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すべてのディザスターを乗り越え戦う「GODZILLA」

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

KNNポール神田です。

六本木ミッドタウンに登場したGODZILLA
六本木ミッドタウンに登場したGODZILLA

最初の「ゴジラ(1954年)」が誕生したきっかけは、60年前のあのビキニ環礁での水素爆発実験「キャッスル作戦・ブラボー実験」(1954年3月1日)。放射性物質の影響を受けた第五福竜丸という社会問題から生まれたモンスターだった。

現在、公開中の映画「GODZILLA(2014年)」は、この初代「ゴジラ(1954年)」の伏線を深くオマージュしている。今回の映画であの実験は何の為だったのかという秘密が明かされる。このプロットそのものが、今回のメガホンをとった監督ギャレス・エドワーズ(39歳)のゴジラシリーズへの深いリスペクトを感じる。

ゴジラ映画の収益性は?

エドワーズ監督の過去の作品は「モンスターズ(2010年)」たったの1本だけだが、制作予算80万ドル(8,000万円)で420万ドル(4億2,000万円)稼いだ監督だ。映画投資効率は5.25倍だ。

ワーナー・ブラザーズとレジェンダリー・ピクチャーズは、このギャレス・エドワーズ監督に制作予算1億6000万ドル(160億円)で「GODZILLA」に賭けたのだ。そして、なんと全米公開時(2014年5月16日)の週末3日間だけで興収9,320万5000ドル(約95億円)を記録してボックスオフィス初登場1位を獲得。世界オープニング興行収入では、1億9,600万ドル(196億円)を稼いだ。制作費の160億円は、たったの一週間で元を採れた計算だ。後はひたすら利益を生むだけだ。

これに本家の日本と世界と半年後にレンタル、さらに半年後にCATVとネット動画、そしてテレビ、その間に続編の制作が発表となるからだ。

今回のGODZILLAの成功によって、続編の制作も発表された。監督は、ギャレス・エドワーズ監督で、モスラ、ラドン、キングギドラらが登場をするらしい。また、7月26日で世界累計が500億円突破という成績だ。ギャレス・エドワーズ監督はすでに、2016年12月16日公開予定の「スターウォーズスピンアウト編」の監督にも決定している。一気にSF名監督の仲間入りだ。

そして、最後のロードショー公開となった日本での興行成績が気になるところだ…GODZILLAがもしかすると、ワーナー・ブラザーズだけではなく、親会社のタイムワーナーさえも救うかもしれないからだ。

GODZILLAがワーナー・ブラザースを救う?

ワーナー・ブラザースは、親会社のタイムワーナーの買収などで、ルパート・マードック率いる21世紀フォックスに800億ドル(8兆円)の買収をかけられていた。ほかにも、AT&Tとコムキャスト、ベライゾン・コミュニケーションズなどが買収候補先としてリストされている

しかし、このGODZILLAが順調に稼いでいけば、経営体質を改善し、ワーナー・ブラザーズ映画社は、もしかすると、タイムワーナーのバイアウトの手から逃れられるかもしれない。

ローランド・エメリッヒ監督版の「Godzilla(1998)」は、巨大トカゲのような様相で魚が好きな怪物であり、とてもゴジラとは思えなかった作品だ。それでも、制作費1億3,000万ドル(130億円)で週末3日間は5572万ドル(約55億円)、結果として、米国で1億3631万ドル(136億円)米国外で2億4270万ドル(242億円)の売上だ。レンタルビデオ類で7,000万ドル(70億円)の合計448億円を稼いだ映画だ。…とするとゴジラのマーケットサイズからすると今回の作品はエメリッヒの、5倍〜10倍は伸びると期待できる。5倍で2240億円。10倍とすると4480億円。続編が同じ規模で期待できるとすると、1兆円規模の売上が見込めるのだ。これは映画会社としても大きい収益構造となることだろう。少なくとも、バイアウトの金額を釣り上げる要因になることは確かで、タイムワーナーが、安値で買い叩かれる心配はなくなる。

