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『PayPay』の衝撃的決定:他社クレジットカードの利用停止延期と背後に潜む謎の株主関係

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
出典:KandaNewsNetwork,Inc.

KNNポール神田です。

■PayPayの他社クレジットカード排除は延期!

スマートフォン決済のPayPay(東京・港)は(2023年6月)22日、他社のクレジットカードを利用できなくする措置を延期すると発表した。(2023年)8月1日から利用を停止する予定だったが、2025年1月として1年半の猶予を設ける。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2226C0S3A620C2000000/

『PayPay』が『PayPayカード』以外の他社のクレジットカードの支払いを停止を発表したのが、2023年5月1日。それから53日後に、『一部クレジットカードの新規登録および利用停止の見直しについて』というリリースがなされた。

https://paypay.ne.jp/notice/20230622/f-creditcard/

とても、気になるのは、他社クレジットカード排除の撤回ではなく延期というので他社カード追い出しという路線はそのままである。1年半の余裕があったとしても、クレジットカードの紐づけなどは一度してしまえばそのままという人が大半ではないだろうか?

時間の余裕はあれど、結局は『PayPayカード』だけしかクレジットカードでの決済ができなくなることにはかわりはない。

■複雑怪奇な『PayPay経済圏』の大株主たち

今回の他社の『クレジットカード廃止』は『PayPay』の事業の黒字化同時に、IPOも視野にいれた、ソフトバンクのグループ目標としての2025年までの金融事業の黒字化と大きな関係があるようだ。

その前に、まず、今一度、『PayPay』という会社は誰の持ち物かということを考えてみたい。

『PayPay』はソフトバンク系列というのは、誰もがよく知っているが、どの会社の比率なのかは、非常に複雑だ。

■『PayPay』の親は一体誰だ?

大きく分類すると『ソフトバンクG』『ソフトバンク』『ZHD(LINEヤフー)』のプレーヤーたちだ。

出典:KandaNewsNetwork,Inc.
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現在の『PayPay』の直接の株主比率でいうと…

1.『BHD』 54.8%

2.『SVF2』 28.5%

3.『ソフトバンクKK』 5.6%

4.『ZHD』 5.6%

5.『Paytm』 5.5%

となる。

※HDはホールディングス KKは株式会社

そして、1.『BHD』 54.8%の株主は『ソフトバンクKK』が 50%『 ZHD』が 50%となる。

3.ソフトバンクKK 5.6%

4.ZHD 5.6%

をあわせて考えると、『ソフトバンクKK』のPayPay率は33% そして同じく『ZHD』も33%と同等となる。

つまり、現在の『PayPay』はソフトバンクKKとZHDで66%で意思決定がなされると考えてよいだろう。

そして、

2.SVF2 28.5%

5.Paytm 5.5% 

はどちらも『ソフトバンクG』の『ソフトバンクビジョンファンドSVF』からの出資となり、合計では、『ソフトバンクG』が34%として『PayPay』における出資比率はトップとなる。

さらに、『ZHD』の64.78%は『AHD』の出資であり、『AHD』の50%は『ソフトバンクKK』の出資である。さらに『ソフトバンクKK』の40.68%は、『ソフトバンクグループジャパン』が持ち、『ソフトバンクG』の29.16%は『孫正義』氏の出資であるから、孫正義グループと考えても良いだろう。

■『PayPay』が100%自由にコントロールできるのは実は『PayPayカード』だけだった

2022年10月、PayPayがヤフーから『PayPayカード』の株式を100%譲渡契約を締結してPayPayの完全子会社化が成立した。

2021年10月に『Yahoo!JAPANカード』から『PayPayカード』へとブランド変更一年前からおこなわれていた。

https://about.paypay.ne.jp/pr/20220727/01/

PayPayのブランド変更で、『PayPay』ブランドがたくさん、生まれたが、実質100%『PayPay』の完全子会社は『PayPayカード』のみである。だからこそ、今回の他社カード排除も、完全にコントロールできる『PayPayカード』による専属カード決済計画は、『楽天市場』における『楽天カード』のような位置づけと考えらる。

『楽天』の場合は楽天ポイントが『ザクザク貯まる』という抱え込みで『楽天経済圏』を構築している。

他社カードとでは、PayPayポイントの溜まり方が大きく変わるという位置づけでも、十分他社カードからの乗り換えが可能なような気もする。

■『PayPay』が直接出資をしていない『PayPay銀行』

出典:KandaNewsNetwork,Inc.
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一番、不思議な存在が、『PayPay銀行』だ。『旧ジャパンネット銀行』とあるように日本発のネット銀行として立ち上がった経緯があるからだ。

