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人間でいえば"96歳”。歩いて診察室に入ってくる犬...長生きの秘訣は?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真 20歳のビーグルは本文に(写真:spinning_wheel/イメージマート)

日本は、超高齢社会に入っています。

厚生労働省よりますと、2019年日本人の平均寿命は女性87.45歳、男性81.41歳です。

犬や猫も人と同じように高齢化社会です。社団法人ペットフード協会によりますと、2020年の犬全体の平均寿命は14.48歳、猫全体の平均寿命は15.45歳です。

そんななか、20歳を超えた犬が歩いて診察室に入ってきて腫瘍の治療をする時代になりました。今日は、この犬の長生きの秘訣なども紹介します。

20歳のビッキーちゃん

20歳のビーグル犬のビッキーちゃん 撮影は筆者 
20歳のビーグル犬のビッキーちゃん 撮影は筆者 

ビーグル犬のビッキーちゃんが当院にやってきたのは、6月中旬でした。

はじめに電話があり「20歳の犬なのですが、腫瘍ができていますので、診てください」ということでした。筆者は、20歳だと聞こえるけれど、本当なのだろうかと思ってビッキーちゃんが来るのを待っていました。

数時間後、ビッキーちゃんは、飼い主さんのMさんに連れられて「やぁ来たよ。よろしくね」という感じでした。そしてビッキーちゃんは、待合室で立って(Mさんに抱っこされるというわけではなく)筆者の顔をじろりと見ました。

第一印象は、歩いていてしっかりしていました。筆者は、春に19歳少し前の愛犬・ラッキーを亡くしたばかりで、ラッキーは数カ月は寝たきりだったからです。

ビッキーちゃんは、2年ぐらい前から胸のところに腫瘍ができてきてそれがだんだんと大きくなり、血が出るようになって寝床などを汚すようになり、かかりつけ医に行きました。

ビッキーちゃんのかかりつけ医は「高齢なので、麻酔をかけて手術をするのはやめておいた方がいいので、様子を見ておいてください」といったそうです。当院が2軒目ということでした。

ビッキーちゃんは当院での治療の甲斐もあり出血も止まり、腫瘍も取れて飼い主のMさんは喜ばれていました。

ビッキーちゃんの治療法を見ていきましょう。

20歳のビッキーちゃんの治療法とは

ビッキーちゃんは、20歳なので人間の年齢に換算すると、96歳になります(この計算方法は後で書きます)。

親指大の腫瘍があるからといって、麻酔をかけたり、局所麻酔で押さえつけて手術をするというのは、Mさんの希望ではなかったのです。「血だけを止めてほしい」といわれていました。

そこで、筆者がした治療法は皮膚腫瘍なので「絞扼(こうやく)」という方法があります。簡単にいえば、腫瘍を皮膚ごと縛る(結紮する)ことです。以下のような方法です。

1、腫瘍の患部に医療用の輪ゴミをかける

2、数日して腫瘍に血がいかなくなり小さくなると1の上からさらにきつく医療用の輪ゴムをかける

親指大あった腫瘍が脱落した様子 撮影は筆者
親指大あった腫瘍が脱落した様子 撮影は筆者

約2週間後に、上の写真のように腫瘍は黒くなり脱落しました。血管が腫瘍にいかないので、壊死して腫瘍が落ちたのです。

ちょうど診察の日に腫瘍がなくなったようです。Mさんは「朝はまだ、大きなかさぶたみたいについていたのに」といわれてびっくりされました。

獣医学的には、腫瘍の部分を少し取り病理検査をして悪性のものかどうかを検査したいのですが、20歳という年齢のこともありこれで、経過観察をしています。

ビッキーちゃんの長生きの秘訣は

イメージ写真
イメージ写真写真:spinning_wheel/イメージマート

筆者は、治療しながらMさんにビッキーちゃんの長生きの秘訣を尋ねました。

ビッキーちゃんは、シニアになった頃から小粒のドッグフードを食べているそうです。ビーグル犬は、食欲旺盛なのでいっきに食べてしまうのです。食べすぎ防止のために小粒にされているとのことです。

それだけで、長生きできるとは思えないので、さらにMさんに尋ねました。

Mさんは「そんなに定期的に動物病院に行っているわけではないのですが、ビッキーちゃんのようすが少しでもおかしいとすぐに連れていっています」といわれました。

ビッキーちゃんは、20歳まで何も病気をしなかったわけではなく、子宮蓄膿症と脾臓の腫瘍ができて、2回も手術をしています。

20歳まで長生きしたのは、もって生まれた体質もあるのでしょうが、それだけでなく、毎日、愛犬のようすを観察して迅速に病気を見つけて、信頼できるかかりつけ医に連れていくということなのでしょう。

それに加えて、諦めずに少し遠方でもどこか他の治療をしている動物病院を丹念に調べることもされたのでよかったのでしょう。

犬の年齢の換算方法

ビッキーちゃんが20歳で人の年齢に換算すると96歳って、それって本当なの?と思われるかもしれません、そこで、今日は犬の年齢換算法もお話しします。

犬には犬の寿命があり、人の年齢にあえて換算する必要もないかもしれません。その一方で、ビッキーちゃんの年齢が20歳といわれるより、人の年齢に換算して96歳といわれる方が、雰囲気がわかりやすいです。より愛犬の老後を考えることもできます。これまでもいろいろな方法で犬の年齢を人の年齢に換算してました。

以下のような方法が一般的に用いられてます。

小~中型犬の場合

(犬の年齢+4)×4=人間年齢

(例)10歳の小型犬の場合…(10+4)×4=56歳

大型犬の場合

12+(犬の年齢‐1)×7=人間年齢

(例)10歳の大型犬の場合… 12+(10−1)×7=75歳

ビッキーちゃんは、ビーグル犬なので、中型犬です。

それで、(20+4)×4=96歳

注意:最近の研究では、犬の年齢を人の年齢に換算するための新たな計算式が明らかにされました。米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)の研究チームは、老化に伴って進行する遺伝子ゲノムDNAのメチル化に着目して犬とヒトとを比較し、2019年11月4日、「犬の実年齢の自然対数を16倍して31を加えた数値が、犬の年齢を人の年齢に換算した年齢である」との研究論文を公開しています。

犬の年齢を人に換算する方法はいろいろとあります。

まとめ

いまの時代、20年間生きてくれる犬が出てきているのです。ペットショップで一目惚れして購入しても20年経ってもその子を愛して終身飼育をしてあげてくださいね。

Mさんは、ビッキーちゃんは20歳という高齢ですが、治療を諦めることなく当院を探して治療をして、足取りよくビッキーちゃんと一緒に帰っていかれました。

ビッキーちゃんは、自分の足で歩いて「そしたら、またね」という感じで診察室を出ていきました。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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