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ソーシャルメディアの不適切な距離感 従業員の不適切画像

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

■マスメディアがとりあげはじめた理由

ソーシャルメディア上での、「従業員の不適切画像公開」の問題が今年になり、メディアにさかんに取り上げられている。

アルバイトや従業員による悪ふざけや、有名人来店のプライバシー露出は、以前からよくあった話だが、これほどまでにメディアでの話題にはならなかった。

それは、ソーシャルメディアの普及による拡散力拡大の影響だけではなく、メディア側のニュースソースの絶対的な枯渇といえるだろう。

かつて、ネット内のトピックは、ネット内や掲示板でとどまっていたものが、ネットを飛び出し、メディアの拡散力を伴って、さらに拡散される。それだけネット上での出来事をメディアが、常にキャッチアップするようになったからだ。ソーシャルメディアの特徴は、同じトピックでも、ソーシャルメディア以外から見聞すると、非常に違和感を感じるからだ。その違和感はメディアにとってはニュースの必要な要素なのだ。

また、メディア側も火事や事故のような通信社経由のニュースはあるが、ネット系のニュースは通信社からは、上がってこない。しかし、ネット上での出来事は、取材せずに電話一本の確認作業で取り上げることができるので、ニュースにしやすいという側面を持っている。もちろん、火事や事故よりも視聴率を稼げる要素もあるのでニュースになりやすい。しかも写真や動画もそなわってきているから報道に使いやすくなった。

それだけ、変化している中で、変わらないのが、投稿する当事者たちのソーシャルメディア上での距離感だ。

たとえば、一連の不祥事の写真は、学生やアルバイトによるものが多く、自分の会社や本業ではなく、仮に身を寄せているコミュニティである場合が多い。それはひとつのコミュニティへの帰属意識のゆるさでもあり、本来の自分の居場所ではないという潜在意識の現れなのかもしれない。職場に対しての愛情が希薄だといえる。

もし、これらの写真が、LINEで個人的に送られてきたり、facebookグループの間だけであれば、何もない悪ふざけでかたづけられる身内ネタで終わっていたはずだ。学生時代では誰もが見かけたことがあるようないたずらだろう。

しかし、それが、ソーシャルメディアでは、知人から知人へ、そしてまた知人へ…そして知人出ない人へと情報が渡り始めると、不快感が増してくる。つまり、知りあいでない人の不適切な行動には不快感がともなってくるのだ。それが、ダイレクトに自分のタイムラインではないところから流れてくるとさらに不快感はさらに違和感に感じていく。

■ソーシャルメディアの不適切な距離感

それが、ソーシャルメディアの不適切な距離感だ。

メディアでは、投稿者の心情を「一発芸、炎上狙い、ウケ狙い」と単純に解説されているが、むしろそれは、ソーシャルメディアの不適切な距離感が生んだものといえる。

投稿者側からすると、過去の自分のアクションに対して、知人たちが、喜ぶ様をすでに何度か経験しており、徐々にオーバーヒートしていく。または、そんな知人を見て、もっと凄いことをやりたい!という感覚になっていたと思う。ある意味では「ウケ狙い」だ。ただ、知人の中だけだと、問題意識のタガが外れやすいのだ。

そして、ソーシャルメディアの不適切な距離の問題は、いつも、リアクションのいい人たちの反応だけが可視化されており、それ以外のフォロワーの人たちの反応は非常に発見しにくい特性をもっている。つまり、自分に対してポジティブな反応ばかりを見ている傾向にあり、すべて自分の行動は肯定されているように感じている。

だから、信じられないような行動と映るような大胆な行動も簡単に取れてしまう。それを一部の人が評価するとさらに、もっと大胆になってしまう。

■投稿をする前に自問自答を!

投稿する前に、この投稿によって「誰かに迷惑をかけたり、傷つけたりしないか?」の自問自答は必要だろう。

それと、「もし、あなたが有名人だったら、あなたと同じことができるかどうか?」という問いもなげかけてみてほしい。

たった、一瞬の身内でのトピックのために、自分の人生や他人の人生を大きく変えてしまうインパクトをソーシャルメディアは持っている。

知人のさらに知人、さらにあなたとは考え方が違う人も見る可能性も秘めていることを考えた場合、友達限定の距離感でひっそりと遊ぶべきか、公正明大でいくかを判断しなければならない。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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