日立の「管理職年功序列廃止」は管理職だけで済む話ではない

日立の管理職年功序列廃止という方針について、昨日の報道ステーションでも少しコメントしたが、重要なポイントなのでフォローしておこう。

日立によると、課長級以上の管理職一万人の年功給を廃止し、担当する職務ベースで処遇を決める職務給に置き換える方針とのこと。要するに年功給から職務給へのシフトであり、本気で実現すれば事実上の(少なくとも会社側から見た)終身雇用制度の終焉であり、労働市場流動化への大きな一歩だ。

日立というと重電部門の固い社風というイメージがあったが、やはりグローバル展開する上でガラパゴス的な終身雇用制度の限界は感じていたのだろう。「10年は下積みで泥のように働け、会社が与えた仕事は何でもこなせ」では海外の優秀な人材は絶対にとれないし、近年では国内の優秀な理系人材にも敬遠される傾向がある。戦後日本の象徴でもあるソニー、パナ、日立といった企業の相次ぐ年功給廃止は、他業種にも波及することは間違いない。※

ところで、多くの人は、この変化の重要性に気づいていないようにも見える。ひょっとすると「この動きが広まっても管理職だけだから自分には関係ないだろう」と考えているのかもしれない。でも、“年功”のご褒美としての管理職ポストを会社が否定したということは、年功を積み上げる修業期間であるその前段階、そして採用方法まで、すべてが一変することになる。

といっても分かりづらいだろうから、野球チームで説明しよう。ある球団があるとする。選手はいずれコーチや監督などマネジメントに登用されることと引き換えに、現役時代は低い処遇で頑張っている。ホームランをいっぱい打とうが何勝しようが、お給料はあまり差がつかない。ポジションや練習メニューも本人には決められず、球団側がすべてを決めて割り振ってくる。これが従来の年功序列型の組織というもので、個人の配属希望やエゴを切り捨てる代わりに、組織としての団結力は高い(という建前になっている)。

一方、球団側がある日突然、こんな宣言を出したとしよう。

「これからコーチや監督は完全実力主義でいく。過去の年功はもう関係ないぞ」

何が起こるか。まず、3割30本塁打を打っている4番や15勝しているエースなどは、高額の年俸を要求し始めるだろう。将来ポストが保証されないのだから、タイムリーに年俸でよこせというのは当然だ。

さらに言えば、選手はもう球団が決めたとおりのポジションやレギュラー枠に納得せず、自分の希望するキャリアを主張し始めるに違いない。チームのために年功を積んでもそれが評価されないなら、自分のキャリアを伸ばすことが最優先となるのだからこれも当然だ。というわけで、年功序列チームの選手は、現実のプロ野球選手のごとく、納得できる処遇を求めて流動化するだろう。

世の中には、高い年俸がもらえる仕事、より上位のマネジメントに移りやすい仕事、とてもしんどい仕事など、仕事と言ってもいろいろある。それらを全部ひっくるめてほとんど同じ賃金で誤魔化していたのが年功序列賃金であり、その結果として成立していたのが終身雇用である。ごまかしを辞めると言っているのだから、組織は高い成果やしんどい仕事には高い賃金を払わねばならなくなるし、個人は希望する処遇やキャリアを求めて流動化するはずだ。

日立の経営陣がそこまで意識しているかどうかはわからないが、とりあえずパンドラの箱を開けてしまったのは間違いない。

※とはいえ、実際にどう運用するかはまだ誰にもわからない。実際、降格制度を作ってはみたけれどもほとんど実績がない大企業はいくつもある。