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「タバコ」喫煙から見えてきた「ジェンダー・ギャップ」とは、聖路加国際大学などの研究

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(提供:イメージマート)

 ニュースなどで「ジェンダー・ギャップ」なる言葉を耳にするようになって久しい。聖路加国際大学などの研究グループが調査したところ、喫煙行動から新たな男女格差が見えてきたという。

ジェンダー・ギャップ指数と喫煙率の関係

 世界経済フォーラムは、ジェンダー・ギャップ指数(GGI)を発表し、各国の順位付けをしている。日本は146カ国中125位(2023年、1位はアイスランド)とかなり低く、特に政治参画と経済参画で他国と差がついている。

 男女格差といえば喫煙率だ。2022年の国民生活基礎調査によれば、男性の喫煙率は25.4%、女性は7.4%、男性で最も喫煙率の高い40代は34.6%、女性は12.0%で、日本で男性の喫煙率は女性の3倍ほどになる。

 地域別にみると、男性の喫煙率に大きな地域差はないが、女性の喫煙率が高くなるとその地域の全体の喫煙率が上がる。興味深いことに、喫煙率に男女差が少ない国はジェンダー・ギャップ指数も高くなる傾向が見え、1位のアイスランドは全体の喫煙率は低いものの、男性より女性の喫煙率のほうが高い。

ジェンダー・ギャップ指数の上位5カ国と日本の男女喫煙率(喫煙率はWHO
ジェンダー・ギャップ指数の上位5カ国と日本の男女喫煙率(喫煙率はWHO "The Global Health Observatory," 17, December, 2022)、グラフ作成筆者

タバコを吸ってもストレス解消にはならない

 よく喫煙者はタバコを吸うとストレスが解消されるというが、ニコチン切れの渇望が解消されることを自らのストレス解消と勘違いしているだけだ。喫煙行動とストレスを結びつけたのは、タバコ会社の策略ということが明らかになっている

 タバコを吸ってもストレスの根本的な解消には全くならないが、喫煙はよくそう勘違いし、強いストレスを感じている人がタバコを吸い始め、なかなか禁煙できないということはある。また、社会経済的な格差が喫煙と関係し、ストレスを感じる階層で喫煙率が高いことも広く知られている事実だ(※1)。

 タバコを習慣的に吸い始めるのは思春期からが多い。喫煙行動とストレスとの関係には、年齢・年代や性別による違いがあると考えられているが(※2)、若年層の男女で喫煙行動を調査・研究した報告はまだ少ない。

男性と女性の違いとは

 では、特に若い世代で喫煙行動とストレスにどんな関係があるのだろうか。聖路加国際大学などの研究グループが、厚生労働省が行っている国民生活基礎調査(2017年)のデータを用いて20歳以上40歳未満の人の喫煙状況(「毎日喫煙する」「時折喫煙する」、喫煙者は男性2828人、女性891人)、ストレス(仕事、経済的不安、家族関係、対人関係、時間的不自由さ、人生の目的の喪失など)との関係を解析し、その結果を専門雑誌で発表した(※3)。

 その結果、この年代では、男性の喫煙行動とストレスとの間に目立った関係が見られなかったのに比べ、女性では喫煙行動と仕事、経済的不安、時間的不自由さといったストレスとの間に強い関連性があることがわかった。この男女の違いは20歳代から30歳代で顕著であり、同研究グループは若い女性が感じる多様なストレスへの対処と効果的な禁煙指導の必要性を指摘している。

 ただ、ストレスが若い女性の喫煙行動にどう影響するのかについては、まだよくわかっていないとし、同時に男性の喫煙行動とストレスとの関係の弱さに関しても継続して調査研究をしていくとしている。

 日本人の場合、喫煙と精神的な重圧(ストレス)との関係では、女性や20代から40代前半のほうが影響を受けやすいという調査結果が出されている。非喫煙者を基準にすると、精神的な重圧を受けている女性や若い世代のほうがヘビースモーカーになりやすいという(※4)。

 若年層がタバコを吸い始める動機や環境も様々であり、家庭環境や社会経済的な格差などが影響していると考えられている(※5)。「タバコは吸わない」という確固たる決意(喫煙感受性)の程度が低いほど、タバコに手を出しやすくなるが、加熱式タバコなどの新型タバコへの規制を含む多様な規制が重要だろう。

 男性の喫煙行動がストレスとあまり関係しないというのは象徴的だ。冒頭で紹介したジェンダー・ギャップ指数と男女の喫煙率との関係は、女性の社会経済的なストレスの低さを表しているのかもしれない。

※1-1:Marie-Rachelle Narcisse, et al., "Association of psychological distress and current cigarette smoking among Native Hawaiian and Pacific Islander adults and compared to adults from other racial/ethnic groups: Data from the National Health Interview Survey, 2014" Preventive Medicine Reports, Vol.25, 8, December, 2021
※1-2:Olga Perski, et al., "Associations between smoking to relieve stress, motivation to stop and quit attempts across the social spectrum: A population survey in England" PLOS ONE, doi.org/10.1371/journal.pone.0268447, 17, May, 2022
※2:Erica Holliday, Thomas J. Gould, "Nicotine, adolescence, and stress: A review of how stress can modulate the negative consequences of adolescent nicotine abuse" Neuroscience & Biobehavioral Reviews, Vol.65, 173-184, June, 2016
※3:Ayuka Yokohama, et al., "Gender Analysis of Stress and Smoking Behavior: A Survey of Young Adults in Japan" social sciences, Vol.13(3), 128, 23, February, 2024
※4:Kimiko Tomioka, et al., "Association between heaviness of cigarette smoking and serious psychological distress is stronger in women than in men: a nationally representative cross-sectional survey in Japan" Harm Reduction Journal, Vol.18, article number27, 4, March, 2021
※5:Christopher Tate, et al., "Socio-environmental and psychosocial predictors of smoking susceptibility among adolescents with contrasting socio-cultural characteristics: a comparative analysis" BMC Public Health, Vol.21, article number 2240, 9, December, 2021

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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