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月旅行、ZOZO前澤社長とイーロン・マスクのソロバン勘定

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
米SpaceX、月周回旅行で会見 民間人搭乗者にゾゾタウン前澤氏 出典:前澤友作

KNNポール神田です。

IT社長の中でも、クレイジーな生き方を標榜する2人が世界に向けてコミットメントを発表した。

米宇宙企業のスペースXは17日、月周回飛行計画について、ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイ社長の前沢友作さん(42)と契約したと発表した。2023年の打ち上げ予定で、実現すれば世界初の「月旅行客」となる。

会見した前沢さんによると、月周回旅行には本人のほか、画家やミュージシャンら6~8人を選び、2023年の打ち上げを目指すという。費用は公表しなかった。実現すれば、人類が月周辺に到達するのは、1972年のアポロ17号以来となる。

出典:「ついに行ける」前沢氏、会見で興奮隠さず 月旅行契約

SpaceX 発表の様子

前澤社長は、1962年ケネディがアポロ計画前のヒューストンのライス大学での演説で使った、『We choose to the go to the moon』を一人称の『 I 』に変えた『I choose to the go to the moon』と自らの英語で宣言した。

『月旅行』を『アートプロジェクト』としたこと

#dearMoon アートプロジェクト 出典:dearMoon
#dearMoon アートプロジェクト 出典:dearMoon

パブロ・ピカソが月を間近に見ていたら、どんな絵を描いたんだろう。

ジョン・レノンが地球を丸く見ていたら、どんな曲を書いたんだろう。

彼らが宇宙に行っていたら、今の世界はどうなっていたんだろう。

かつての宇宙開発は、米ソの代理戦争であり、科学技術で牽引してきた。そして半世紀後、超富裕層向けの冒険旅行企画がたちあがりはじめた。イーロン・マスクは火星に人類が移住できる構想のゴールを設定し、テスラ車の販売で稼いで、火星への夢を実現しようとしている。

筆者も2001年のゼグラム社の宇宙旅行には予約したことがあるが、一週間をあの狭い空間で過ごすのは、大半は苦痛ではないかと考えていた。

しかし、前澤社長は、単に物見遊山の宇宙旅行ではなく、『アーティスト』たちを宇宙に連れ出し、宇宙から眺める地球を見て、インスパイアされた作品を残し、アートで『平和』を実現しようという。おそらく狭い空間の中でのアイデアは、お互いに刺激を与え合うことだろう。

『#dearMoon』というアートプロジェクトのビデオも公開となった…

『#dearMoon』ウェブサイトも公開された。

https://dearmoon.earth/ja/

twitterもinstagramも用意。

https://twitter.com/dearmoonproject

https://www.instagram.com/dearmoonproject/

ZOZO 前澤社長のソロバン

何よりも、今回の発表で「Yusaku Maezawa」の名前は、一瞬にして世界へ知れ渡った。スタートトゥデイの株主にとっては、冷ややかな反応だったが…。しかし、2023年までの5年間、#dearMoon のプロジェクトとして、単なるネット通販の日本の企業ではなく、世界を睨んだアートと平和で『ゾゾスーツ』の広報活動もできるからだ。

「『人が服に合わせる時代』から『服が人に合わせる時代』にしていこう」。7月3日、都内で開かれた発表会で語った前澤社長の言葉です。

みずからの体型にぴったりフィットさせた、自社ブランド「ZOZO」のスーツを身にまとって登場した前澤さん。これまで国内だけで扱ってきた自社ブランドを、アメリカやイギリス、ドイツ、それに中国や韓国、タイなど72の国・地域でも発売し、世界進出することを明らかにしました。

出典:ZOZO海外進出 前澤友作社長が語る“野望”とは?

惜しむらくは、デザイン性がどうのではなく、ドット柄のZOZO SUITをイーロン・マスクにも着せて、世界を露出するべきだったと思う。ブランドイメージが宇宙、アートプロジェクト、ZOZO SUITで世界から「S・M・L」の既成サイズがなくなる…のストーリー性を感じさせてくれたかと思う。…というよりも、これはZOZOの前澤社長というよりも、個人のYusaku Maezawa プロジェクトなのだろう。5年後にSpace Xが存続しているかという問題も懸念される。

イーロン・マスクのソロバン

このところ、テスラのCEOとしての、イーロン・マスクの失態ぶりは、精神疾患かと思うほど心配していた。

7日木曜日にテスラ社は一ヶ月前に最高会計責任者として就任したばかりの幹部の辞職を発表。これを受けてテスラ株は一時9%下落し、二年ぶりの大幅安。同日マスク氏はコメディアンのJoe Rogan氏のポッドキャストにウィスキーを飲み、大麻を吸いながら出演。この行為はテスラ社の行動規範に反しているのではないかと大騒動になった。

一夜明けて8日金曜日にテスラ社の社債が大暴落。2025年償還予定の社債価格が最安値をつけ、市場利回りが8.89%まで上昇。すでにテスラ社の信用格付はS&P、Moody's両社からネガティブの格付けを付与されており、テスラ社の社債は投資不適格とみなされている。公定歩合が2%の米国で8.89%の利回りとは資本市場からほぼ投資回収不能の烙印を押された印象が強い。

8月上旬に第2四半期の業績を発表したテスラ社だが、Model 3の生産台数が計画を下回り、フリー・キャッシュフローは一向に改善せずという内容だった。

7日木曜日の終値ベースでのテスラ社の時価総額は447億ドル。第2四半期末の負債合計額が226億ドル。時価総額の約50%が負債。IPOをして8年も経っている会社の時価総額の半分が負債とは個人的に合格点とは言い難い印象を受けた。

出典:稀代の天才起業家は資本市場に完全敗北か

今回は、SpaceX社のプロジェクトだからTesla社とは直接的には関係がない。しかし、イーロン・マスクという起業家でありCEOという立場での一挙一動に世界が注目していることは確かだ。

今回の発表は、前澤社長が乗客としての、8名分でのチャーター予約をおこない、金額は発表しないが、個人的に出資もするという。SpaceX社にとっては、バスキアの絵画を所有するアートキュレーターの参加は、宇宙旅行の新たな表現手段としての上客だといえそうだ。

ソーシャルメディアに長けすぎたCEOの2人

イーロン・マスクCEOにも、前澤社長にもいえることだが、会社よりも著名になった有名人CEOは、プライベートも丸裸だ。

しかも、どちらも、簡単にツイートし続ける。今や、米国大統領が、通信社よりも、自ら発表してしまう『直』の時代だ。メディアが介在する必要がなくなりつつある。むしろ、メディアは直で発表されたことにより起こりつつある『現象』をレポートするしかないのかもしれない。

会社は株主のために存在するという考え方が主流だが、この2人については、応援したくなるファンになる、顧客になるという応援の仕方もありそうだ。とりあえず、プロジェクトの成功を祈り、不格好な初代ZOZO Suitで計測し、オーダーし、5年後の『平和』の夢を見たいと思った。イーロン・マスクの支援は大変だけど、ZOZOでジーンズをカスタマイズするくらいはできそうだ。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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