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完全室内飼いの「ネコ」にも危険がいっぱい。ちょっとした体調変化に注意を

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:アフロ)

 ペット飼育可の集合住宅や一人暮らしの飼育率が増え、室内飼いのネコが増えている。当然だが、ヒトに有害なものはイヌやネコにとっても有害だ。完全室内飼いのネコでも危険はあちこちにある。

ストレスを与えないために

 ネコに百合(ユリ科ユリ属、ススキノキ科、キジカクシ科スズラン属、花粉、葉、花弁)などの植物が有害なのは有名だが(※1)、完全室内飼いのネコで注意が必要なのがストレスだ。

 ネコが自宅に放置された時間経過で、飼い主に対する反応をどう変化させるのかを調べた研究によれば、放置されていた時間が長いほどネコが社会的な関係性を構築するように振る舞ったという(※2)。つまり、長く放置されると、ネコはストレスを感じ、飼い主に甘えようとするわけだ。

 ただ、外へ出さない室内飼いのネコが世界的に増えているのにもかかわらず、ストレスなどネコの福祉的な側面についての研究はまだ少ない。飼われている環境や飼い主の飼い方、行動などが多様であり、比較しての評価が難しいことが背景にあるようだ(※3)。

 では、どれくらいの面積がネコのストレス軽減に必要なのだろうか。

 複数の論文を比較検討したシステマティック・レビュー(※4)によれば、保護されたばかりだったり来歴がわからないネコの場合、隠れ場所を用意したり、環境変化を少なくし、可能なら同じ場所で保護されたネコやすでにグループが形成された仲間ネコと同じケージに入れたほうがいいという。また、多頭飼いの研究によれば、1頭あたりの面積が増えればそれだけストレスも軽減されるという(※5)。

 ネコも家畜化される過程で社会性を持ったと考えられ、遊びなど飼い主や同じネコ仲間との接触も重要だ。一方で孤独を好むので、1頭で隠れる場所(隠れ箱)も確保したい。飼育面積は広いほどいいし、天井が高いなどの環境にもよるが、少なくとも1頭あたり18平方メートルほどが必要だろう。

ペルメトリンやエチレングリコールに要注意

 イヌと一緒に飼っているネコの場合、ピレスロイド系(SPs)の殺虫剤であるペルメトリンが配合されたイヌ用のダニ駆除剤には要注意だ。この薬剤はジョチュウギクの天然成分から作られている神経毒のため、蚊取り線香にも含まれている。

 ヒトやイヌを含むほとんどの哺乳類に対し、それほど強い毒性はないが、それは肝臓などで無害化されるからだ。

 だが、ネコはこの無害化の機能を持っておらず、イヌに噴霧されたペルメトリンを舐めるなどした場合、体内で毒性をあらわして発作、嘔吐、下痢、発熱、痙攣、震え、呼吸障害、失明といった中毒症状を引き起こす。

 症例が増えるのが夏や秋ということで、イヌ用などのダニ駆除剤としてペルメトリンが使われる時期に重なるようだ。少量のペルメトリンでも重篤な毒性を引き起こすことが知られ、有効な治療法も解毒剤もないため、ネコにとってかなり危険な薬剤となる(※6)。

 このほか、保冷剤や不凍液、有機溶剤などに使われるエチレングリコールもネコには致死的な物質だ。ネコの場合、体重1キログラムあたり1.4ミリリットルが致死量とされている。症状は、嘔吐、不安障害、腎不全、電解質の不均質などとなっている(※7)。

 これらの植物、薬剤、物質を舐めたり飲んだりした痕跡があり、症状が出たらすみやかに獣医師の診察と治療を受けることが重要だ。

受動喫煙の害

 飼い主が喫煙者だった場合、室内飼いのネコが受動喫煙にさらされる危険性が高い。

 ネコの受動喫煙では、口腔扁平上皮がんなどの悪性リンパ腫などにかかるリスクがある。受動喫煙環境にあるネコが悪性リンパ腫にかかるリスクはそうでないネコの2.4倍で、5年以上の受動喫煙では3.2倍になることがわかった(※8)。

 また、タバコの吸い殻をネコが食べてしまう事故もある。イヌの場合、ニコチンの経口致死量は最小で体重1キログラムあたり9.2ミリグラムと考えられている(※9)。

 当然、ネコではもっと少量で危険になる。タバコ1本に含まれるニコチンの量は7ミリグラム程度と考えられ、体重4キログラムのネコの場合、5本ほどで致死量に達する危険性がある。

化学物質がおよぼす影響

 合成洗剤、香り付き柔軟剤、消臭剤などに含まれる化学物質により、頭痛や吐き気などの体調不良を引き起こすヒトが増えているが、こうした健康被害は「香害」とも言われ、大きな社会問題になっている。

 こうした製品には、可塑剤、界面活性剤、内分泌攪乱物質、香料、紫外線吸収剤、乳化剤、PFAS(有機フッ素化合物)などの有毒な化学物質が含まれており(※10)、効果を長続きさせるためにマイクロカプセルというマイクロプラスチックも使われている。当然これらはネコにとっても有害だが、ペットに対する影響の研究はほとんどない。

