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猫が共食い、部屋には骨の残骸…野良猫より過酷な環境にある飼い猫の実態とは

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

これからは「超高齢化社会」そして「超単身時代」になっていくといわれています。

孤独感を抱く人が増えて、「ペットは、ますます大切な家族の一員」ですね。そのため、さみしさを補うために野良猫を拾って帰る人がいます。

しかし、ペットがいつも快適で安全な環境で暮らしていければいいですが、それができない人が出てくるのが、問題です。

今日は、猫が猫を食べる共食いという環境とは、どういうことかを考えていきましょう。

札幌の一軒家で泣き叫ぶ238匹の猫 床に散らばる大量の骨

2020年の7月に、札幌市の一軒家で238匹の猫が保護されたというニュースが流れていました。200匹を超える猫が民家にいたという猫の数の多さにびっくりしました。そのうえ、部屋に足を踏み入れると、鼻を刺すような悪臭が漂う中、床には大量の骨が散らばっていたそうです。

大量の骨ということは、雌猫が産んだ赤ちゃん猫を他の猫たちが食べていたということです。生き地獄のようなできごとですね。

注意:2020年3月末、238匹の猫たちは市や動物愛護団体に保護されました。

なぜ、床に骨が散らばるのか?

写真:PantherMedia/イメージマート

答えは簡単で、狭い閉鎖空間に不妊去勢手術をしていない雌猫と雄猫がいるので、このような共食いという悲劇が生まれるのです。

不妊去勢手術をしない理由は、以下です。

経済的困窮のため不妊去勢手術の費用を用意ができない

健康な猫に手術をして痛い目に遭わせたくない

などです。

しかし、猫のことを考えていただくと、自分が産んだ子猫を他の猫に何度も食べられることは、残酷ではないでしょうか。

猫は、12時間以上の光を浴びる環境だと、年に2回、3回、発情がきます。発情がくれば、去勢手術をしていない雄猫がいるとすぐに雌猫の発情がわかるのです。

雄猫は、あの雌猫は、最近、出産したばかりだから交配をしないでおこうという配慮はしません。雄猫は発情中の雌猫がいれば、母猫、妹猫、姉猫など関係なく交配をします。

反対に雌猫も、交配したけれど避妊をするということは、ありえないのです。

猫は、交尾排卵動物といって、交配すると排卵し妊娠します。人のように避妊することができないので、発情が来て雄猫が近くにいて交配し妊娠して出産ですね。

そのうえ、多頭飼育になると満足がいくほどの食べ物がない場合も多く、それで子猫を食べられてしまうことになるのです。

多頭飼育崩壊というと、猫の数がやたら目につきますが、筆者は仕事柄、こんな環境にいる猫はどういう健康状態で、それに加えて精神状態なのかと考えてしまいます。

年に数回、産む雌猫の体、そして精神状態を考えると不妊手術の必要性を理解していただけると思います。多頭飼育で猫の不妊手術をしないというのは残酷なことですね。

多頭飼育崩壊の猫は、なぜ野良猫より残酷な環境か?

写真:ロイター/アフロ

野良猫は、確かに食べ物や寝床などがなく、一般的な飼い猫と比べて、過酷な環境にいます。

しかし、外にいるので、室内飼いの多頭飼育の子のように、長い時間人工的な光に当たることがありません。冬になると12時間以上光に当たることがないので、日照時間が短い時期には、野良猫はあまり発情が来ないのです。

そのうえ、室内飼いではないので、閉鎖した空間にいないので、すぐ近くに雄猫がいないこともあります。

そんなことを考え合わせると、多頭飼育崩壊で不妊去勢手術されていない猫よりまだ野良猫の方が、快適な環境だといえるのです。

多頭飼育問題の課題

238匹の猫がいて、そのうえ、床に骨が散乱していたというニュースを聞けば、これは特殊なことで自分には関係がないと思うかもしれません。これほどの数でない場合の多頭飼育問題は、だれでも起こりうる可能性はあるのです。

生きていると、人間関係のトラブル、人生のネガティブなライフイベント(病気、身近な人の死、離婚など)になり、アニマルホーダー(自分の飼育能力を超えた数の動物を飼い、手放すことができない人のこと)になってしまうかもしれないのです。

多頭飼育は、生活困窮者や単身高齢者などがなる可能性が高いのです。地域から孤立したこのような人を出さないためにも、多頭飼育での猫の不妊去勢手術の必要性をみんなで共有することは大切です。

動物は命あるものです。多頭飼育をしている自宅から動物を移送すればいいというものではなく、保護した動物を良い環境に置くシェルターが必要ですし、それにくわえて健康状態がよくない動物の治療もいります。

そのため、動物の数が少ないうちに探知し、早期に相談や指導をすることが大切ですね。猫や犬を飼っていない人も隣人や親が多頭飼育になるかもしれないので、不妊去勢手術の必要性を知識として持っておいてください。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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