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Googleでエリック・シュミットCEOが発明したこと

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
googleの親会社Alphabet社の会長を引退するエリック・シュミット会長(写真:ロイター/アフロ)

KNNポール神田です。

米Googleを傘下に持つAlphabetは12月21日に(現地時間)、エリック・シュミット氏(62)が2018年1月の取締役会で会長を退任すると発表した。取締役にはとどまり、“テクニカルアドバイザー”になる。

出典:GoogleのCEOも務めたAlphabetのエリック・シュミット会長が退任へ

エリック・シュミット会長、お疲れ様でした!

エリック・シュミット氏が、もしもいなかったら、Googleはどうなっていただろうか?

2001年から2011年までの10年間は、Googleの最高経営責任者(CEO)として、そして、それ以降は会長として7年間。世界最高の技術者のラリー・ペイジとサーゲイ・ブリンら創業者が生み出したGoogle社を導いてきた。

https://ja.wikipedia.org/wiki/エリック・シュミット

そればかりではなく、エリック・シュミット氏は、2006年8月から(2009年8月に退任)はAppleのボードメンバーも兼任していた。Android OSの躍進ぶりを考えると現在からはとても考えられない座組みである。AppleやGoogleは右手で握手しながら左手で殴り合っている関係性なのだ。いや、シリコンバレーの歴史そのものがライバルを成長させる流儀でもあるのだ。

エリック・シュミットの言葉

「CEOとして10年、会長として7年を務めた後、私は最先端の科学、技術、慈善事業に飛び込めることが、とても待ち遠しい。私はこれらの未来についてラリーとセルゲイとAlphabetで働けることを楽しみにしている」

4年ごとのITバブル 出典:筆者作成
4年ごとのITバブル 出典:筆者作成

エリック・シュミットCEOが誕生してからは、2004年のGoolgle IPOで「4年毎のITバブル」の新たな時代の幕開けとなった。

1998年のスタンフォード大学のドミトリー時代から、筆者が彼らの足跡を眺めていて感じることは、Googleのフィロソフィー、経営哲学である。経営というよりも、仕事に対する考え方だ。これらの哲学がGoogleのサービス、製品、社員にわたるまでの流れだ。

長年変わることのないGoogleの10の哲学 Don't be evil

シンプルだが、現在のGoogleにもこのフィロソフィーは当てはまっていると思う。

■使う人のことを考える。

1. ユーザーに焦点を絞れば、他のものはみな後からついてくる。

Focus on the user and all else will follow.

■一つのことを極める。

2. 1 つのことをとことん極めてうまくやるのが一番。

It’s best to do one thing really, really well.

■時間を大切にする。

3. 遅いより速いほうがいい。

Fast is better than slow.

■誰かを贔屓したりしない。

4. ウェブ上の民主主義は機能する。

Democracy on the web works.

■いつでもどこでも調べられる世の中へ。

5. 情報を探したくなるのはパソコンの前にいるときだけではない。

You don’t need to be at your desk to need an answer.

■邪悪になるな。

6. 悪事を働かなくてもお金は稼げる。

You can make money without doing evil.

■貪欲になれ。

7. 世の中にはまだ情報があふれている。

There’s always more information out there.

■国境を越えて愛されるサービスを目指す。

8. 情報のニーズはすべての国境を越える。

The need for information crosses all borders.

■規定の文化にこだわらない。

9. スーツがなくても真剣に仕事はできる。

You can be serious without a suit.

■現状に満足しない。

10. 「すばらしい」では足りない。

Great just isn’t good enough.

https://www.google.com/about/philosophy.html

失敗だらけの Googleの事業ドメイン

2006年のGoogleの事業マップ 出典:筆者作成 週刊SPA!
2006年のGoogleの事業マップ 出典:筆者作成 週刊SPA!

