Yahoo!ニュース

たった1円から運用できる『PayPayボーナス運用』に見る、パチンコ玉の退蔵益ビジネスモデル

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
PayPayのミニアプリ『ボーナス運用』 出典:PayPay

KNNポール神田です。

PayPayのアプリ内に『ボーナス運用』のミニアプリが登場した 出典:PayPay
PayPayのアプリ内に『ボーナス運用』のミニアプリが登場した 出典:PayPay

PayPayの中に『ボーナス運用』という新アイコンが登場した。これはPayPay内のアプリなので『ミニアプリ』と呼ばれる…。

□株式会社One Tap BUYとPayPay株式会社は、2020年4月15日(水)より、PayPayが提供する「PayPayボーナス」を、One Tap BUYが提供する独自のポイントに交換し、擬似的な運用が体験できるサービスを開始します。PayPayアプリで提供する「ボーナス運用」のミニアプリから、One Tap BUYが提供するサービスへ遷移し、投資に似た擬似体験をすることができます。

□PayPayボーナスをお持ちの方であればどなたでも、PayPayボーナスの1円相当額から、One Tap BUYの独自のポイント相当額と交換したうえで、One Tap BUYが提供する擬似運用を体験することができます。運用されたポイントは、PayPayボーナスとして交換する(引き出す)ことができ、PayPayの加盟店などでご利用いただけます。なお、One Tap BUYの独自のポイントは、同社が取り扱う上場投資信託(ETF)の市場価格を反映してその数が増減しますが、本サービスは実際の投資や運用ではありません。また、本サービスの利用にあたり、One Tap BUY の証券口座の開設も不要です。

出典:PayPayボーナスを利用した擬似運用体験ができるサービスを One Tap BUYが提供開始 〜「PayPay」のミニアプリに「ボーナス運用」登場!〜

なんと!『PayPay』のキャンペーンや利用時に発生する、翌月にもらえる『PayPayボーナス』を、『One Tap BUY』がサービスしている『米国の上場投資信託(ETF)』に、契約もせずに、『1円(相当)』単位から手数料無料で『(疑似)運用』できてしまうというミニアプリが搭載されたのだ。

■これはすごいことだ! 解説してみよう!

PayPay』が、やっている20%還元キャンペーンを思い出してほしい。翌月に、『PayPay残金』として、『PayPayボーナス』などがキャンペーンの還元ポイントとして戻ってくる。

PayPayもSuicaなども、実は、『チャージ』した瞬間に、お金ではなく『ポイント』と交換されているのだ。その『ポイント』が1ポイントあたり、日本円の1円と同じ金額で『交換』できることによって実際のお金を移動させなくてもモノやサービスを購入できることとなっている。クレジットカードなどとの違いは、『クレジット(信用)』は信用を元に、借金してクレジットカードが会社が建て替え払いをしてくれている。そしてその利息をサービス提供者側から取っているのでユーザーは、翌月以降に銀行などから現金を支払うだけで現金を持ち歩かなくてすむ。

『PayPay』などのQRコード決済事業者は、銀行から紐付けられた口座などから自社のポイントに現金から『チャージ(ポイント交換)』してもらうことによって、現金ではなくポイントとして流通している。

□ポイント還元などでたまる「ペイペイボーナス」をワンタップバイのポイントに交換し、疑似的に投資できる。増減したポイントは引き出して加盟店での決済に使える。

□取り扱うETFは米国株を対象としており、運用内容が異なる2つのコースを用意した。利用料は無料。ペイペイのユーザーが利用でき、口座開設などの手続きなどは不要。

□ペイペイはソフトバンクグループ傘下で、ワンタップバイには通信子会社のソフトバンクが出資している。

出典:ワンタップバイ、ペイペイ上でポイントを疑似運用

■PayPayボーナス運用って何?

