移民を受け入れる前に日本にはまだまだやるべきことがある

現在、減少し続ける働き手を補うため移民受け入れの議論が始まっています。政府もとりあえず高度人材ポイント制などを通じて一定の調整は残しつつ働き手確保のために門戸を広げる方針のようです。ただ、筆者のような実務系の人間からすれば非常に違和感を感じるのも事実です。というのも、そもそも“高度人材”を受け入れて日本企業は使いこなすことができるのか?という強い懸念があるからです。

いまよりずっと景気の良い90年代以前からずっと、日本企業は外国人材の採用と定着に苦労してきました。採用まではこぎつけても、たいていは1年以内に離職されるという経験をどこの人事担当も記憶しているはずです。筆者自身、ビザやら住居の手配やらで数か月かけた欧州出身者に一週間で逃げられた苦い経験があります。そして、その状況は改善するどころかさらに悪化しているように感じられます。

外国人に終身雇用は理解できない

【参考リンク】なぜ日本には外国人労働者が殺到しないのか 日本の「働く国としての魅力」は61カ国中52位

彼ら外国出身者が日本企業を敬遠する主な理由は、上記リンクによれば「労働時間が長い」「キャリアパスが見えない」「報酬が安い」の3点ですが、これは筆者の経験とも一致します。

まず、終身雇用ベースの日本では、他国のように業務量に応じて柔軟に従業員を増減させるのではなく、少数の正社員の残業でカバーするため、どうしても長時間残業が慢性化する傾向があります。

また、正社員=「会社に与えられた業務ならなんでもこなす総合職」という一種の身分であるため、辞令一枚で開発職から営業職に異動もするし、全国転勤も受け入れねばなりません。実際、新卒者であれば内定しても何の業務を担当するかは、実際に入社してみるまで誰にもわかりません。まして、10年後に自分がどこでどんな仕事をしているのかなんて、人事部長にだってわかりません。

給与にしても、単純に同業同規模の日本企業と外資を比較すると、通常3割程度は日系の方が給与水準が低くなるものです。これは日本企業がケチなのではなく、65歳まで雇用することが義務付けられている以上、あらかじめ給与水準に長期的なリスクを織り込んでおかなければならないことが理由です。

ただ、これらの事情は彼らにはなかなか理解されないですね。特に給与水準についてはそうで、別に日本に骨を埋める気のない外国出身者にとっては「今は安くても65歳まで雇い続けてもらえるから」というピーアールは完全に逆効果で、「むしろそんなに長期間拘束されるのならもっといっぱい払ってくれ」くらいの感覚の人が多いものです。

やってくるのは“高度人材”とは真逆な人たち

こういう硬直した労働市場を放置したままで外国人労働者に門戸を開けば何が起こるでしょうか。

恐らく、政府や経済界の期待しているような「高学歴で専門性の高い高度人材」なる人たちはほとんどやってはこないはず。集まるとすれば、学歴やスキルもない人たちだけでしょう。一時的に人手不足感は緩和されるかもしれませんが、出身文化の異なるグループを相対的に生産性の低い業種に滞留させることは、後々まで尾を引く問題となるはずです。

米国やドイツのように移民を受け入れることで安定した経済成長を継続している国があるのは事実ですが、そうした国は移民だけでそれを実現しているわけではありません。移民受け入れを議論する前に、日本にはまだまだ多くのうつべき手があり、労働市場改革はその筆頭だというのが筆者のスタンスです。