ヤフーでさえも途中からの出資であった。

筆頭株主は…

1『ZHD』の100%子会社の『Zフィナンシャル』が75.28%の出資でありながら、議決権は46.57%という異質な状態だ。

2.『三井住友銀行』は21.54%と出資比率をおとしてはいるが、議決権は46.57%と上位2社で93.14%の議決権がある。

3.さらに初期からの出資者であり、『ニフティ』を所有していた『富士通』が2.43%で議決権は、5.26%を保持している。

4.さらに、0.24%づつという、『三井住友海上火災保険』、『大樹生命保険株』、『住友生命保険相互』が並ぶ。

意外に株主に『PayPay』の名前はなく、親会社のひとつである『ZHD』の100%子会社の『Zフィナンシャル』が運営している銀行という見え方だ。

そして、異変を感じさせるのが、筆頭2位の『三井住友銀行』は、100%親会社の『三井住友FG』で『三井住友カード』などと共通の『Vポイント』を『CCC』グループが展開してきた『Tポイント』と統合し、2024年春に『新Vポイント』として登場することだ。現在でも『T-site』の紐づけには『Yahoo!JAPAN ID』が使われるなどで、『PayPay』が仕掛けた専用『PayPayカード』戦略であったが、『PayPay銀行』の筆頭第2位の株主が『Tポイント』から『Vポイント』となり、共にライバルになって来春にははじまるという。

老舗のネット銀行を『PayPay銀行』として『Zフィナンシャル』主導で動いたが、まさかの『Tポイント』が『Vポイント』で巻き返してくるとは思わなかっただろう。

■『LINEヤフー』の本格統合前に、『LINE証券』野村HDと『LINE銀行』みずほHDとの決別

そして、『ZHD』との統合ですでに4年越しの年月を重ねてきた『LINEヤフー』が、300億円もの固定費削減の名の元に、『LINE証券』を49%出資の『野村HD』に移管し、『LINE FX』や『LINE CFD』のみを残すという。さらに長年、『みずほ銀行(50%対等出資)』と動いてきた『LINE銀行』は解消(2023年3月)という形をとった。

それも『ZHD』の金融部門である『Zフィナンシャル』の大人の事情の判断であっただろう。そして2023年4月より『ZHD』の代表は元LINE側の『出澤剛』CEOへ変わったことにより、過去のLINEのビジネススキームの取捨選択を決断したのだ。

出典:ZHD 取締役
出典:ZHD 取締役

https://www.z-holdings.co.jp/company/officers/

■『PayPay証券』は『PayPay』35%『みずほ証券』が34%

『PayPay』グループの中でも、『PayPay証券』は、PayPayの出資比率が35%で筆頭であるが、『みずほ証券』が34%、『ソフトバンクKK』が30.6%、『ZHD』が0.4%という比率である。

これもそもそもが、『OneTapBuy』でソフトバンクとみずほFGの合弁でスタートした経緯があるからだ。2023年3月の第三者割当増資後に『PayPay』が筆頭となった。ポイント運用では900万人が利用している。

■まるで戦国時代のような、グループの再編とグループシナジーの創造

出典:KandaNewsNetwork,Inc.
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このように、『PayPay』を中心としてソフトバンクのグループのマップを元に株主の背景を俯瞰して見ると、なぜこのサービスを切ってこのサービスを押し出すのかという疑問がなんとなく解決するような気がする。

しかし、戦国時代さながら、Tポイントとの共通Vポイントを主導する、三井住友銀行とPayPay銀行のあたりはどう考えても調整が必要な局面を迎えてくるのは目に見えている。そして、LINEヤフーが2023年10月に完全統合したとして、Zフィナンシャルのかかわる『損害保険ジャパン』との『PayPay保険』や、『PayPayアセットマネジメント』の『PayPay投資信託』と『Zフィナンシャル』がほとんど、関わらない『PayPay証券』との調整など。考え出すと課題は多岐に渡る…。

それでも新たなネット金融事業の再編には、いろんな意味で可能性が満ちている。各グループ企業の意思決定力が本当に試される試練の戦国時代が続いている。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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