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なぜ?Appleは、Lightningケーブルで過去の30ピンの歴史を終わりにしたのだろうか?

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
MacProから1メートルのLightningケーブルでiPhone5を接続
MacProから1メートルのLightningケーブルでiPhone5を接続

MacProに1メートルのLightningケーブルでは短かすぎる

MacProの置かれ場所は机の下だろう。そして約70cmの机までLightningケーブルでiPhone5を接続すると、机上での移動範囲は数cmしか移動できない。さらに、発売当初のLightningケーブルはほぼ入手不可能であり、毎回この机に潜り、移動し、また潜り、移動しを繰り返させられた。

長年、愛用してきているケーブルのいらないMophi JucePack のバッテリー同梱ケースは、未だにfor iPhone5用は販売されない。

Lightningケーブルになって、現在のユーザーが感じるベネフィットは、リバーシブル仕様で、表も裏もなく差し込めるというメリットくらいしかない。しかし、これだけでも、MicroUSBの形状を目を凝らして確認することから比較すると数段いい状況の変化である。

アップルは、第三世代iPod登場以来(2003年4月発売、初代、第二世代目まではFireWireケーブル)、30ピンのUSBコネクティングケーブルを採用しつづけてきた。

約10年間でもある。サードパーティーは、その間に、何十万円もする高価なスピーカーなども30ピンのUSBドック専用で販売されてきた。しかし、iPhone5の登場(2012年9月21日)と共に、何の前触れもなく、8ピンの認証チップ搭載のLightningケーブルへと変化となり、レガシーのデバイスへと変化させられてしまった。

アップルのサードパーティーへの市場管理統制

30ピンからリバーシブルで8ピンとなったUSBLightningケーブルの一番のキモは、認証チップの搭載だろう。今後、アップルのiOS製品に接続するためには、すべてアップル側へ認証チップを得るための「Made for iPod」などのロゴで知られる「MFiプログラム」に参加し、さらにライセンス認証を受けたメーカーのみが、認証チップを購入できるという仕組みが完成してしまったのだ。

これは、アップルが、アップルのユーザーのために、ある程度サードパーティーの製品を審査したり、管理できることを意味している。

これはアップルがApp Storeから得られた知見なのかもしれない。Appleの審査に通らない限り、Apple App Storeではアプリを流通させることができない。しかし、その弊害は、アップルは米国のAppleが審査し、それでいきなり審査が通れば、いきなりリリースだ。リリースされていることを開発者にも目安だけでしか教えられない。しかし、開発者はAppleに30%のコミッションを取られるが、売価の70%は実入りとなるので、自社で製品パッケージを製造して、流通に回して、資金を回収することから考えると決して30%は高いものではない。

しかし、ソフトの大半が有償アプリでも85円でそこそこ楽しめるとなると、アプリの売価にデフレ化が発生してしまった。アップルのプレゼンソフト Keynoteなどが、1000円以下で買えてしまうのであれば、他のメーカーは1,000円以上の価格をつけづらい状況を作られてしまっている。すべては、アップルの審査や動向を気にしなければならないビジネスになってしまった。

それと同様のことが、認証チップの採用によって起きているのが現状ではないだろうか?

iPhone5の発売(2012年9月21日)から、早や4ヶ月が経過だ。 

今までであれば、30ピンのUSBケーブルに採用したサードパーティーが新しい形状のiPhoneやiPadに寸法を合わせて、大量にスピードを上げて提供してくるというビジネスモデルで、サードパーティーにおけるケース産業の市場は大きく伸びてきていた。

しかし、Lightning対応製品は、まだまだわずかだ。

世界に先駆けてというキャッチフレーズの通り、JBLのコネクタ搭載のスピーカーくらいだ。そして、JBLのこの製品は、同時に過去のレガシーである30ピンにも対応せざるをえなくなっている。

アップルの認証チップを採用することによる事務データは膨大になっていることだろうし、それだけ手続きに時間がかかる。さらに、その製品ごとからのアクティベーションされた情報を取得しようとしたら、ユーザーにも事前に許諾が必要となるだろう。

アップルがそこまで認証チップを使ってやりたかったことは何なのか? そこが疑問だ。もしかすると、アップル側のサードパーティーへのライセンス料が問題になっているのかもしれない。

ユーザーに迷惑をかけ、サードパーティーのスピードを遅らせ、ビジネスチャンスを奪ってまで、リバーシブルのLightningコネクタが必要だったのだろうか?

Appleとは、Microsoftと違い、過去のレガシーには興味を持たない、未来のみを見つめる会社だ。

過去に大きなところでは、初のCD-ROMドライブ採用Mac、初代ボンダイブルーiMacによるフロッピーディスク搭載なし、QuickTakeデジタルカメラ、fireWireケーブル(IEEE1394,I-LINK,DVケーブル )の採用、MacOS からMac OS Xへの変更、そしてMacOSの切り離し、電源ケーブルの磁石化とリバーシブル化、iMacのCD-ROMドライブ搭載なし…。

数ある過去のレガシーと決別し、新たな基準を作る企業だ。

その姿勢はとても素晴らしい!すべてが新しい技術として最初に取り入れるリスクテイカーでもある。

しかしだ…。

30ピンケーブルに慣れている生活を、iPhone5Lightningだけで通すならば、せめて、iPhone5発売時には、「Lightning 30ピン アダプタ」は同梱すべきだったろう。現在でこそアダプタは入手できるが、当初は数ヶ月待ちで苦労をさせられた。

Lightningケーブル、いやLightningのドック部分が変わることによって、どんな新たな経験を生み出してくれるデバイスが登場するのだろうか?それが、単にサードパーティーの製品管理用のためだけであったら、Lightning の採用は、夢のない会社の勝手な仕様変更にすぎない。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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