技術者を大切にしない日本企業

ここ数年、東芝やシャープ、ニコン、JDIといった日本の大手製造業で再び早期退職募集がブームとなっている。日本の場合、人員整理は割増退職金等を用意したうえで退職希望者を募集する早期退職募集以外にないからこうなるのは仕方がないことではあるが、組織再生の手段としては非常に効率の悪いアプローチと言える。いい機会なのでまとめよう。

早期退職募集成功のカギを握るのは組織の成長ビジョンの有無

早期退職募集といっても、完全にフリーハンドで退職希望者を募集するお人よし企業はまずない。退職者を募りたい事業部門を絞り、さらに「手を挙げても出来る限り慰留すべき人材」と「手を上げなくても出来る限り退職してもらう人材」に分けたうえで、対象者全員と人事部が面談、経営側の望むような結果に手動で誘導するのが基本のアプローチだ。

ただし、慰留といっても年功序列の日本企業では原則として「残ってくれたらサラリーを3割引き上げますよ」といった柔軟なオファーは出来ない。そこでカギを握るのが「組織の成長ビジョン」だ。

「今の業績落ち込みは一時的なもので、わが社には輝ける未来が待っている。幹部候補の一人として、共にそこを目指そうではないか」

といった話をしてやり、最後はエイエイオーで丸め込むわけだ。

筆者の経験でいうと、2000年前後の第一次早期退職ブームでは、この慰留テクはそれなりに効果があったように思う。新興国の企業から年収ベースで2倍のオファーがあったとしても「いやいや、やっぱり50代になってからも安定雇用してくれる日系大手にいた方が長い目で見て安心だ」と思いとどまった優秀者が多かったように思う。

だが、それから20年近くたった今はどうか。「50代まで我慢すれば悠々自適な部長ライフが待っているぞ」と社員を説得できる日本企業がどれほど残っているだろうか。50代大卒総合職にヒラ社員があふれ、なんらかの転職支援プログラム(=マイルドな追い出し部屋)が常時設置されている企業が大半ではないか。10年先どころか3年先も見通せないほど、多くの製造業は変化の激しい時代に直面しているということだ。

となると、早期退職募集というのは逆に恐ろしい負の効果を発揮することになる。たとえば貴重な技術を持ち、中国や韓国の新興メーカーから高額オファーをもらいつつも転職をためらっている優秀なエンジニアに対し「2年分の年収を退職金に上乗せするから、頑張って転職してごらん」と背中を押してやるようなものだからだ。

筆者は、現在の東芝やJDIが「夢のあるビジョン」を提示できるとはとても思えない。恐らくは“転職持参金”によって優秀層の流出を加速するとわかっていながら、それでも法手続き上、仕方なく目先の固定費を減らしているのではないか。

よく「日本企業は技術者を大事にしない」という意見を耳にするが、実際は「出来る人間にもダメな人間にも等しく甘すぎる」というのが実態だ。本当に必要な人材をつなぎとめるには、切るべき人間は切り、報いるべき人間には報いるという姿勢こそ不可欠なのだ。

毎年5%近く売り上げが成長し続ける時代なら、万人に優しいというスタイルにも意味があったのかもしれない。誰にでもたやすく思い描けるビジョンがあったからだ。だが横ばいが当たり前の時代、場合によっては組織に大鉈を振るう大手術が求められる時代に、終身雇用ありきの早期退職募集制度というのは、筆者には組織を劣化させる死の加速装置のように思えてならない。

通常の解雇ルールにくわえ、整理解雇についても高すぎるハードルを引き下げるべき時が来ているのではないだろうか。