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『インスタ映え』消費を支える国内2000万人ユーザー

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
『#インスタ映え』で検索すると44万枚の投稿と出会える

KNNポール神田です!

「新語・流行語大賞」に『インスタ映え』が30の候補のひとつとして発表された。来月の2017年12月1日に大賞とトップ10が発表される。

「新語・流行語大賞」は、1年の間に話題になった出来事や発言、流行などの中から世相を表現した言葉を選ぶ賞で(2017年11月)9日、ことしの候補として30の言葉が発表されました。

このうち社会現象や時事問題に関連して、SNSのインスタグラムに投稿するためスマートフォンなどで写真を見栄えよく撮影する「インスタ映え」、睡眠不足の蓄積が認知症などの発症リスクになる「睡眠負債」、長時間労働の是正などを目指す「働き方改革」、うそやでっち上げをニュース記事のように仕立ててインターネット上に流す「フェイクニュース」などが選ばれました。

出典:新語・流行語大賞 「インスタ映え」などノミネート

古くから、インスタグラムを知っている属性の方にとっては、今さらながら、なぜ「インスタ映え」?だと思うはずだ。それは、「インスタグラム」ではなく『インスタ映え』という社会現象に注意しなければならない。

『インスタ映え』するかどうかが重要!

今年の夏から『インスタ映え』が急上昇 Google Trendsより
今年の夏から『インスタ映え』が急上昇 Google Trendsより

Google Trendsを見てもわかるように、2017年夏、『インスタ映え』というワーディングが突然、急上昇している。

そう、インスタグラムで撮影する女子たちが、「いいね!」を獲得するために、いろんな工夫している様子を見事に標榜したのが『インスタ映え』だったのだ。その現象を従来メディアが取り上げることによって、社会現象化している。

『インスタ映え』とはそもそも何なのか?

「Instagram」の登場は今から、7年前の2010年の10月6日だった。ケヴィン・シストロムとマイク・クリーガーがinstagramを設立する。ケヴィン・シストロムが、スタンフォード大学時代にフィレンツェで写真を学ぶ時、ニコンからトイカメラの「Holga」に変えるようアドバイスを受け、Holgaの正方形フレームの縦横比に影響を受ける。instagramのアイコンにも、ポラロイド社のインスタントカメラ機のメタファーが施されていた。ケヴィンは、twitterの前身の会社「odeo」でインターンを経験し、Google社に入社。Google退社後に勤めた旅行口コミサイトのNextstop社がfacebook社に買収される。ケヴィンは、Nextstop社を辞め、マイクと共に旅行計画アプリの「Burbn」をリリースする。しかし、「Burbn」は、複雑でユーザーの反応が悪かった。ある日、ケヴィンの彼女が、写真を綺麗に撮れない悩みを相談し、フィルターをつけたカメラアプリとして、「Burbn」をシンプルにし、リリースしたのが『Instagram』となった。

 正方形フレームに、ノスタルジックなフィルター類は、デジタルのiPhoneなどのカメラで撮影したのに、まるでポラロイド写真時代のようなアナログテイストで日常の写真を盛れる。さらに、さまざまなSNSに同時投稿できることで、まるで素人でも雑誌のようなレイアウトで「映える日常」をSNSで拡散することができた。そして、2012年、facebookに10億ドルで買収され、facebook傘下となる。当時の社員は13名であった。facebook社の秀逸なのは、instagramがfacebookとユーザー属性が違うことを熟知していたことだ。かつてのGoogleのように自社サービスと無理やり連携させることをせずに、instagramを別ブランドとして、育成してきたことだ。

instagramの#ハッシュタグ検索の効果

instagramの成長の過程で、最も重要だったのは、女性のセルフィー写真の進化だ。アプリ加工にフィルター加工、最新スマートフォンの自撮り補正に、フィルターや#ハッシュタグで、instagramの文脈は大きく変化することとなった。

