。これがまず焦点になる。

昨年は6月鳴尾記念からオールカマーまで2、3、1着と勢いを味方に女王に就いた。以降、有馬記念こそ3着と善戦するも、今年は6、6、4、6着と勝利がない。連覇を決めた4頭のうち、1年間未勝利だったのはメジロドーベル1頭しかいない。近走、戦歴的に好調とはいえないなか、ファレノプシスに1番人気を譲ったメジロドーベルは女王のプライドを胸に見事、その座を守った。前走は毎日王冠6着。奇しくもジェラルディーナは前走オールカマー6着。レースこそ違えど、牡馬相手のGⅡ、そして6着という共通点がある。達成すれば、阪神と京都のエリザベス女王杯連覇という珍しい記録もついてくる。

■ディヴィーナと母ヴィルシーナ

連覇以上に難しいのは、春秋好走ではないか。古馬牝馬タイトルは、春は東京芝1600mヴィクトリアマイル、秋に京都芝2200mのエリザベス女王杯と大きく異なる舞台で争われる。マイル戦に対応するスピード+持続力と中距離戦特有の緩急+瞬発力と好走に必要な要素はまるで違う。古馬チャンピオンは牡馬も牝馬も幅広い好走ゾーンへの対応が求められる。1年間、頂点を走り抜けるには、能力に懐の深さがなければならない。

ヴィクトリアマイルとエリザベス女王杯を両方勝った馬はいない。ヴィクトリアマイル好走馬の多くは秋、マイルCSを目指す。適性でいえば、これが自然の流れだ。春と秋は別競技。これが古馬牝馬戦線の認識だろう。今年、ヴィクトリアマイル4着ディヴィーナがエリザベス女王杯に登録した。2006年、ヴィクトリアマイル創設以降、同レースで掲示板に載り、エリザベス女王杯に出走したのは90頭中26頭にとどまる。このうち、秋も掲示板に載ったのはさらに少なく、8頭しかいない。

06年ディアデラノビア  3→3着(4位入線繰り上がり)

10年ヒカルアマランサス 2→5着

11年アパパネ      1→3着

14年キャトルフィーユ  5→5着

16年ミッキークイーン  2→3着

18年リスグラシュー   2→1着

19年ラッキーライラック 4→1着

19年クロコスミア    3→2着(※数字は左から春→秋)

着順をあげ、見事に女王の座を射止めたのはリスグラシューとラッキーライラックの2頭だけ。ディヴィーナはラッキーライラックと同じ4着から挑む。母ヴィルシーナはヴィクトリアマイルを連覇したが、エリザベス女王杯は10、11着と大敗を喫した。戦歴から母に似たマイラータイプなので、不安はついてくるが、娘はヴィクトリアマイルを勝っていない。その分、中距離でもやれる可能性を残す。なにせサマーマイルシリーズで経験を積みながらも、初重賞タイトルは1800mの府中牝馬Sであり、中距離に適性があっても不思議はない。

■ジェンティルドンナとヴィルシーナ、そしてモーリス

ディヴィーナの母ヴィルシーナとジェラルディーナの母ジェンティルドンナといえば、同じ2009年生まれ。初対決の桜花賞からオークス、ローズS、秋華賞と4戦し、ジェンティルドンナが全勝、ヴィルシーナはすべて2着に終わった。牝馬三冠すべてワンツー。「生まれた年が悪かった」ヴィルシーナは当時、そう評された。ジェンティルドンナはジャパンC連覇、ドバイシーマクラシック、有馬記念とGⅠを7勝した。対してヴィルシーナはヴィクトリアマイルを連覇し、ライバルにふさわしい活躍をみせる。

それぞれが勝利したレース名をみれば、得意な舞台はわかりやすい。中距離のジェンティルドンナとマイルのヴィルシーナ。これがジェラルディーナとディヴィーナにも当てはまるのか。そんな母の適性の違いを中和するのが、双方の父モーリスだ。名牝の仔が同じ父で対決に挑む。贅沢すぎるシチュエーションだ。

同時にモーリスは双方の距離適性を読むキーになる。現役時代は安田記念、マイルCSなど国内外マイルGⅠ4勝だが、後半は天皇賞(秋)、香港カップと2000mのGⅠを連勝している。キャリアを重ねるうちに中距離に対応したことで、モーリスの種牡馬としての価値はさらに高まったといえる。血統をさかのぼれば、スクリーンヒーロー、グラスワンダーと並ぶモーリスにはマイルから中距離までを守備範囲にできる力がある。

ジェンティルドンナを意識し、中距離を中心にキャリアを重ねたジェラルディーナは文句なし。だが、ディヴィーナもモーリスのようにキャリアを重ね、中距離でもやれる体力を身につけているのではないか。今回、ディヴィーナは父モーリスの新たな可能性も引き出すかもしれない。そうなれば、ジェラルディーナとディヴィーナはかつて母同士が競ったように互角に戦える。同世代で戦い抜いた2頭の名牝の仔がエリザベス女王杯で戦う。夢のようなカードであり、これぞ競馬の醍醐味といえる。といっても、こういった構図はありそうで実際は少ない。貴重な好カードを存分に楽しもう。

競馬ライター

かつては築地仲卸勤務の市場人。その後、競馬系出版社勤務を経てフリーに。仲卸勤務時代、優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)、AI競馬SPAIA、競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』にて記事を執筆。近著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ(星海社新書)

勝木淳の最近の記事