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日本企業はなぜジョブ型賃金制度導入に舵を切ったのか

城繁幸人事コンサルティング「株式会社Joe's Labo」代表

最近、経済系のニュースで『職務給』『ジョブ型雇用』と言ったワードを目にする機会が増えました(どちらも同じもので以降『職務給』で統一)。従来の年功賃金から職務給に切り替えるといったニュースが典型です。

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この職務給とはいかなるものなのでしょうか。そしてなぜ今、日本企業は相次いでその導入に舵を切っているのでしょうか。

もともと日本の年功賃金の方が異質だった

職務給というのは、簡単に言えば担当する業務内容によって賃金を決めるシステムのことです。採用時に「あなたの仕事は〇〇で、給料はいくら」という具合に契約します。実は世界的にはこちらが一般的ですね。

一方、日本企業で一般的な年功賃金(職能給とも)というのは業務内容も範囲も明確にせず、主に勤続年数に応じて昇給していくシステムです。業務内容はその都度会社が命じたものを行うことになるため、時に本人のキャパをこえてしまい過労死のような悲劇が発生することもあります。

余談ですが、「日本人はなぜKaroshi(他国ではそうした現象はないためそのまま英語になっています)するのか。無理のある雇用契約など最初から結ばなければいいだろう」と疑問に思っている外国人は少なくありません。

筆者が「日本の賃金制度は職務内容を明確化せず無制限に上から仕事が降ってくるのだ」と説明するとたいてい驚かれますね。それくらい日本のシステムは変わっているということです。

新型コロナウイルスが後押ししたジョブ化

さて、その日本の年功賃金ですが、それが安定的に運用されるには、会社の規模や売り上げが安定して成長し続ける必要があります。勤続年数に応じて全員を昇給させ、配分するポストを増やしていかなければならないのだから当然ですね。

そしてそれは90年代のバブル崩壊と同時に多くの企業で満たせなくなっていたわけです。特殊な条件下でのみ成立する特殊な賃金制度だから、今後は速やかに職務給に見直すしかありません。

そうした話を筆者は十年以上前からあちこちの企業に提案してきましたが、それがそのまま受け入れられることはほとんどありませんでした。理由は以下のようなものが典型です。

・本当は大して仕事をしていないことが明らかとなってしまう中高年社員が反対するため

・年功賃金を奪われかねないと組合が頑強に反対するため

・経営陣自身が年功でポストについているため

それがどうしてか、頼まれてもいないのに最近、競うように職務給への見直しが始まっているわけです。

きっかけはコロナウイルス対策としてのリモートワーク導入です。従来の日本企業ではフレックス勤務ですら積極活用には消極的な企業が多く、全員で同じ時間に同じ場所でそろって働くことを基本としてきました。

理由は、担当業務が明確化されていない以上、実際の働きぶりを管理職が見て評価する必要があったためです。業務範囲が流動的なため、すぐに声のかけられる場所に集まっておく必要もありました。

ただし、リモートワークではそんな悠長なことは言っていられません。とりあえず各人に持ち帰らせる業務を明確化して切り分けないといけません。評価も、働きぶりではなく担当業務に対する成果で行うしかありません。要するに職務給化ですね。

緊急事態宣言を受けなし崩し的にリモートワークをやってみたものの、上記プロセスの必要性を痛感した企業が多かったというのが職務給導入が相次ぐ背景と言えるでしょう。

筆者自身が10年以上前から口を酸っぱくして言い続けてきたことが、コロナのせいで一足飛びに実現しつつあるのは個人的には微妙な心境ですが、日本企業の進むべき道筋としては極めて順当であるという点は最後に申し添えておきたいと思います。

人事コンサルティング「株式会社Joe's Labo」代表

1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。08年より若者マニフェスト策定委員会メンバー。

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