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未来人材ビジョンが取り上げた日本人のリアル

城繁幸人事コンサルティング「株式会社Joe's Labo」代表

5月に経産省の未来人材ビジョンが出した提言がSNSを中心に反響を呼んでいます。

なかなか読み応えのある内容なので興味のある方にはご一読をおススメします。

【参考リンク:PDF】未来人材ビジョン - 経済産業省

  

特に、反響を呼んだのは34pからの以下の部分でしょう。

「世界的に見て日本人は仕事への満足度が低い一方で転職意欲も最低水準で、また余暇の自己啓発意欲もほとんど持っていない」

日本の労働生産性が危機的水準にあり、日本経済復活のためにはその底上げが不可欠だという話は有名ですが、おそらく多くの人は「こんな状態で生産性向上などできるのか」と不安に感じたはず。

「現状に満足はしていないものの、現状を変えるために自らは動こうとしない日本人」の根っこはどこにあるのでしょうか?いい機会なのでまとめておきましょう。

「自分から動かない人材」こそ日本型組織の標準モデル

実は「日本人の仕事に対する満足度もやる気も異常に低い」というのは最近の話でもなんでもなく、昔から日本企業名物として有名な話です。

今回の提言内で取り上げられ話題となった調査についても、筆者自身、同様のものを数年前に取り上げたこともあります。

【参考リンク】どうして日本人って仕事が嫌いなのに転職や自己研鑽に消極的なの?と思ったときに読む話

そうなってしまう理由は「キャリアに対する主導権」を、個人ではなく組織が握っているためです。

たとえば、以下のような組織をイメージしてみてください。

・入り口は新卒一括採用で、配属されるまでなんの職種に就くかわからない

・数年おきに会社都合で人事異動があり、時に“ジョブローテーション”の名のもと、まったく未経験の職にジョブチェンジさせられることもある

こういう「組織がキャリアの主導権を握る会社」において、自分からどんどん動ける人材と、すべてを組織に預けてくれる人材のどちらが組織にとって便利でしょうか。

明らかに後者ですね。「配属ガチャなんてイヤだ」という人間ならそもそも新卒一括採用は選ばないでしょうし、入社後も意に沿わない異動を命じられれば転職するでしょう。

そういうことを何十年と続けてきた結果が、上記のようなアンケート結果というわけです。言い方を変えれば、日本型雇用によりマッチするように日本人は進化したとも言えるでしょう。

キャリアの“中央集権”を見直すべき時

とはいえ、管理部門などの第三者がすべての仕事内容と従業員全員の適性、希望を把握し、効率的にマッチングさせることは不可能です。

色々な見方はあるでしょうが、日本人の労働生産性を底上げするには、労働者一人一人が自身のキャリアの展望を持ち、それを実現するために自分で努力することが不可欠でしょう。

今回の未来人材会議の提言に対してはいろいろな意見があるようですが、抜本的対策として企業内のジョブ化を挙げている点は高く評価すべきでしょう。

ジョブ化とは勤続年数ではなく担う業務内容で処遇を決める制度です。個人が自身で成長する前提であり、キャリアの主導権を個人が握る制度でもあります。

企業はジョブ化をすすめつつ、新卒一括採用や転勤制度の見直しを通じ、キャリアの決定権の委譲も進めるべきでしょう。

実はここ数年、幅広い業種の採用担当から「最近の学生は配属先などのこだわりが強い」と言う話をよく耳にします。実際、学生の過半数が新卒一括採用より(配属約束付きの)ジョブ型雇用に肯定的だとの調査結果もあります。

【参考リンク】4割以上の23年卒学生が「ジョブ型」を認知。導入している企業への志望度も高いことが明らかに

これは、最近の若者がこらえ性がないのではなく、自身のキャリアの主導権を握ろうとしている良い兆候だというのが筆者のスタンスです。

人事コンサルティング「株式会社Joe's Labo」代表

1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。08年より若者マニフェスト策定委員会メンバー。

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