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天気からみた 五輪開催に最適な時期

片山由紀子気象予報士/ウェザーマップ所属
振り出しに戻った東京五輪 開催に最も適した時期は?(写真:ロイター/アフロ)

 東京五輪の開催期間は10月下旬から11月上旬がベスト。台風シーズンが終わり、春や夏に比べて熱中症のリスクも低い。ますます温暖な天候となっている晩秋はスポーツを楽しめるときである。

「世の中は三日見ぬ間の桜かな」

 桜の花は三日見ないうちに散ってしまう、世の中の移り変わりが激しいことを例えた言葉です。つい一か月前までは東京五輪が延期されるとは思ってもいませんでした。猛暑対策に万全を尽くしたはずが世界規模で流行した感染症になすすべもない。何とも皮肉なめぐりあわせです。

 振り出しに戻った東京五輪、開催期間に真夏以外の選択肢も浮上しました。ならば、開催に最も適した時期はいつなのでしょう?様々な角度から考えてみました。

365日の東京の天気

 まずは、東京の一年を見てみましょう。こちらは晴れ(黄)と雨の日(青)を天気出現率(%)で表現したグラフです。

【東京】天気出現率(晴れと雨)からみた季節変化(著者作成)
【東京】天気出現率(晴れと雨)からみた季節変化(著者作成)

 縦軸に天気出現率(%)、横軸は左に1月、右に12月です。

 冬が晴れやすいのは一目瞭然、春になると雨の日が増え、3月・4月は菜種梅雨です。五月晴れは短く終わり、6月になれば梅雨入りです。6月と7月は晴れの日より雨の日が多くなっているのがよくわかります。梅雨が終わると日差しさんさんの夏空が広がります。その後、秋雨・台風シーズンを経て、11月になれば再び、晴れる日が多くなります。

5月から熱中症

 冬と真夏を除いた場合、開催時期にふさわしいのはいつでしょう?

 天気出現率から見ると、五月晴れが期待できる5月頃と秋晴れの10月・11月頃が候補に挙がります。今、春開催を望む声があるようですが、天候に問題はないのでしょうか。

 春開催で気がかりなことは熱中症です。心地よい春に熱中症?といぶかる方もいるでしょう。こちらは総務省消防庁がまとめた、5月の熱中症救急搬送者数です。2015年以降、毎年、3,000人から4,000人程度の人が救急搬送されています。

【5月】全国の熱中症救急搬送者数(2015年~2019年、著者作成)
【5月】全国の熱中症救急搬送者数(2015年~2019年、著者作成)

 もちろん、全体に占める割合は5%程度とわずかですが、年々、暑くなる時期が早まっていて、熱中症は夏だけとは限らなくなっています。

秋はますます温暖に

 先の東京五輪は秋雨明けを予想して10月10日に決められたことは有名な話です。ならば、今回も10月開催がいいのではないか、と思ったのですが、そういえば昨年(2019年)は10月に甚大な台風被害がありました。最近は台風シーズンが長くなる傾向で、10月でも安心はできません。

 では、いつがベストなのか。それは11月です。

 近年、日本近海の海面水温が上昇し、秋がより温暖になっています。この100年間で日本の平均気温がどのくらい上昇したのか、季節別に見ると、春に次いで秋が高くなっています。暑さに慣れていない春は熱中症の危険がありますが、夏を経験したあとの秋はその心配が少ない。

【季節別】日本の平均気温 100年あたりの上昇率(著者作成)
【季節別】日本の平均気温 100年あたりの上昇率(著者作成)

 春に比べて日が短い欠点があるかもしれません。でも、もともと猛暑対策として夜間や早朝を考えていたのですから、あまり気にならないのでは。東京の10月下旬から11月上旬の平均気温は約15度で、ちょうど大型連休頃の陽気です。

 新型コロナの見通し、人気スポーツ大会の日程、再び準備にかかる時間など、すべてが丸く収まる答えを見つけるのは難しい。ならば、原点に戻って最もスポーツを楽しめる天候を考えてみてはいかがでしょう。

【参考資料】

東京管区気象台ホームページ:日別天気出現率

総務省消防庁:2019 年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況、令和元年11月6日

気象庁:気候変動監視レポート2018 第2章気候変動

気象予報士/ウェザーマップ所属

民放キー局で、異常気象の解説から天気予報の原稿まで幅広く天気情報を担当する。一日一日、天気の出来事を書き留めた天気ノートは117冊になる。365日の天気の足あとから見えるもの、日常の天気から世界の気象情報まで、天気を知って、活用する楽しみを伝えたい。著作に『わたしたちも受験生だった 気象予報士この仕事で生きていく』(遊タイム出版/共著)など。

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