米国のTikTok規制でMicrosoftに買収されたらどうなるのか?
KNNポール神田です。
また、Microsoft社の交渉が断念と報じたばかりの米WSJ紙も一変し、Microsoft社の買収交渉延長を伝えた…。
※WSJ紙の1時間後に、まったく真逆の報道なので、いまだに日本のメディアでは、買収交渉中止の情報が流されている…。
■果たして、MicrosoftはTikTokを買収してメリットがあるのか?
筆者も米国企業のどこかが、TikTokの買収はありだと考えていた…が、まさかのMicrosoft社の交渉には、驚きを隠せない…。
TikTokティックトックが中国ではなく、米国企業になればまるくおさまるという$500億買収提案
Microsoft社といえば、Windowsで世界を一斉風靡した会社ではなく、もはやインテリジェントクラウド部門事業で再編し、成功している会社といったほうが現在のMicrosoft社を物語っているだろう。だからこそ、膨大なトラフィックを動画で生みだし、若年層の粘着性でクラウド利用が増えるという目測は立つ。しかし、TikTok側にクラウドを販売する事業ならばメリットがあるが、TikTokを買収してクラウド利用を増やしてもMicrosoftの収益には貢献できないからだ。むしろ、TikTok社にとって相性が良いのは広告やメディア販売企業だ。
Microsoftは何らかの『対米外国投資委員会(CFIUS)』を介在させることによってメリットがあるディールであることは確かだが…500億ドル(5兆円)という金額は、過去最大のLinkedin買収の262億ドル(2.6兆円)の2倍近い金額であるので考えられないのだ…。政府によるCFIUS権限でディスカウントされたとしてもだ…。
また、TikTokの米国での広告収益はたったの3600万ドル(36億円)である。
※バイトダンス社の2019年の売上は、170億ドル(1.7兆円)営業利益は30億ドル(3000億円)
ますます、Microsoft社がTikTokを所有するという意味づけがとても気になる…。
サティア・ナデラCEOの買収方針は、『Minecraft』で次世代ゲームプレイヤー、『Linkedin』ではビジネスネットワークのプロフェッショナル、『GitHub』では開発プログラマーと、それぞれの『コミュニティ』の獲得で動いてきた…。
それはクラウドビジネスへの拡大へとつながるからだ。しかし、TikTokの場合は、クラウドビジネスには、つながるかもしれないが、『コミュニティ』の獲得としては、多いに違和感を感じる。エンタメコミュニティとしては、Xbox事業があるが、Xboxやゲームを主流とする事業部門としても、カメラやスマートフォンを利用する事業とは大きく市場が異なっている。ゲーム端末やPC端末などのコンソールで画面と対面するハイスペックゲーマーと、TikTokで動画をクリエイトして、友達とシェアする属性ではない。
エンタメを主とした、facebook社やAmazon社らが名乗りを上げるのならばシナジーが多いが、Microsoft社とのシナジーは、ノキア買収やSkype買収以上に低いだろう。Microsoft社からも正式コメントがある以上、交渉は事実だが…。
Microsoftが万一、TikTokの買収に成功したとしても、TikTokそのもののMicrosoftへシナジーを生み出さないだろうし、活かしきれない。そう、Microsoftという企業のDNAには、広告モデルやメディアモデル、無料モデルが根づかない。TikTokを無料で使い続けるためには、Microsoft製品を売りつけなければならないのだ。すると、TikTokに無制限にクラウド保存するために、サブスクリプションモデルが松竹梅で用意されたり、企業や自治体向け、団体のTikTokには法人窓口が対応するなどの政策を取らなかればシナジーが活かせない…。結果として、MicrosoftがTikTokの買収に成功しても、ビジネスモデルが違いすぎるので、買収後にスケールして成功する可能性は極めて低いと思う…。
■TikTokを買収すべきは、facebook社やAmazon社
TikTokを有利に買収すべきところの最大候補は、facebook社だ。SNSで君臨し、Messengerアプリで君臨し、Instagramのアプリでも君臨しているので、TikTokを使った広告ビジネスに最大のメリットが生み出せる。競合を買収して、ブランドを残しながらの成長をさせる天才的な采配を見せているからだ。
facebookに次いで、考えるのであれば、Amazon社が妥当だ。
なんといっても、音楽との新たな接点を作ったTikTokにおける楽曲販売やサブスクリプションは大きいだろう。日常的にTikTokから音楽をプロモーションしながら音楽を販売するという単純なモデルも可能だが、一種の人気インフルエンサーのコンテンツの再加工したバージョンの販売やダンスと一緒になった音楽メディアの販売などの新たな音楽の販売スタイルも創造できそうだ。広告モデル以外の投げ銭というような新たな販売チャネルもAmazonにとっては、貴重なビジネス経験となることだろう。
■最大の気になるところは『対米外国投資委員会(CFIUS)』
『対米外国投資委員会(CFIUS)』についてはこちらに詳しい。
今までは、中国や海外の会社に米国企業に買収されることについて『対米外国投資委員会(CFIUS)』が介入しているが、 海外企業を『国家の安全保障上の重要機密』として買収で介入することは非常に珍しい…。いままで、『対米外国投資委員会(CFIUS)』は、米国企業を買いにくくするためにあったが、今後は、米国進出する中国企業を買いやすくする方向へ動いていると読み解くこともできそうだ。
何よりも、米国での取引を中止させることができるという権限は強固だ。
これをトランプ政見の、選挙前キャンペーンと見ることもできるが、中国が、Googleやfacebookが退出させように、米国と中国の問題だけでなく、『フィブアイズ(米国、カナダ、英国、オーストラリア、ニュージーランド)』を巻き込んだ中国企業の排除へと発展しそうな勢いが気になる…。
■アプリを制するOSやプラットフォーマーへの規制は?
TikTokへの規制問題であるが、ここにきて、重要となるのがAppleやGoogleの『アプリ』の流通を担う米国の2大プラットフォーマーの存在だ。アメリカ政府が介在して大騒ぎすることなく、実際に、プライバシー上の問題やセキュリティの問題があれば、AppleやGoogleが独自の判断で強制排除することもできる。AppleやGoogleは米国企業だが、世界的な『アプリ』流通を担う立場であれば米国側だけの論理で排除するという行為が愚かであることを理解しているからだ。
ファーウェイ端末やハードウェアをボイコットすることに成功した米国でさえも、『アプリ』プラットフォーマーとしてのAppleやGoogleに規制をかけることは難しい。もはや、グローバル企業が税制上属する国とその国の法制度との狭間の問題は今後も大きくなっていく。
いずれにせよ、2020年9月15日までに、マイクロソフトがTikTokをどうするのか?というディールの裏で激しい争奪戦が行われていることには間違いない。