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「この子らはなんのために産まれてきたの」赤ちゃん猫をごみ袋に入れて遺棄

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:PantherMedia/イメージマート)

長崎市江川町のごみステーションにへその緒がついた状態の4匹の赤ちゃん猫がごみ袋に入れて捨てられたました。

動物保護団体の人たちが、懸命のお世話をしましたが、4匹の赤ちゃん猫たちは16日までに全て死んだそうです。

この異様な赤ちゃん猫を遺棄する事件について考えてみましょう。

「犯人を捕まえたい」ゴミ袋の中から鳴き声...

「犯人を捕まえたい」ゴミ袋の中から鳴き声...

長崎県では、人口減少の他にも猫の殺処分率が高いという問題もあります。

それは、長崎は温暖でそのうえ、人口減少のために空き家も多いので野良猫が住みやすい環境になっているからです。それでも、長崎市動物管理センターは今回のケースを「特に悪質」と指摘しています。それは以下のような理由です(どんな形でも猫を捨てるのは犯罪ですが)。

□日常的な生ごみと一緒に子猫をごみ袋に入れて遺棄

子猫を生きたものではなく、ごみとしている。遺棄する場合は、箱などに入れて毛布などに包むことが多い。

□発見されにくいようにごみステーションの一番下に置く

一般的な場合は、だれか注意してくれないかな、と一番上や脇に置いて遺棄することが多い。今回はモノにように遺棄された。

なぜ、赤ちゃん猫はすぐに命の危険にさらされるのか?

写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

今回のごみ袋に入れられて遺棄された赤ちゃん猫は、4匹とも死んだそうです。これは、生後間もないということが理由のひとつです。赤ちゃん猫は助けてあげることができないことが多いのです。それは以下の理由です。

□48時間(発見者は2日前ぐらいから子猫の鳴き声を聞いていたので)ミルクを飲んでいない

48時間ぐらいなにも口にしていない可能性があり、脱水や低血糖になっている可能性もあります。

□母猫などが世話をしていないので、排泄がうまくできていない

産まれて間もない赤ちゃん猫は、と母猫などに舐めてもらい排泄をします。赤ちゃん猫は排泄が自分ではできません。

□母猫などが世話をしていないので、赤ちゃん猫は体温調節がまだうまくできない

子猫は、体温調節がまだうまくできず、低体温になることもあります。そのために、毛布などに包んだりします。または、保育器に入れたりします。

□初乳を飲んでいない可能性も

出産後24~72時間以内に出る母猫のミルクを初乳といいます。赤ちゃん猫はこの初乳を飲むことで母猫から強い免疫力をもらいます。初乳が飲めていないと感染症にかかりやすいのです。

「なんのために産まれてきたの」と保護主は叫んだ

写真:IngramPublishing/イメージマート

5月を過ぎれば、野良猫などの出産ラッシュです。今回、事件が起こった長崎だけで子猫の遺棄が起きているわけではありません。全国であります。

同じ6月の中旬に、筆者の動物病院にも地域猫活動をしているAさんが、生後2カ月にも満たない子猫を連れて来院しました。

「マンションのベランダで野良猫が子どもを産んだので引き取ってほしいといわれてね。こんなに弱っているんですよ」といってAさんは、弱っていて目もちゃんと開けていない数百グラムの子猫を診察台の上に置きました。

筆者が受け取るとその子猫は、もう冷たくなっていて腹部もしわしわでした(健康な子猫は、栄養状態もよく暖かく腹部もふっくらしています)。

獣医師という動物の命を救う仕事をしているけれど、もうなにもしてあげらないかもしれないと思いつつアミノ酸やビタミン剤の入った注射をしました。注射をしていてもその子猫は嫌がる元気もなったのです。

翌日、Aさんは診察室に他の保護猫を連れてきて、次のようにいいました。

「あの子、夕べ、亡くなりました。あんなにかわいい子なのに、すぐに亡くなってね。なんのために産まれてきたのと思うと私はいたたまれなくて」とAさんは、涙声になりそれ以上話すことはできませんでした。

筆者は、Aさんの気持ちに寄り添うだけでなにもいうことはできませんでした。

相次ぐ子猫の遺棄をどうする?

子猫を遺棄することは、動物愛護法違反による犯罪行為です。

猫は繫殖力が旺盛な動物です。雄と雌を飼ば、1年間で20匹ぐらいに簡単に増えます。避妊手術をしていない雌猫が、たまたま数時間家出を1回しただけ、と飼い主は思っているかもしれません。

たまたまではなくそういう場合は、交配をした可能性が高いのです。そのための家出ですから。雌猫は、飼い主に交配してきたとは報告しないので、それから約2カ月後に、出産することになるのです。

それを防ぐためにも、不妊去勢手術は基本ですね。このことをよく理解してもらうために、学校教育などで啓発しないと根本的な解決にならないかもしれません。命の教育の時間を設けて、しっかり指導することが望まれますね。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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