今回のGODZILLAに登場する世界各地のディザスター

何よりも、今回のGODZILLAは、ビキニ環礁の水爆実験の真相からの解明、そして日本の「ジャンジラ市」の原発事故、これは完全に福島原発を描いている。渡辺謙さん演じることの芹沢博士の懐中時計は、広島の原発事件の時が刻まれていた。そして、米国の核廃棄施設、TSUNAMI、さらに911のビル崩壊と世界中のディザスターをこれでもかと集めた演出だ。

最初のタイトルからそうだが、出演者のクレジットがすべてマーカーで黒く塗りつぶされる隠蔽された情報としての登場も見事だった。そう、一般大衆や国民には、本当の事を知られては困るという旧態以前とした政治力が政府側には残る。それはパニックや世論を変えてしまう怖さがあるからだ。しかし、それ以上の現実が起きた場合は、そのレベルではない。前半に繰り広げられる日本のジャンジラ市という富士山の見える場所の光景は、まさに福島原発そのものだった。

崩壊する原発と日本の「ゴジラ」の発音で呼ばれた米国産のGODZILLAがまさに、オリジナルの「ゴジラ」の持つ放射能への安易なコントロールを非とする姿を描いていた。

そして、なによりも、原発問題と放射能に関してはモンスターとクリーチャーの古代の食料源という展開は差し引いても、人間が扱い切れない問題であることをこの映画はストレートに表現している。

まさにゴジラは、その原子力の「GOD神=ZILLA」であり、そのパワーバランスを安定化させるために闘争本能があったといえよう。今回登場するクリーチャーにも、種の保存欲求を遂行するために、活動しているだけであり、人類に悪意があるわけでも何でもない。ただ、核廃棄物が豊富に存在するところがあればあるほど、身ごもることができる環境が増える。反原発派こそ、支援する映画ではないのだろうか?官邸前でアピールするよりも、この映画をアピールした方が世論は動きやすいかもしれない。

そして何よりも、アメリカのSF映画で必ず登場するはずの大統領もホワイトハウスもこのGODZILLAにはまったく登場してこない。現場レベルの指揮によってすべての行動と戦略が変わる。あくまでも、反原発映画としてのテイストを維持するために、アメリカ側の意見を極力排除したのかもしれない。

数々の映画へのオマージュに充ちたシーン

この映画のギャレス・エドワーズ監督は、本当にゴジラの好きな監督なのだろう。ゴジラの登場は、最初から背びれだけだ。この背びれがゴジラのメタファーとなっている。「ゴジラ」同様、登場まで、じらしにじらされる。ジョーズを撮ったスピルバーグもこのじらしをゴジラから学んでいる。さらに見上げるほど巨大なモンスターたちのCGは「クローバーフィールド」を彷彿させる。「トランスフォーマー」よりも大きな格闘シーンは、3Dの画面を見ていても立体に見えないほど遠景である。実際にIMAXの3Dで見たが、2Dで見たほうが迫力があるように感じたくらいだ。巨大すぎて飛び出せないのだ(笑)。むしろ、この映画は「ムトー」と呼ばれるクリーチャーの高い擬音とGODZILLAの低音が再現できる良いサウンドシステムで見るべきだと思う。電磁波の影響で、電気系統がすべてシャットダウンする音にいたるまで、音質にこだわりが見える。また、東宝のゴジラ時代のような決めポーズもあるが、自然なカタチでゴジラの決めを見せてくれるのも醍醐味のひとつだ。子供の頃に見たゴジラの感動がすっかり蘇ってくる。

911の崩壊を彷彿させる格闘シーン。その後の横たわるGODZILLAは、ピーター・ジャクソン版の「キングコング(2005)」のラストと同じだ。随所に往年のSF映画の要素を取り入れている。圧巻は、ゴジラの化石がまさに、リドリー・スコットの「エイリアン」のシーンに見えたところだ。このあたりの表現は、映画を観ていただければきっとわかっていただけると思う。

新宿バルト9での音質は最高の状態だった。見下ろした新宿の街が平和だったのも幸いだった。久しぶりにオトナも楽しめるSF映画を見た気がした。また、ボクの中での最高の「ゴジラ」映画となった。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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