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希代の個性派ステイゴールド、その血を継ぐアフリカンゴールドの可能性とは

勝木淳競馬ライター

■いまふたたびステイゴールド

ステイゴールド産駒最終世代は今年7歳になる。その最終世代がここにきて活力ある走りを見せる。21年新潟記念を12番人気マイネルファンロンが勝ち、今年のAJCCでも11番人気2着。そしてアフリカンゴールドは21年中日新聞杯で先行策で17番人気2着、日経新春杯5着ときて、京都記念を12番人気で逃げ切った。昨年は直木賞作家の馳星周氏がステイゴールドをモデルにした小説「黄金旅程」(集英社刊)を発売。馬産地に生きるホースマンたちを丁寧に描いた良作だ。どうも昨今、ステイゴールドに追い風を感じざるを得ない。2015年2月5日死亡から7年経った現在もファンを夢中にさせるとは。本当に不思議な力を宿した名馬だ。

■ステイゴールド、01年、年を取らなかった7歳での覚醒

ステイゴールドの競走生活はご存じの通り。現年齢4歳春に天皇賞(春)メジロブライトの2着に入って以降、6歳までGⅠで2着4回3着2回。大舞台であと一歩足りないながらも激走を繰り返す一方、格下のレースも同じように惜敗続き。主な勝ち鞍阿寒湖特別というプロフィールのまま走り続けた。

ステイゴールドは先頭でゴール板を駆け抜けたくないのではなんて声が聞こえるなか、現年齢6歳5月、雨の目黒記念で武豊騎手に導かれ、待望の重賞初制覇を達成。当日、薄暗い競馬場を温かい拍手が包んだ光景は今もはっきり記憶している。

それでもステイゴールドはGⅠを勝てなかった。目黒記念後はGⅠ4、7、8、7着。目黒記念という勲章こそ獲得したものの、ここまで長い間、トップクラスで走り、もう年齢的に厳しいのではないか。そんな評価も当時はあった。ところが2001年、馬齢表記を国際標準に合わせたことで7歳すえおきで迎えたシーズン、ステイゴールドは覚醒する。

年明け初戦日経新春杯でハンデ58.5キロを課されながら、好位で流れに乗り、すんなり勝利。拍子抜けするほどあっさり目黒記念以来の通算5勝目をあげた。これが伝説の序章だった。次戦は初の海外遠征、当時GⅡのドバイシーマクラシック。相手は前年覇者、その年の世界王者UAEのファンタスティックライト。ステイゴールドはゴドルフィンのエースにハナ差先着、世界を驚かせた。

帰国後はいよいよ国内GⅠ制覇かと思われたが、宝塚記念4着、天皇賞(秋)7着、ジャパンC4着。失格だった京都大賞典も合わせ、最後に左にもたれるクセが強まるような走りに、GⅠ制覇は厳しいだろうと思わせた。だからこそ、引退レース伝説の香港ヴァーズは今でも正直、信じられない思いが強い。サンデーサイレンス産駒ながらジリ脚の代表格だったステイゴールドが先を行くゴドルフィンのエクラールとの差を瞬く間に詰め、これまでとは逆の右にもたれながら、差し切った。ゴドルフィンブルーを見ると燃えるタチなのでは? 最後の最後まで真の力を隠していたのでは? そんな声が当時多く聞かれた。事実はただ一つ。ステイゴールドは最後に人知を超える走りを見せた。

■ステイゴールドの血をつなぐアフリカンゴールドの物語、その未来

ステイゴールドの好敵手ゴドルフィンが所有するのがアフリカンゴールド。半兄はドバイワールドC覇者アフリカンストーリー。ダーレー・ジャパン・ファームがこの血統にステイゴールドを種付けしたところから、とんでもない物語が始まっているのではないか。アフリカンゴールドが7歳にして京都記念制覇を遂げたことで、ぐっとそんな推理が頭を駆け抜ける。

ステイゴールドの覚醒は年を取らなかった7歳冬。アフリカンゴールドは6歳終わりの中日新聞杯で後半1000mからペースアップする競馬を自ら動いて2着し、7歳日経新春杯では後半800m11.8-11.4-11.8-11.9と差し馬向きの流れを踏ん張った。中日新聞杯以前は菊花賞にこそ出走(12着)したものの、オープンでも後方から競馬を展開、最後に少し差を詰めるといった競馬を繰り返してきた。国分恭介騎手に乗り替わって2戦目の中日新聞杯から明らかに競馬が変わった。

そして京都記念である。前半1000m通過1.01.7。12秒台後半のラップが3回続く超マイペースだったことも事実。好位にユーバーレーベンがいて後続が動けなかったことも手伝ったのも事実。それであっても後半1000m11.6-11.4-11.4-11.0-12.1で57.5。これは恵まれて踏めるラップではない。後ろ待たず、自ら動いて後ろを離し、坂下11.0でユーバーレーベン以下を振り切った。こんなラップをアフリカンゴールドが踏んだことも驚きであり、なぜ7歳まで重賞を勝てなかったのかと不思議に感じるだろう。スタイルの変化、一変した記録、そういったイメージの一新こそ、競馬では本格化と呼ぶ。もはや「覚醒」という言葉さえ頭をよぎる。

正直、序盤ははやくないので、大阪杯など他がはやいレースではマイペースを貫けるかは難しいだろう。なにより、あのステイゴールドの仔。自身の7歳シーズンのように、とんとん拍子に行くわけがない。この先、何度か凡走を繰り返すことがあっても、2200~2400mぐらいのゆったりした距離ならば、父と同じく7歳で大仕事を成し遂げる可能性がある。早くも「香港ヴァーズ」という単語が頭にちらついてしかたない。だからこそ、アフリカンゴールドの7歳シーズンを見守っていきたい。

競馬ライター

かつては築地仲卸勤務の市場人。その後、競馬系出版社勤務を経てフリーに。仲卸勤務時代、優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)、AI競馬SPAIA、競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』にて記事を執筆。近著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ(星海社新書)

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