 ただ、PFASについては、ネコへの影響に関する研究がある。PFASは、消火剤、コーティング剤、包装材など、日常で使う多くの製品に含まれ、最近では米軍基地などから環境へ多量のPFASが流出して社会問題化している。

 PFASは生活環境中で粉塵化することが多く、ヒトの場合は呼吸器などから体内へ入る。ネコは呼吸からも摂取するが、毛繕いするために毛などについたPFASも舐め取ってしまい、甲状腺機能障害などの内分泌関連疾患の原因になっているようだ(※11)。

外へ出すのも危険

 もちろん、飼いネコを外へ出すことは、人獣共通感染症の感染リスクを増やす。ネコが外を出歩いた結果、ネコと野生動物の間で感染する人獣共通感染症が飼いネコの家庭へ持ち込まれるリスクも増える。

 例えば、トキソプラズマ症だ。この病気はトキソプラズマという寄生性原生生物(原虫)によって起きる人獣共通感染症で、ヒトや鳥類を含む多種多様な温血動物が中間宿主となり、ネコが終宿主となる。

 トキソプラズマ症は、ヒトが感染しても免疫機能が正常な場合、症状の出ない不顕性だったりする日和見感染症なため、それほど恐れることはない。だが、妊婦が感染すると胎児が先天性トキソプラズマ症になることがあり、低出生体重や水頭症、視力障害、遅発性障害などが引き起こされる危険性がある(※12)。

 コリネバクテリウム・ウルセランス菌によるコリネバクテリウム・ウルセランス感染症も、イヌやネコなどのコンパニオンアニマルを感染源にすることがある人獣共通感染症だ。この病気はジフテリアによく似た症状を示し、各国から報告されている。コリネバクテリウム・ウルセランス菌は、ネコで多く発見され、日本でも野良ネコからの感染と考えられる死亡例がある(※13)。

 ネコは近隣の生態系にも大きな悪影響をおよぼす。感染症の感染リスクを減らすためにも、ネコは外へ出さずに室内飼いしたほうがいい。

 だが、ネコ砂由来のベントナイトの粉末を吸い込んだヒトの呼吸器障害の例があるように(※14)狭いワンルームでベッドの横にネコ砂を入れたトイレがあり、飼い主が喫煙者なら、飼い主にとってもネコにとっても劣悪な環境といえる。

※1:Kevin T. Fitzgerald, et al., "Lily Toxicity in the Cat" Topics in Companion Animal Medicine, Vol.25, Issue4, 213-217, November, 2010
※2:Matilda Eriksson, et al., "Cats and owners interact more with each other after a longer duration of separation." PLOS ONE, doi.org/10.1371/journal.pone.0185599, 2017
※3:Rachel Foreman-Worsley, Mark J. Farnworth, "A systematic review of social and environmental factors and their implications for indoor cat welfare" Applied Animal Behaviour Science, Vol.220, 104841, November, 2019
※4:Lauren R. Finka, et al., "A critically appraised topic (CAT) to compare the effects of single and multi-cat housing on physiological and behavioural measures of stress in domestic cats in confined environments." BMC Veterinary Research, doi.org/10.1186/1746-6148-10-73, 2014
※5:Jenny M. Loberg, et al., "The effect of space on behaviour in large groups of domestic cats kept indoors." Applied Animal Behaviour Science, Vol.182, 23-29, 2016
※6:Lara A. Boland, et al., "Feline permethrin toxicity: Retrospective study of 42 cases" Journal of Feline Medicine and Surgery, Vol.12, 61-71, 1, February, 2010
※7:Angel Thompson, "Common toxicological conditions in the cat" Veterinary Nursing Journal, Vol.27, Issue9, 344-346, 21, November, 2014
※8:Elizabeth R. Bertone, et al., "Environmental Tobacco Smoke and Risk of Malignant Lymphoma in Pet Cats." American Journal of Epidemiology, Vol.156, Issue3, 268-273, 2002
※9:Thomas E. Novotny, et al., "Tobacco and cigarette butt consumption in humans and animals" Tobacco Control, Vol.20, Issue Suppl1, 4, April, 2011
※10:Jeonghoon Park, et al., "Suspect and non-target screening of chemicals in household cleaning products, and their toxicity assessment" Environmental Engineering Research, Vol.29(1), 19, May, 2023
※11:Jana M. Weiss, et al., "Per- and polyfluoroalkyl substances (PFASs) in Swedish household dust and exposure of pet cats" Environmental Science and Pollution Research, Vol.28, 39001-39013, 20, March, 2021
※12-1:J P. Dubey, et al., "All about toxoplasmosis in cats: the last decade" Veterinary Parasitology, Vol.283, July, 2020
※12-2:保科斉生、「トキソプラズマの血清学的検査と国内の感染状況」、モダンメディア、第68巻、第8号、2022
※13:岩城正昭、「コリネバクテリウム・ウルセランス感染症」、モダンメディア、第66巻、第7号、2020
※14:小林照和ら、「ケイ酸アルミニウムによる呼吸器障害の3例」、日本救急医学会雑誌、第12巻、136-140、2001

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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