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冬到来 いまどきの犬の服事情 「裸にしてから診察してください」ってどういう意味

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:アフロ)

童謡『雪』の歌詞に「♪雪やこんこ あられやこんこ 降っても降っても まだ降りやまぬ 犬は喜び 庭駆け回り 猫はコタツで丸くなる♪」とあります。犬は、寒さに強く、雪の中を走り回っているイメージがありますね。冬になって服を着ている犬を見ると飼い主に対して「チャラチャラしているんじゃねーよ!」と怒っている人がいるかもしれません。しかし可愛いだけで、服を着ているのではないのです。今回は、現在の「犬の服事情」を解説します。

チワワはメキシコ原産

ある日の診察室の風景。チワワを治療するために、私は飼い主から彼をお預かりして、診察室に連れていきました。「この子の服、脱がしてもいいですか」「裸にしてもらって大丈夫ですよ」と飼い主から答えが返ってきます。「犬の裸って何なのだろう」と思いながら、その子の服を脱がす。冬になると、チワワは、ジャケット、セーター、Tシャツと重ね着でやってくる子もいます。なぜ、チワワはこんなに厚着するのか。それは、原産地は、メキシコなので、日本の寒さには耐えられない。さらに、日本のチワワは、2キロ前後の子が多く、痩せているので、寒さに弱いのです。まさに骨身に沁みるという感じなのでしょう。現実に、耳が霜焼けになる子もいるほどです。だから、彼らは、厚着をして病院にやってくるのです。冬場に服を着ていないと、具合の悪くなる子もいます。寒さに弱い子を簡単にまとめると以下です。

・原産地が暖かい国の子(チワワ)

 もちろん、診察に来るチワワは日本で産まれていますが、原産地はメキシコなので、日本の寒さには耐えることが難しいようです。いまの時代、世界中の原産の犬たちが暮らしています。

・体重が2キロ前後の子 (トイ・プードル、ポメラニアン、チワワ、ヨークシャー・テリアなど)

・毛が少ない犬 (イタリアン・グレーハウンド、ヘアレス・ドッグなど)

・シニアの犬

・がんなどの慢性疾患を持っている子

シニア犬

撮影筆者 17歳のシニアの愛犬に服を着用
撮影筆者 17歳のシニアの愛犬に服を着用

ほんの20年前なら、犬の寿命も10年もないぐらいでしたが、最近では長寿の犬が多くなり、犬でもシニアになると寒がりになっています。以前、往診に行ったシベリアンハスキー(もちろんシベリア原産)が、石油ストーブの前で、毛布を被って座っていました。シベリアンハスキーなどは、寒さに強い犬の筆頭なのですが、寄る年波には勝てないのです。柴犬、秋田犬、シベリアンハスキーなどのトップコート、アンダーコートなどがあり、毛が多い子でもシニアになると寒がりになり、服が必要になります。

がんのために温活

撮影筆者の知人 がんのために温活で服を着ている猫
撮影筆者の知人 がんのために温活で服を着ている猫

がんの子になる原因はいろいろとありますが、ひとつは免疫不全です。そのため、体を冷やすとよくないので、服を着ている子もいます。いまの服は進化して、前足、後ろ足まで、しっかりと覆われている服もあります。寒い時期、通院される子たちは、しっかり防寒対策されています。

術後着

避妊手術などで、腹部を開腹した子は、患部を舐めないために、術後着の子もいます。以前は、首にエリザベスカラーなるものをしてもらっていたのですが、動きにくいし、食べにくいので、服だけで大丈夫なのです。

皮膚病の子

アトピー性皮膚炎などを持っている子は、治療をしていても24時間、痒みが伴います。彼らは仕事をしているわけではないので、食事をしている以外は、ずっと掻いている子もいます。そんな子は、鋭い爪から皮膚から守るために、体を多く覆うような服を着ています。

換毛期に

犬は、年に2回、換毛期というものがあり、夏毛や冬毛に変わるのです(トイ・プードル、ミニチュア・シュナウザーなどの巻き毛の子は換毛期はない)。そのときに、室内飼いをしていると、部屋中に毛が飛ぶので、服を着せて、毛を飛ぶのを防止しています。部屋の掃除の手間も省けます。

雨の日に

雨の日も散歩したい、外でないと排泄をしない犬はたくさんいます。そんな子のために、服のひとつであるレインコートを着ている子もいます。犬は体を振れば、水分が多少はじけますが、やはりレインコートがあると濡れないですね。

進化した服

人の間でも、冬になると着ると暖かい素材の下着などがたくさん売られています。繊維が進化しているので、それほど重ね着をしなくてもこのような素材の繊維だと大丈夫です。彼らにも暖かい素材でできた服があります。日本製にもありますが、北欧製の洋服は、機能的に防寒に優れたものもあります。

おまけ 温活用品

撮影筆者の知人 ネックウォーマーをつけています。
撮影筆者の知人 ネックウォーマーをつけています。

服だけではなく、犬用のマフラー(ネックウォーマー)もあります。首は大きな血管が表面にあるおかげで、温活すると効果的に温めることができます。わざわざ購入しなくても、外出のときに、フリースを犬の首のサイズに裁断して使うのもいいですね。

まとめ

昭和の時代なら、犬は外で暮らしていたので、犬に服って「チャラチャラしているんじゃねーよ!」と思われていたかもしれません。時代は流れて、いまや家族の一員で、寿命も飛躍的に延びて、犬の事情があることをご理解いただければ、と思っています。彼らはフサフサの毛に覆われていますが、やはり冬は寒いのです。ちょっと服を着ることで、病気になるリスクを減らしたり、快適に過ごすことができるのですから。2キロにも満たないチワワは、服を脱ぐとやはり震えています。いまの時期、診察を終えるとちゃんと服を着せて飼い主のところに彼らを連れて行っています。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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