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経団連会長の就活ルール廃止発言の裏を読む

城繁幸人事コンサルティング「株式会社Joe's Labo」代表

経団連会長が現状の就活ルールの廃止について言及したことが話題となっています。なぜ経団連はこの時期に就活ルールの廃止を表明したのでしょうか。また、それにより就活や学生はどういった影響を受けるのでしょうか。

【参考リンク】経団連会長、就活ルール廃止に言及「日程采配に違和感」

すでに形骸化の進んでいる就活ルール

「来春卒業予定の学生に対しては6月1日より採用活動を解禁し10月1日に内定を出す」とする現在の就活ルールですが、5月1日の時点で既に内定を得ている学生が42.8%に上るなど、実際には形骸化が進んでいます(リクルートキャリア調査)。

理由は経団連傘下でない新興企業や外資系企業がルールに縛られることなく早期に採用活動を展開しており、それに引きずられる形で経団連傘下企業の中にも選考活動を水面下で進める企業があるためです。

真面目にルールを守っていたら人材採用で出遅れてしまう、というのが経団連の本音でしょう。

“就活”は長期化する

では学生にはどういった影響が出るでしょうか。6月以前に前倒しされるのは確実でしょうが、既に現在でもインターンという形式で3年次以前から企業と学生のコンタクトは始まっているため、当面それほどの変化はないかもしれません。

ただし、今後、経団連側が新興企業や外資のインターンに対抗すべく自社のインターンを拡充した場合、インターン受け入れ選考が事実上のプレ採用活動となれば、2年や3年次からも事実上の就活戦線が活発化することになるでしょう。「授業のある平日の時間帯にはインターンや選考活動は行わない」といった新協定の締結が求められます。

ちなみに「学生が長期休暇のたびに何とか即戦力性を身に着けるべく企業のインターンに精を出す」というのは世界的に見れば普通のことなので方向性自体は間違っていません。休暇のたびに旅行に行ったりバイトに精を出していた今までが異常だっただけなので、学生の皆さんは頑張って“文武両道”ならぬ“文職両道”に励みましょう。

新卒一括採用の終焉

もう一つ、経団連会長の発言で重要な部分があります。就活ルールの見直しに加え、新卒一括採用や日本型雇用の見直しについても言及している点です。

「学歴にかかわらず一律の初任給からスタートし、勤続年数に応じて少しずつ昇給させる」という日本型雇用では外国人材はもちろん、近年は日本人優秀層も採用しづらくなっています。若いうちに頑張っても将来報われる保証などないと学生も理解しているためです。

【参考リンク】ファーウェイの初任給40万円はトクかリスクか

経団連が本気で外資や新興企業との人材獲得競争に打って出るなら、個人の希望に沿った個別のインターンプログラムを組み、場合によっては初任給や入社時のポジションを変える必要もあるでしょう。それは事実上、新卒一括採用及びそれをベースとした日本型雇用の終焉を意味します。

就活時期の見直しより、こちらのほうが経団連側の真意だというのが筆者の見方です。

人事コンサルティング「株式会社Joe's Labo」代表

1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。08年より若者マニフェスト策定委員会メンバー。

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