 それまでは写真加工アプリの域を超えなかったinstagramが、日常を非日常に変化させることとなった。また、スマートフォン専用アプリにしたことによって、いつでもレアでLIVEな投稿と、美化した日常が、現場から投稿されたのだ。そして、さらに美化できる日常を求めて消費行動も活発となる。

 facebookのように文字で長々と語る必要もない。言語化された長い#ハッシュタグはその言葉に共感する人たち同士を結びつけた。ありとあらゆる、しがらみのある知人で構成されるfacebookやSNSではなく、#ハッシュタグの感性フィルターでヒモづけられたアイデアに満ちたグラフィックが無数にinstagramには現れる。

 #ヘアアレンジ から #シフォンケーキ #つくりおき #昼ゴハン に至るまで…。Googleの検索のように文字の羅列ではなく、そこにあるのは、少しだけ背伸びした非日常の姿が等身大で、雑誌のようにレイアウト表示される。

しがらみのない「いいね!」の魅力

 それこそ、Googleの検索で見つけられる、情報化されたモノではなく、たった今、そこで起きているリアルな日常がレイアウトされて現れる。そして、共感された結果は、見知らぬ人からの「いいね!」を生む。「しがらみいいね!」ではない、本当の「いいね!」は、自分の社会的地位や美貌的価値や経済的地位とはまったく関係のない「instagram化された自己」への評価へとつながる。その承認欲求の満足度と承認コストを考えると、多少のインスタで映える為の「消費行動」はとても安いものだ。そして、その消費コストは、さらなる「インスタ映え」に確実に反映される。

『インスタ映え消費』は、過去の銀塩写真へのオマージュ

飲食業界やファッション業界も、「インスタ映え」を促進する場所やモノを提供することによって、露出度が確実に上がることがわかっている。「インスタ映えを狙ったお弁当」までが自虐的に登場する。そう、インスタ映えは、映えることだけではなく、崩しで自虐的な要素も必要なのだ。「スノー SNOW」などのアプリもその典型的な事例だろう。

 『インスタ映え』は、単に「インスタ映えする写真をポストする」だけではなく、女子にとっては、本来の自分の求めている理想の日常を、しがらみなく「いいね!」で共感してもらえる、共感ツールの「記号」なのだ。男子のように、何かのゴールとしての「結果」を求めているのではない。自分の好きなものが、知らない誰かからも、共感されていることが何よりも重要なことなのだ。

女性ユーザーが6割の2,000万人ユーザーが、日常にある『インスタ映え』を投稿しはじめた年

2017年10月3日、Instagramを傘下に持つFacebookの日本法人であるフェイスブックジャパンは、「Instagram Day」を開催した。2015年には2兆以上のコンテンツがInstagramに投稿された。画像や動画がグローバルな言語になっているのだ。2017年の日本国内のユーザー数は2000万人。2015年には810万人だったことから、その急成長ぶりがうかがえる。Instagramの国内ユーザー数の男女比率は男性39%、女性61%。

インスタ映えするハイセンスなクリエイティブだけでなく、誰でも気軽に日常の風景を切り取ったようなコンテンツを投稿できる場として使われるようになっている。

出典:「インスタ映え」を超えて広がるInstagram広告のこれから

かつて、フィルムの銀塩写真カメラは、非日常なイベントを撮影するものだった。誰も日常の食卓を撮影などしなかった。そこには、誰もが、『写真映え』するために、シャッターボタンを押す前に何度も露出や構図を考えてから、瞬間の光をシャッターで切り取っていた。フィルム代金がかかり、現像料金、紙焼き料金、フラッシュ球代までのコストがかかった。万一、目でも閉じていたら、親からよく怒られたものだ。写真の撮影コストに見合うだけの「写真映え」が必要だった。

 今、デジタル時代でなんでも手軽に便利になっているにもかかわらず、誰もが『インスタ映え』を気にしながら、コストをかけて写真を撮影するというのは、新しいデジタル時代の写真表現のひとつのスタイルなんだと思う。「インスタ映え」は、銀塩時代の大切な記憶に残る一枚を撮る感覚に、先祖還りしているのだと思う。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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