『PayPayボーナス運用』の方法 出典:PayPay
『PayPayボーナス運用』の方法 出典:PayPay

https://paypay.ne.jp/guide/bonus-management/

トラノコ』のようなお釣り投資や、『ウェルスナビ』のようなロボットAI投資などの資産運用は多い。『One Tap Buy』も同じような1000円から始めれる株式投資サービスだ。しかし、『投資』に興味があっても、契約が必要で資金が少なくても、書類のやりとりで口座を開設する必要があり、面倒くさいしわかりにくかった。

しかし、今回の『PayPayボーナス運用』は名前は『ボーナス』だが、実際に、自分のボーナスを運用するのではなく、PayPayからもらえる『おまけとしてのボーナスポイント』を運用することとなる。なので、お金ではないので、PayPay側が『One Tap Buy』とやりとりをして運用するので、直接、契約が不要で、しかも『お金=現金』ではないので、『投資運用』というよりも、『(疑似)運用』となるのだ。

■『PayPayボーナス』に見られるパチンコビジネスモデル

もっと簡単にわかりやすく言うと、PayPayは『パチンコ屋さん』で、利用ユーザーは、現金をパチンコ玉に『チャージ(交換)』して、QRコードでパチンコ玉から支払いをしている。そしてPayPayは加盟店からもらったパチンコ玉を『逆チャージ(交換)』で現金を加盟店に支払うサービスを行っている。クレジットカード会社のような手数料を、現在は取らない戦略はユーザーの行動情報を広告に変えるビジネスへの莫大な投資先行期間だからだ。

そして、今回の『PayPayボーナス運用』は、普段はお金で運用している、『One Tap Buy』が、お金ではなく、PayPayでチャージされた『パチンコ玉』ひとつから運用するというスキームをとったから、『疑似運用を体験』という言葉を使っている。しかし、このパチンコ玉は実際の投資ではないが、『One Tap Buy』が、運用して増えたり、減ったりした数を、PayPayが『逆チャージ(交換)』せずに、ユーザーに『PayPay残金』というパチンコ玉のままで戻すというスキームとなるのだ。

まるで、投資しているようであるけれども、『疑似運用を体験』しているだけなので、数字のやりとりはあるが、現金の移動も投資もしていないので、投資のような契約作業も、金融庁の管理下ということも起因しない。

そして、PayPayのパチンコ玉であった『PayPay残金』は日本全国どこでもサービスと『チャージ(交換)』『逆チャージ(交換)』が自由にできる。しかも自由に個人でも気軽に『送金』いや『送チャージ』できてしまうのだ。

PayPayはつまり、日本最大のパチンコ屋チェーンでありながらも、同時にパチンコ玉の出玉を交換してくれる『景品交換所』をスマホの中で完結していたのだった。

そして、パチンコ玉が使われることなく、株式運用で回ることによって、『One Tap Buy』の手数料分を負担するだけで、直接ユーザーにキャッシュアウトすることなく、資金を運用することが可能となるのだ。

同時に、PayPayを使えば使うほど、銀行に現金をおいておいても、0.01円くらいにならない利息どころか、ATMから自分のお金を引き出すのに手数料がかかるご時世で、毎月、もどってくるお金ででETFで運用するということができる金融リテラシーを何も考えずに2択で選ぶことができるようになった。

そして、このスキームがとても、秀逸なのは、PayPayが還元すべきポイントがすぐに使われて、加盟店からの『逆チャージ(交換)』での、来月に付与して発生する現金のキャッシュアウトが少なくなることだ。PayPayと『One Tap Buy』は、ソフトバンクグループ群の会社なので、PayPayの現金を担保にETF投資を行い手数料分の『按分』によって利益を生むことができるのだ。

■PayPayユーザー、2,500万人の毎月1億回の退蔵益運用

出典:PayPay
出典:PayPay

PayPayのユーザー数は、 2,500万人(2020年2月19日)であり、単月の決済回数は、2019年12月以降すでに毎月1億回にも及ぶ。そして、その現金から『チャージ(現金)』されたパチンコ玉を米国ETFで、PayPayからの還元部分の『退蔵益』を実際に『運用』できてしまうのだ。

利息のほとんどつかない銀行の貯金よりも、ほとんど何も考えずに、PayPayのボーナスポイントで慣らされたユーザーが、QRコードの気軽さを体験したように、今度は本気で銀行の現金をETFなどへ投資しはじめたらすごいことになる。2500万人分のETF投資…。

これから、どんな金融の総合技を出してくるのだろうか?

これはすでに、中国のAlipayの『アントフィナンシャル』が仕掛けてきたロールモデルそのものが日本で起きようとしているように感じた。

アントフィナンシャルは世界最大の『マーケットマネーファンド』の『余額宝(ユエバオ)』や、『セサミクレジット(芝麻信用)』を築いている。また、中国でのライバルにあたる『WeChat』の『テンセント』の『テンセントクレジット』のような部分を、ソフトバンクグループ群の中に『LINE』の『LINE Score』が位置づけられているところも今後は注目しておきたい。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

神田敏晶の最近の記事