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たった1回でも、血流に影響。ニコチンなしでも安心できない電子たばこ

片瀬ケイ在米ジャーナリスト、翻訳者、がんサバイバー
やっぱり、やめよう。(写真:アフロ)

ニコチンなしでも安心できない

 電子たばこは、たとえニコチンが入っていなくとも、体に悪影響を及ぼすというペンシルベニア大学の研究結果が発表された(注1)。

 電子たばこは、カートリッジ等に入った液体(リキッド)を加熱し、発生する蒸気を吸うもの。ニコチンが入っていないものもあり、「水蒸気を吸っているだけで、従来の煙草より安全」と考える人が多い。

 しかし31人の健康な非喫煙者にニコチンなしの電子たばこを吸ってもらい、吸う前と後のMRI画像を比較したところ、たった1回の電子たばこの使用で、吸った後は血流が悪くなり、ももや脚に血液を送る大動脈の内皮機能(血管の一番内側の細胞の機能)に悪影響を与えていたことがわかったという。

 血管の内皮機能がダメージを受けると、やがては動脈が厚くなって心臓や脳に流れ込む血流が遮られ、心臓発作や脳卒中を起こす可能性もあるというのだからコワイ。

リキッド成分、蒸気にすると有害に

 この研究を行ったFelix W. Wehrili 放射線科学科教授によれば、ニコチンが入っていない電子たばこのリキッド自体は無害だったとしても、蒸気にする過程でリキッドの主成分であるプロピレン・グリコールやグリセロールが有害物質に変化するという。

 この試験では、参加者に16回、3秒ずつ電子たばこを吸ってもらい、吸った前後で、大腿動脈とももの血管機能をマルチパラメトリックMRIでスキャンして比べた。その結果、大腿動脈の拡張は平均で34%も縮小していたという。またピーク時の血流も17.5%下がり、静脈血酸素も20%下がっていた。

 こうした結果から、電子たばこも血管の内壁に大きな悪影響を与えると、研究チームは考えている。またWehrili教授は、「一時的でも電子たばこの1回の使用で影響が出るのだから、何年も使用すれば永久的なダメージを引き起こしても不思議ではない」とコメントしている。

電子たばこに関連する健康懸念

 米国では電子たばこに関連する健康懸念が高まっている。先日は、電子たばこを吸って、けいれんが起きたという報告が増えたとし、FDAが警戒を強めていると発表した。

(既報:電子たばこで痙攣? 米で127件もの痙攣報告)

 さらに2019年6月28日から2019年8月15日までの間に、米国の14州で電子たばこに関連する深刻な肺の疾患と思われる事例が94件報告され、米疾病対策センター(CDC)と当該州が調査を開始している。(注2)

 ニコチンが入っていないからと安心せずに、やっぱり「たばこ」には手をださない、喫煙者はがんばって禁煙することが、健康のためには一番だろう。

関連リンク

注1 Nicotine-free e-cigarettes can damage blood vesselsニコチンなしの電子たばこでも、血管を傷つける可能性 ペンシルベニア大学医学部ニュース(英文リンク)

注2 CDC, states investigating severe pulmonary disease among people who use e-cigarettes CDC、複数州が電子たばこ使用者における深刻な肺疾患を調査(英文リンク)

在米ジャーナリスト、翻訳者、がんサバイバー

 東京生まれ。日本での記者職を経て、1995年より米国在住。米国の政治社会、医療事情などを日本のメディアに寄稿している。2008年、43歳で卵巣がんの診断を受け、米国での手術、化学療法を経てがんサバイバーに。のちの遺伝子検査で、大腸がんや婦人科がん等の発症リスクが高くなるリンチ症候群であることが判明。翻訳書に『ファック・キャンサー』(筑摩書房)、共著に『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』(光文社新書)、『夫婦別姓』(ちくま新書)、共訳書に『RPMで自閉症を理解する』がある。なお、私は医療従事者ではありません。病気の診断、治療については必ず医師にご相談下さい。

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