2006年当時のGoogleの事業ドメインを検索を核にして、水平軸にパーソナルとグローバル、垂直軸にコミュニティとメディアに事業をマッピングしてみた。左上にあたる今でいうSNSにあたる事業分野では失敗の連続であることが10数年経過した現在でも汲み取れる。しかし、あくまでも検索による広告事業は盤石な利益の要だ。

海外では「Google墓場」というページでGoogleの亡くなられたサービスが埋葬されている。

埋葬されたGoogleの過去サービス 出典:The Google Graveyard
埋葬されたGoogleの過去サービス 出典:The Google Graveyard

http://www.slate.com/articles/technology/map_of_the_week/2013/03/google_reader_joins_graveyard_of_dead_google_products.html

Google最強のアイデアは有限の広告媒体を無限にしたこと

何よりも、Googleは限られた広告媒体を、「検索」という行為とツールで無限にしたことである。さらに、20世紀までの広告の歴史上存在することのなかった広告主を広告主として成立させたことにもある。しかも、そのGoogleでさえもOvertureのリスティング広告登場以前は、そのビジネスモデルに気づいていなかったのだ。Overtureのリスティング広告を「パクる」ことによって、現在のGoogleの事業は盤石になった。

エリック・シュミットと2人の創業者による体制は、電子メールでさえも広告媒体となった。それまでの無料メールのようなウザイ広告ではなくスマートな広告として振る舞った。GMailはジャンクメールを遮断し、よく見るとタブ先の向こう側に遠慮がちに表示している。邪悪にならずに、ユーザーの行動を妨げない広告を嗜好しているからだ。また、AdWordsなどの広告主のためにも、広告ばかりのサイトには広告を表示させないなどを、すべて自動化して、コントロールしている。そして、何よりもコストが一番かかり、売上にはまだまだ遠い事業が、Street Viewの事業である。今日も世界のあちらこちらでStreet Viewの撮影者が世界の道路を撮影している。

婚約者の実家を観ることも、不動産の環境さえ知ることもできる。道路や設備の状況までわかる。各国の政府や自治体がやるべき事業を広告事業の媒体開発としてGoogleが先行投資しているのだ。

Googleの撮影カーは今日も世界を走る 出典:クアラルンプールで筆者撮影
Googleの撮影カーは今日も世界を走る 出典:クアラルンプールで筆者撮影

エリック・シュミットが発明した『クラウド』の概念

クラウド・コンピューティングという言葉は2006年8月9日に開催されたSearch Engine Strategies Conferenceにおいて、Google社CEOのエリック・シュミット氏が言及した。以前から「ネットの向こう側」や「あちら側」などとも標榜されてきたが、GoogleのCEOが『クラウド・コンピューティング』の概念を語った事によってクラウドの概念が広がった。あれから10数年を経た今日。

Googleはどこへ向かうのか?

筆者はすでに自分のデータは、自分のハードディスクではなくすべてクラウドへ移行した。ローカルにおいておくほど危険なことはない。万一のバックアップも別のクラウドサービスで十分だ。膨大なビデオストックはYouTubeに、膨大な写真ストックは Google Photosに、自分の引き出しや書棚の書類のデータさえもGoogleで「ググった」ほうが早いのだ。これからは、生まれて死んで行く人類の一生もすべてデータはクラウドとなり、子孫が先祖のことをデータで「ググる」ことになるだろう。

エリック・シュミットは初の著書『第5の権力 Googleには見えている未来』を記した(2014年)。

立法権、行政権、司法権、第三権力、そしてマスメディアの第四権力、そして、第5の権力は、「ネット化された個人」だという。2025年「世界80億人がデジタルで繋がる世界」というのは簡単だが、それが何を意味するのか想像するのは難しい。2020年日本では5G時代に突入する。すると、クラウド以外に保存するのはよほどのモノ好きな人としか思われないだろう。80億人がすべてクラウドでコミュニケートした時に、第4の権力までのような責任者がいた時代とは違う、責任者不在の第五の権力であるネット化した個人に権威が譲渡されるのだ。

Google の使命は、世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること。つまり80億人が平等にアクセスする時代なのだ。国や政治や、人種や宗教が、大きく情報にアクセスする個人のチカラで変りはじめる。2018年から数えてあと7年目でやってくるそうだ。今まで直面したことのなかったような問題と解決法で対処していかなければならない。それでも人は、困った時には「検索」をする。第5の権力にとっては「検索」は新たな宗教となるのかもしれない。その時のGoogleは天使なのか悪魔なのか…?

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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