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アカイイト連覇の可能性を高める歴代女王との共通点とは

勝木淳競馬ライター

エリザベス女王杯は2011年スノーフェアリー、ダンシングレイン以来になる外国馬マジカルラグーンが参戦。3歳、アイリッシュオークス勝ちはスノーフェアリーと同じプロフィール。3歳牝馬の日本への遠征は本気度を感じる。スノーフェアリーといえば、日本の競馬ファンが驚愕した強烈な末脚。10年0.7差、11年はクビ差ながら、上がりは2着アヴェンチュラに0.4差。馬群を突き破る力強さはいま振り返っても、レース史上屈指のインパクトだ。スノーフェアリーが成し遂げたエリザベス女王杯連覇に今年はアカイイトが挑む。牝馬はえてして好調期間が長くない。エリザベス女王杯連覇はレース史上4頭。98、99年メジロドーベル、03、04年アドマイヤグルーヴ、そしてスノーフェアリーと19、20年ラッキーライラックだ。

■メジロドーベル

初制覇の98年はエアグルーヴとの4度目対決だった。同じように牡馬相手に戦い続ける2頭の明暗はくっきり。これまでメジロドーベルの3戦3敗。エアグルーヴに先着できなかった。GⅠ2勝目をあげた秋華賞のあと、強敵相手だったとはいえ、メジロドーベルは5連敗。エアグルーヴに及ばず。そんな評価もあった。牝馬は勝てなくなると復調しづらい。とにかくきっかけをと久々に牝馬限定重賞に出走。その府中牝馬S勝利はエリザベス女王杯へつながった。エアグルーヴは札幌記念を58キロで連覇達成。最大目標はジャパンCという状況下ではあったが、やはり1番人気1.4倍。頭ひとつ抜けた評価だった。緩い流れでリズムを乱すメジロドーベルと悠然と走るエアグルーヴ。その様子にああ、やっぱりという決めつけ。しかしメジロドーベルは京都の4コーナーにある生垣に潜るように内ラチ沿いを進出。外に行ったエアグルーヴとの物理的な差を最後まで死守した。

2勝目はさらに厳しい状況にあった。エアグルーヴを下したエリザベス女王杯以来、またも勝ち星に見放され、中山牝馬Sではエアグルーヴ以外の牝馬に先着を許し、そこで外傷を負い、長期休養へ。毎日王冠6着から本番へ進んだ。連覇がかかるものの、最終的には昨年と同じく2番人気。1番人気をファレノプシスに譲り、年下の勢いには抗えないと目された。追う側から追われる側へ。立場は変われどいずれも2番人気。メジロドーベルは挑戦者であり続けた。ファレノプシスと3番人気エリモエクセルを左斜め前に見るポジションはその証。女王であっても追う立場を貫いた。勝負所で外に活路を見出すファレノプシスとエリモエクセルに対し、メジロドーベルは前年と同じく生垣に潜むかの如くインを立ち回り、巧みなコーナーリングで進路を見つける。先にインを抜けたエガオヲミセテ、外から襲うフサイチエアデールを封じる末脚に、挑戦者であり続けながらも失っていなかった女王のプライドを感じた。

■ラッキーライラック

デビューから4連勝。阪神JF、チューリップ賞を勝ち、桜花賞では1.8倍の1番人気。ラッキーライラックは無敗の桜花賞馬まであと少しだった。満を持して直線で先頭に立った刹那、大外からアーモンドアイが飛んできた。以後、数々の記録を打ち立てるアーモンドアイの第1章はラッキーライラックにとってつまずきの一歩になってしまった。桜花賞から7連敗。こんなはずじゃない。重賞惜敗はあっても勝てない。長きトンネルを抜け出すため、陣営はエリザベス女王杯でクリストフ・スミヨン騎手に託した。年下のオークス馬ラヴズオンリーユー、秋華賞馬クロノジェネシスに続く3番人気だったラッキーライラックはクロコスミアが大逃げに出る展開のなか、中団のイン、クロノジェネシスの背後をとる。スミヨン騎手に導かれ、ラチ沿いを真っ直ぐ駆け抜けたラッキーライラックは桜花賞から積み重ねた敗戦をすべて振り切る快走をみせた。これは父オルフェーヴル譲りの豊富な成長力で自らトンネルを抜け出した勝利でもある。

2勝目のエリザベス女王杯はメジロドーベルとは違い、春に大阪杯を勝つなど、女王らしく戦い抜いての挑戦。だが、このときも直前の札幌記念3着と敗戦後の巻き返しだった。それはアドマイヤグルーヴも同じ。連覇はいずれも前走秋華賞2着、天皇賞(秋)3着と負けた。スノーフェアリーも直前は4、3着。連覇を遂げた女王はみんな直前のレースで負けた。

牝馬は好調期間が長くない分、ピンポイントで狙ってくる。実はエリザベス女王杯は86年以降36回で前走1着は【9-12-7-106】勝率は6.7%にとどまり、連勝が少ないGⅠでもある。アカイイトの前走府中牝馬Sはソダシ中心に展開したマイル戦に近いラップ構成の1800m戦。感覚はサリオスが勝った前週毎日王冠に近く、アカイイトの10着は気にしなくていい。歴代連覇を達成した4頭と前走敗戦は共通項になる。さらに日曜日の阪神競馬場は傘マークがついた。どこまで道悪になるか、現時点ではなんともいえないが、不良馬場は1度走り、1着。2着につけた着差0.3は昨年エリザベス女王杯と並び、アカイイトの最大着差でもある。時計がかかる道悪はマジカルラグーンともども歓迎だ。

昨年は前半1000m通過59.0で流れ、最後600m12.2-11.8-12.5、36.5と時計を要するタフな競馬。今年も舞台は同じく阪神。馬場状態次第ではまたもスタミナ寄りの競馬になる公算はある。昨年のエリザベス女王杯以後、アカイイトは5連敗中だが、連覇を遂げた歴代女王の戦歴をたどれば、なんら悲観することはない。

競馬ライター

かつては築地仲卸勤務の市場人。その後、競馬系出版社勤務を経てフリーに。仲卸勤務時代、優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)、AI競馬SPAIA、競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』にて記事を執筆。近著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ(星海社新書)

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